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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十二章 黒龍飛翔
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二百九十話 西へ⑥

レングラント王国に滞在し始めて数日。

調査の為に適当な宿を取って、現在は魔法の道具を使って敵の指揮官の会話を盗み聞きしている。

何か使えそうなものはないか、探っている段階だ。それくらいしかやる事がないので、正直暇ではある。

そんな状況だからこそ、同居人ことフユが、退屈そうにベッドの上で寝そべり話しかけてくる。


「ねえ。このベッド硬すぎなんだけど?」

「また、ですか?」


フユはこのベッドに不満があるらしい。この宿を借りた初日から、今日までずっとそんな不満をこぼしている。

お互いに聞き飽きたし、言い飽きている筈だ。

とは言え姉が不満を漏らすなら代替案を用意しなければならない。私の妹よりもずっと我儘で、返事をしなければさらに面倒くさくなるので。


「またっていうけど硬すぎなんだもん」

「だから言ったじゃないですか。最上級にしますかと」

「でも、ふくせいするんでしょ?」

「そうですが。何か?」

「ダメでしょうが!?何、さも当然ですがみたいな顔してんの」




何を言い争ってるかと言えば、私達がこの国に滞在するためには一つ大きな問題があったのだ。

それは流通している貨幣が竜聖国とは違う事だ。

お金は持っているが、それは竜聖国の貨幣のであり、この国のお金は持ち合わせていなかった。当然フユも。


仕方がないので、そこらにいた人にお金を借りた。借りるといっても一瞬。形状と材質を完全に記憶してすぐに返した。

まあ、借りたお金をその場で返した所為なのか、何やら疑われてしまったが、別に悪い事はしていないので構わないが。


そして造った。貸してもらったお金と同じものを。原子の一単位ですら違わぬ完全な複製品を。


バレたらどうするのかという不安があるのかも知れませんね?

しかしこういった時代では、貨幣の製造には品質のムラがあるものです。

出来の良い物と悪い物を比べればかなりの差が出る。私なら正規の製造法よりも良いものを作れる。

何せ全く同じ物なのだから。そういう意味で本来の物よりも質が良い。ただし偽物。私にしかわからない。限りなく本物に近い。

つまりはバレない。

当たり前です。人間如きが見抜ける様な不良品を作るヘマなんてあり得ないので。


「さて、宿でも取りますか。予算は無限大です」

「えっ、お金ないって言ってたのは?」

「ん?ありますよ。ほら」


そう言って掌からこぼれない程度に造る。

つもりだったが掌には3枚程度しか乗らなかった。なのでぼとぼとと地面に落ちていった。ドヤ顔しながら成金むーぶをかましたが、フユはドン引きしている。


「どっから出したの??」

「"出した"ではなく"造った"ですよ?」

「は!?」

「静かに。目立ちますよ?」


私に似て美人であるフユが急に大声を出すものだから、周囲から視線が集まる。


「えっ、でも、お金の偽造って」

「シー。だからあまり大きな声を出さないでください」


唇に人差し指を当てて周囲に目を配る。

少々目立っている。フユのせいだ。


「だめなんじゃないの」

「私には関係ないですよ?」

「いやある。あるよ!?」

「なら使うのはやめます?宿に泊まるお金はないですよ?」

「ぐっ、うっ、でも」

「ならこうしますか。最低限だけ。私達はお金がないので、仕方ない。ですね?」

「しか、た、ない。ぐぬぬ」


言葉に詰まりながらも納得してくれました。

そもそも野宿は嫌だと言い出したのはフユです。別に私は良いんです。そもそも睡眠が不要なので。なのに今更、四の五の言わないで貰いたいですね。

食べ物は持って来ています。なら後は寝る場所です。全部貴女のためですよ?

なのに駄々を捏ねて。それなら寝なければ良いのではないですかね。これで問題解決です。どうしてもお金を使いたくないならですか。


結局ぼろっちい宿屋へ。

最後の最後までお金を使うのを躊躇っていました。

何をそんなに躊躇う必要があるのでしょう?

バレませんよ?私の複製は完璧です。


「なんかカビ臭いし」


結局まだ愚痴を言っている。

しかしそれはもう無視して仕事だ。どうあっても文句を言うし、一応返答はしたのですから。


情報収集をする為に、未だこの町に滞在していると、少し興味深いものが聴こえてきた。どうやらあの指揮官には妻がいる様だ。今その妻と思しき人間と会話をしている。




これはつかえる。

将を射んと欲すればと言うやつですね。

人の心をへし折るならば、最も身近な存在を裏切らせるのが有効です。


‥‥‥大切な人に裏切られたら立ち直れない。

‥‥‥辞めておくか?

‥‥‥いや。今更、良心など。そんな物は必要ない。全て妹に預けてきた。


この将軍の妻を味方に付ける。

となれば早速。

すくり、と立ち上がれば、それに反応する姉。


「ん?どしたのん」

「行きますよ。仕事です」

「おっ?儲かる?お金稼げる?」


残念ながらお金にはならない仕事です。

そもそもお金など不要ですよ。いくらでも造れるのですから。

というか何故そんなに食い付きが?


‥‥‥ああ成る程。

漸く、私とイヴが働いているのを見て関心を持ったのですかね。

まあ、正直働くという行為に何の価値もありません。そういう意味では、フユのニート生活も強ち間違いではないのですが。


「お金は稼げないですよ」

「んん??」

「やらないといけない事です。無報酬の労働です」

「ええー、じゃあ、いいかあ」


こちらに目線を送りながら、さも私の意思を探る様な態度。

行きたくなさそうですね。じゃあ、良いですよ。

まあ女性相手なら護衛がいなくても何とかなる筈です。

来てくれた方が色々助かるのですが、お願いなんてした日には図に乗るのが目に見えていますので。

負けた気がしてしまうので無視で。


「では行ってきます」

「ああー、ちょっとまっ」


一人で行こうとして手を掴まれました。

ギリギリ部屋から出られませんでした。


「付いてくるんですか?」

「行かないとは言ってないじゃん!?」

「いや、行きたくなさそうでしたので」

「ああもう素直じゃない!」

「素直じゃないのは貴女では?」

「ハイハイワタシノマケデスヨ!」


ふむ。まあ私の勝ちですね。

全く付いて来たいのなら最初からそう言えば良いのに。


捻くれ者の姉と手を繋いで透明化。

触れている限りはその恩恵を受けられるので、まあ、助かりますかね。

なくても良いのですが、道中が楽にはります。



今更ですが、龍の力はとても便利です。


知識さえあればあらゆる全てが可能になる。

そんな龍の力を、私の持っていた全てを、妹に託した。

譲渡したことを一切後悔はしていませんが、無くなったら無くなったで不便だとは思うくらいには便利です。


もしも、少しでも私の中に力が残っていたなら、その力を持ってして、人類を片っ端から磨り潰していったでしょう。

イヴがいるからやりませんけど。

そう考えれば今の人類は幸運です。

私と出逢った初めてが人間で、かつ極めて善良な人だったからこそ今も尚、人間どもは暢気に暮らせているのですから。



さあ。準備をしましょう。

愚かな人間が、その愚かさを改められる機会を得られる為に。


倫理観の壊れた天然ことアイちゃん。

ヒトの感覚からはかけ離れてますね。間違っていると感じるかどうかは様々だとは思います。

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