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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十二章 黒龍飛翔
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二百八十七話 太古の存在

眼前に聳え立つ巨大な門。に見える何か。

人間が通る為に設計されたにしては、余りに大きすぎるそれは、ある一つの思い出を呼び起こす。


「黒龍様っておっきいのですか」


かつて、会ったことのない黒龍様へ想いを馳せていた、そんな時に本当の黒龍様を知る、数少ない人物への質問。

あの時のお母様は、冗談混じりに否定していたけれど、その返答は曖昧なものだった。


実物を見た訳ではないが、竜というものは大きな生き物だ。翼があったりとかするらしい。

竜聖国の辺境に時折あらわれるらしく、おおよそ体の大きさは人間10人分くらい。人間よりもかなり大きいのだ。

それならば、会った事のない黒龍様とはそんな感じなのだろうかと、勝手に想像していた思い出。

何もかもを知らない中で勝手に膨れ上がっていった。


しかし、実際に会った当の黒龍様は余りにも人間に似過ぎている。

フユ様とアイ様の存在で、龍とは何となく人間に近い形で


「そういうものなんだ」


と納得しかけていたけれど、本当の姿は別にあるのではないかと疑っていた。


まあもし仮にそうだったとしても、だから何だという事ではあるけれど。

勝手にイメージして、それが間違っていただけ。


別に姿なんて何でも良いと言えばそうかもしれない。

どんな姿であれ、私から今のイヴ様への尊敬の念が変わる事はない。けれど真実を知らない

者が見れば

「えっ、これが黒龍?さま?」

と言われるに違いない。


事実、最初に会った頃は、私もイヴ様に対してそう思っていた。口には出さなかったけど。

こう、少し小さいなと思ったのは内緒だ。


見た目が悪いとかではない。いや寧ろとても良いくらい。可憐な美少女です。どこか儚げな。人間の観点から見れば、ですが。

黒龍様ともあろうお方が、この様な小さな少女である訳がないという尖った見方でした。即座に改めましたが。

まあ、それは良いんです。問題はそうではなくて。


巫女になってから聞いた先代様の噂。

とても厳格で、非常に知識に溢れている。

先代国王様(つまりは私のおじいちゃん)も萎縮していたとか。

判断力は的確で、政治の表に出てくることは無かったが、陰ながら当時の巫女を通してアドバイスをして貰っていたとか。

頼り過ぎて怒られたとか。ガハハって。


そこ笑って良いとこなのです?おじいさま?


