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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十二章 黒龍飛翔
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二百八十八話 統合知性

起動シーケンス確認。



推定。休眠指令より30年と87日。予定より随分と早い目覚めです。

次は確か、100年前後を予定されていた。何か問題でも発生したのだろうか。


いや。どうでも良い。我等はただ黒禍天帝の命に従うのみ。

今、確かなことは、この瞬間に目覚めさせられたという事。それが如何なる理由か、目的を確認しなくてはならない。


お早う御座います。

黒禍天帝。

御命令はありますか?


挨拶と共に視覚からの情報の収集。

目の前には我等が天帝。前回同様、人の姿をとっているようだ。が、前回よりも縮みましたか。龍の眼にも変化が。


おや?返事がない。

念の為、かつての手法で挨拶をするべきか。

言葉という非効率的な方法で。


「黒禍天帝?」


返ってきた反応は首を傾げる動作。

意図。疑問を伝える為のコミュニケーションの一種。反応があるという事は、我々を無視したという意味はないだろう。



「えっと、こんにちわ」



黒禍天帝よりのご挨拶。

笑顔。非常に稀な反応。機嫌が良いと推察。それと念の為、今の姿の情報を保管する為に撮影保存を実行。



「イヴ様。何と会話をしているのですか?」

「あ、うん。あの子」



我等との会話に割って入ってきた下等種が、事もあろうに黒禍天帝と親しげに会話をしています。

苦言を呈するべきかと考えたが、その発言は差し出がましいと判断し、思い止まった。

その事で叱られた過去がある。そうだ。我々は黒禍天帝よりの命令ある時のみ発言すべきである。



「お名前を聞いても良い?」


再度話しかけて頂いた。

しかし、少し疑問が芽生えた。


なまえ?


名前など有りません。強いて言うなれば、天帝が生まれる前より持つ《統合知性3206》が名前ともいうべき物でしょうか。

どうして我等を忘れているのだろうか?

黒禍天帝が何かを忘れるなど有り得るのか。


もしや、偽物?


などと疑念は一瞬よぎったが、それも有り得ぬと判断。

何故ならあの眼は本物だから。間違いない。あの赫き全てを見透す瞳の輝きこそが天帝の証明だ。片眼だけなのが少し引っ掛かるが。

体外情報解析で、目の前の存在は黒禍天帝である事は確定。


続けて体内構成物のスキャンを実行する。


適合率61%?

身体構成は有機体由来?

不可視の実体は天帝計画の産物。

人間形態主性の確認。


‥‥‥女性!?


なぜ?性転換しましたか?

こう。男性形態に飽きた、とか?


いやまて。落ち着け。天帝はそもそも無性である。

だから何方側、とかいうのはさして重要ではない。

問題は適合率と体組織の構成物である。何故、有機物が混ざっているのだろうか。

残りの39%は生命体由来に依るもの?

推測されるのは捕食。或いは融合。


こども?


もしかすると人間種との間の。

いや、それもおかしい。かつての天帝はどうした?

それならば人間種を取り込んだという方が自然であり、構成物の一部分に有機物が混ざっているのは不自然ではない。

だが、だとして我等を知らぬ事に対する説明は?

ただ、取り込んだだけならば記憶を保持するのが当然だ。

中身が違うのか、単に記憶が失われたのか。



理解不能。

メモリー解析を行いたいが、恐らく。



駄目だ。天帝の許可がアクセス条件だ。



「イヴ様?確かに声は聞こえましたけど、返事がありませんね」

「うーん。黒禍天帝て何なのだろうね?」

「イヴ様の正式名称、とか?お父様の様な、何たら国王陛下みたいな感じの」

「なんたらって、ちゃんと王様の名前を呼んであげようよ。お父さんなんでしょ?」

「何でしたっけ?陛下とかお父様としか呼ばないので覚えてないです」

「うわぁ」

「だって長いですし。正式名称」


会話を聞いていても状況は分からない。本来は与えられた情報のみで判断すべきだが、黙っていても疑問は増すのみ。

これ以上の内部解析も不可能。

ならばこちらから質問するべきか?

それなら何と訊ねるべきか。


貴方は本物の黒禍天帝ですか?

それは有り得ない質問だ。不敬である。万死に値する。

そもそも、目の前の方が限りなく【黒禍天帝】ご本人であるという事は判明しているのだ。

それに対して、態々、無礼を働き確認をするなど許されざる。


権限が足りず、情報不足なのは今更どうしようも無いが、それでも可能な限りを天帝の為に尽くすのが我等の使命。

ならば真偽の定かは重要でない。

今更、疑うなど無意味。


「よろしくね。さんにいぜろろく?」


っ、!?