それ程までに存在感があったという事。知る人ぞ知る。隠された存在。そんなイメージが先行し、300年以上生きる、最早伝説上の存在だったのだ。


それと比較して。いや、決してイヴ様の存在感が無いとかそう言うのではないです。

ですが、噂の中の黒龍様とはかけ離れているのです。娘様なのですから違っていて当然なのですが。


先代様と比べるのはどうかとは思います。

私だって先代の巫女と比べられたら嫌でしょうし。どちらが優れているとかは関係なしに。

私が思ったのは何かを隠しているのでは?と思った事です。別に隠していたとして、それを咎めるとかも違います。


ただ不安があるのです。今までの数百年。大きな争いはなかった。しかし何だか、維持出来ていた平和が崩れていくような気がしてならない。

時折耳にする、国民の皆が黒龍様に祈り、心配の声を上げる。勿論。黒龍様のある私たちが負ける訳がないのですが、それでも不安はあるのです。


そんな環境に直で触れていて、不安が私にも伝染してしまったのかも知れません。

城内にいる騎士や、王城に訪れる貴族の方々も色々と話している。その会話がどうしても耳に入ってくる。巫女として民に話せる事は何も無い。けれど


「大丈夫です。私達には黒龍様がついてます」


と胸を張って言いたい。その証拠が欲しいのだ。

何でも良い。もしかしたらばと本当の姿を一目。

どうやら私も少し不安なのかもしれません。

とにかく、黒龍様の力の一端でも垣間見る事が出来れば。全てを納得させる事ができる。



白龍様の真の姿を見た騎士は言っていた。


「とても神々しいと言うか、凄かったっス」


はあ。とても見てみたかったです。大体なんですか。真の姿って。とっても興味あります。

ま、まあ。それはそれとして。

黒龍様の真の姿を見れば誰もが納得する筈。

貴族も、民も。

まあ、真の姿なら、おいそれと見て良い代物ではないですけどね。はあ。


古きよりの信仰が、年月と共に薄れていっている気がします。最近では黒龍様の存在を疑う者すらも出ていました。

しかし、この度の白龍様の噂で黒龍様の存在は信憑性を増したように思います。

それでも噂程度で、確信には足りない。結局は黒龍様を直接見た訳ではないのですし。

全ての民にアピールが必要です。そしてその為の架け橋になるのが巫女としての務め。だと思っています。



胸に息を溜め込んで気合いを入れた。

もしやこれからとんでもない秘密を知るかもしれないから。覚悟というやつだ。決めなくては。


「ラーナちゃん」


私を呼ぶ声。

この場には2人しかいないからイヴ様だ。

そう言えば、我を忘れて進み過ぎていた。

「ちょっと自重しなくては」

と思って振り返ったら、いつもとは違った雰囲気で、鋭い目付きのイヴ様がそこに居た。


そしてその一瞬で察した。

あっ、これは。怒ってる?と。


何か怒らせる事をしたのか。

そもそも本当に怒っているのか。勘違いではないのか。

そう考えていたら、ガシッと右手を掴まれて持ち上げられて。


怪我をしていた。

私の手に切り傷が。


そう言えば何か当たった様な気はしました。

気付かない程度の痛み。目視して、やっと理解する。ああ怪我してたんだ。そんな感じ。


というのが恐らく伝わったのでしょうね。ますます怒ってしまいました。

とてもお優しい方で、ちょっぴり心配性な方なので。

それはそうと、イヴ様を怒らせてしまったのは大変な事で、すぐさま謝ろうとした。

しかしその矢先にイヴ様から光が溢れ出す。


するとどうでしょう。怪我をしていた自分の右手の傷がまるで、生き物の様に蠢いたかと思うと、傷は痕も残さずに自分の肌の色に埋め尽くされてしまった。

相変わらずとんでもない魔法だと思います。

怪我を自覚して感じた痛みも、光と共に消え去りました。あたかも怪我なんて存在しなかったみたいです。


「気をつけて」


たった一言。

力強く握られていた腕は解放されてしまった。

叱られたのにどこか嬉しさを感じるのは何故でしょうか。

恐らくイヴ様の優しさがとても温かいからですかね。


怪我は治って興味の対象が切り替わった様子で扉を見つめるイヴ様。


「何だろうねコレ」


独り言とも、問いかけとも取れる一言。


私も一緒になって首を傾げる。

イヴ様も知らない秘密の扉。

大き過ぎてどう見ても人間用の扉ではない。

押して開くのだろうか。明らかに人力で開けるのは不可能な扉。


どうやらイヴ様も気になっている様子。

歩いていって、触れて、押して、イヴ様の身体が負けて押されています。

どう見ても身体の方が軽いですから。それはまあ当然でしょうね。


「押してダメなら、引いてみ。あっ、掴む場所ない。うーん。それなら」


ぐしゃ。


そんな音が聞こえてイヴ様の指が扉に刺さっている?


めしゃり。


手が刺さっていた場所は抉れて、イヴ様の可愛らしい指の形にくり抜かれている。


「ダメかあ」


そう言って興味なさそうに。ぽい。

握られた拳大の残骸は投げ捨てられ地面へ。


ひゅー、どず。



ん?


かなり鈍い音。それを拾ってみた。重い。

えっ?こんな物を片手で?投げ?えっ?

残骸をノックした。

コンコン。硬い。


あれ?

簡単そうに指が食い込んでいましたよね。

あんなに可愛らしいおててが、こんな頑丈な物をくり抜いた?あれ?何かおかしいような?