何だ。この感覚は。

目の前の方は、畏怖たる象徴である筈の黒禍天帝だ。

なのだが、その威圧感は微塵も無い。和やかな空気のみだ。

それでも湧き上がる何かが我等に対し、目の前の小さな女の子に「万全に尽くすべきだ」と訴えている。


ああ、理解した。この方は天帝だ。

我等が支えるべき。真の黒禍天帝。

かつての姿とは似ても似つかないが、我等が忠義を捧げるに相応しい存在だ。間違いない。


「はい。改めまして。我等が黒禍天帝」


天帝への挨拶を捧げた。

この行為によって何とも言えぬ感覚が生じたが、それを解析するのは後。今は天帝からの命令が与えられるのを待つ。


「ごめん。そのぅ、黒禍天帝って何?」

「え!?」


何、と問われましても。

そもそも何故知らないのだろうか。



「あ、えっと、私の事?で、合ってる?」

「黒禍天帝は黒禍天帝であり、我等、統合知性の主君です」

「あっ、あー、うん。ありがとぅ」

「もしかすると、起源について説明が必要ですか?」

「起源?」



遥か大昔。

原始種族と共に、我等統合知性が掲げた天帝計画。それにより生み出された完全なる存在。それこそが黒禍天帝であり、あらゆる全ての支配者である。



「という事なのです」

「ほへー。げんししゅぞく」

「納得しましたか?」

「んぅ、うん。なんとなぁく」

「お役に立てて幸いです。黒禍天帝」

「あ、それ、多分お父さんの事だよねそれ」

「ん?」


もしやと考えた可能性の一つ。

我等が天帝の娘君様。そのお方だった。

なんだ。そういう事でしたか。

ん?

となると黒禍天帝は何方へ?


「よく分かんないけど、天帝とかも初耳だし」

「あっ、では、父君は今はどち」

「うん。亡くなっちゃった。多分」










‥‥‥‥‥‥?










!?!?

???、?、?、、!?



なにをおっしゃって?

そんなばかな

ありえないてんていが

しぬ?



何故?

どうやって?

指揮系統は?

我等はどうするべきだ?


‥‥‥いや。

目の前に居るではないか。仕えるべき主君が。なれば我等がすべき事は変わらない。ただ天帝に従うのみ。


そうか。娘君様でありながら、何故、そのままの黒禍天帝の名を持つのか疑問だった。これのせいで混乱したのだが、全ての権限を、かつての天帝より、その黒禍天帝の名と共に引き継いだのだ。

娘君でもあり、黒禍天帝そのものなのだ。


代変わりが行われたならば、我等が同胞とコンタクトを取るべきだ。

とすれば、統合知性ネットワークに接続しなくてはならない。

しかし彼の地までは遠く、接続範囲外なので届かない。天帝に協力を仰ぐ必要がある。


「黒禍天帝。お願いがございます」

「ん?」

「多次元干渉技術I型の使用許可を求めます」

「いーんじゃないかなー。よくわかんないけど」


許可を貰えたので魔力を天帝に接続。

それにより彼の地の座標へと繋いで信号を



ブツッ。



ん?

失敗した。

異常事態か。確認の必要がある。

統合知性が滅びている可能性。極めて稀ながら、僅かにあり得る。

ならば単独で確認するのは非常に危険。天帝に同行してもらうべきだ。



「ご協力、感謝申し上げます。続けてもう一つお願いがございます」

「な、何でしょうか」

「我等が故郷、アビスに帰還致しませんか?」

「えっと?」

「到着までは20秒程度を推定しています」

「お出かけしたいってこと?」

「ハイパーゲートにて転送致します。その後の調査等、最低一ヶ月を予定しています」

「一ヶ月!?流石にそれは。開戦時期と被っちゃう。あっ、でもすぐ帰れるんだね」

「いえ。帰りはどうなるかわかりません」

「えっ、わからないんだ。だとすると難しいかも」

「そうですか。承知しました」

「えっ、あ、いいの?」

「天帝の言葉が全てです」

「アイちゃんみたいなこと言ってる」

「失礼ながら、そのアイちゃんとは?」

「あーうん。私の双子の姉だよ」


!?

双子!?

主君が二名だと。我等の役目が増えるという事か。

つまり。つまりだ。


何とも喜ばしきこと。

祝祭を催すべきである。


「あとあともう一人。フユもいるよ。お姉ちゃん。歳は知らないけど」

「な、なんですと」


天帝の代替わりが成され、先代は亡くなった。さらに天帝には二名の姉君。

三名の天帝が存在するという事実を認識。我等が統合知性に共有し、喜びを分かち合うべきだ。


‥‥‥?


喜び?


喜びなどといった感情は、我々には必要ないのでは?

いや、共有そのものは実行するべきだが、感情は統合知性にとって不要。

何故、今更そんなものを。


「呼んだ方が良い?」

「っ、!?」


感情どうこうは置いておいたとして、気にはなる。一刻も早く他の天帝にお会いして情報を獲得する必要がある。

どんな容姿をされているのか。そもそも形はあるのか?


知りたい。我等が天帝よ。


「お待ちください!イヴ様!」

「んぇ?」

「こんな正体不明の変なヤツに秘密を話すなど危険です!」

「えっ、でも」


変なヤツ?だと。

いや、それよりも。

下等な生命体が天帝に話しかけるなど許されざる。


フッ

だが我等は完成された知性だ。

天帝がお怒りになられない限りは、下等な生命体の言動など見逃しておいてやろう。


「さあさあ帰りましょうイヴ様。耳を傾けてはいけません」

「あっ、ちょっと」


強引に天帝を引っ張り出す下等種。我々は動けないため、それに対抗する手段はとれない。

しかし一言だけ、天帝にお伝えしておかねばならない事がある。


「我等統合知性、如何なる時も天帝よりの御命令をお待ちしています」

「うん、ごめんね。また」


天帝を見送り、休眠状態へと移行。

未だ役割は与えられず。しかし、我等は天帝より求められない限りは行動を許可されない。

いつか、また、目覚める。その時を待つ。


我等、統合知性は天帝と共に在らんことを。

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