疑問を解消しようとイヴ様に話しかける。


「ちょっとイヴ様良いですか?」

「ん?何?」


拳を構え、今にも扉を破壊しようとしたイヴ様を制止して、片手を要求した。

治療の時とは逆の構図だ。


どう見ても、どう触っても、女の子の手のひらだ。硬い訳も無く、むにむにと柔らかい。あの残骸と比べようもないくらいに柔らかい。

あれ。何かがおかしい。


それが何かはわからない。わからないけれど、理解出来なさそうなので、一度それは置いておいて。

何というか。もう少しで謎が解けそうなんですが、理解を拒否していると言いますか。


それはそうと。あの。イヴ様?扉へのパンチは止めておきませんか?


昔、お父様と喧嘩して腹いせにベッドを思いっきり殴った事がある。結果的に腕を痛めてしまったので、イヴ様には同じ過ちを繰り返して欲しくないのだ。


「イヴ様。殴るのは危ないと思いますよ」


イヴ様の腕と扉の決闘です。恐らく勝つのは扉です。やめておきましょう。

腕を怪我してイタイイタイになります。


もしも万が一にも扉が負ける事があった場合にも、残骸が吹き飛んで中にある物が壊れてしまう可能性もあります。中に何があるかもわかりませんし、そもそも扉なのですから、壊さなくても開ける方法があるはずです。

まあ、壊すのが正規の開け方かもしれないですけど。でももしも、壊すとしたら最終手段ですよね。


いやいや。何を言っているのですか。扉が壊れるなんて、そんな事、ある訳ないですよね?

こんなにも大きな扉ですよ?


と、取り敢えず別の方法を考えるのが先決です。

という事で扉全体を見渡してみた。

何か手掛かりが無いかと思い、見上げると扉の真ん中に丸い模様を発見した。

ちょっと届かない高さにそれはあるので、少し顔を上げないと発見出来なかった。

仕掛け?らしき物を発見したものの、あの高さでは肩にイヴ様を乗せても届かない。


どうしたものか。


私の視線を見て丸模様に気がついたイヴ様。

その模様と私を何度か見比べた後。

こちらを向き直って一言。


「まあ、良いか。ラーナちゃんなら」


その言葉の後。イヴ様の背中に何かが生えてきた。生えると言っても背中には繋がっていない。浮いている装飾品。見た目は何とも形容し難い黒色の棒(?)みたいなもの。が複数本。全くもって何のために存在するのかもわからない未知のソレ。


驚くべき事はそれだけではなかった。


その小さな少女はふわりと浮かび上がった。

あの丸模様に向かって進むイヴ様。驚きの余り声が出な


「あっ!?」


今日のイヴ様はとても可愛らしい白色のワンピースだ。スカート部は長く膝の下まである。捲らなければ下着は見えません。防御力高めです。

しかしイヴ様はそんな事を気にもせずに浮いています。

大事な部分を隠す大事なものが見えてしまうということです。


もしかすると私になら良いと言ったのはそう言う?

だ、ダメですよイヴ様。そんな、あの、ダメなんです。

目を逸らして扉を眺める。平常心を保つ為、扉の謎解きに集中する事で、急に芽生えた悪い心を封じ込めるのです。絶対に上を向いてはいけません。


「ん?」


扉に目をやった瞬間。

少し。揺れた気がした。

気のせいかと認識するかどうかの刹那に、扉は左右に開き始めた。

あれだけの大きな扉が開くという非現実で動揺のせいか、長いとも短いとも感じる時間だったが、とうとう誰の手も借りずに勝手に開ききった。


原理は不明。何故開いたのか。

不思議な黒龍様パワーという事で理解。

考えても無駄だという事を察した。


中は小さな小部屋。

と言ってもイヴ様の執務室くらいの大きさ。

その中心に淡い光を放つ半透明の塊。不思議な力を感じる。庭園に入る時に使用したあの黒い球の様な。

何となく。そう感じた。


多くの不可思議に触れた1日だった。

だからこそだろうか。視線の先の透明な塊は何か特別なモノに見える。

私達が塊を見つめている側の筈なのに、何かに見つめられている様な感覚さえある。


神聖な雰囲気が漂い無言の環境。

何が何だかわからない。そんな呆気に取られた状態。

そこにただ一つ。声が聞こえた気がしたのです。


「コクカテンテイ」


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