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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十二章 黒龍飛翔
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二百八十六話 秘密

いちねんぶりです。

先の内容は決めてるんですけどあんまり書きたくない話なので遅くなりました。

「働く」という行為は大変な事だ。

少なくとも楽しいことばかりではない。

内容が難しかったりだとか、責任が重大だとか、その差は大小あれど楽な物では無い。


そう、のはずなんだけど。



なぜ急にそんな話しをしているのかと。

先ず私の仕事について話そう。

竜巫女補佐。どどん。


ふっふ。カッケーて思った?

私もそう思う。響きがいいよね。なんか強そう。先ず竜巫女って単語がカッコイイ。

竜巫女という重要な役職の方を補佐するすごい仕事だって思うよね?ね?ね?

そう思ってたんだ。私も。


はい現実。

なんか巫女目当てに教会に訪れる人にただ撫でられるだけでした。


え、補佐ってどういう意味だったか。

私、撫でられてる。私が補佐である必要性を全く感じない。私は巫女の補佐でなくて、最早おまけでは?


いやまあ、良いんだけど。

いや良くはないけど。

これじゃあただの招きネ。こほん。

ま、まあ?教会への来客が私のお陰って事なら、かろうじて一応、仕事してるって事にならない?


ならないか。


いやいや。今、自分で認めちゃった。

巫女目当ての人が教会に訪れる。つまり私がいる意味はほぼ、うん。


ま、まあ私は実は黒龍だし。そんな黒龍との貴重な触れ合いの場だと思えば、価値があるって事にならない?


ならないね。

だって黒龍の事は秘密だからねえ。

偶々撫でやすい丁度いいところに居るだけだもんね?私。


ま、それはそれとして、ね。態々教会に来てくれているんだよね。ここの人達は。

私のどうこうはさておき、来てくれた人々に良い事がありますようにって、願っておくのもいいかもね。まあ一応仕事しないとね?

居るだけとかそういうのは。


そもそも教会に訪れるっていうのは、それだけ黒龍を信じてくれてるって事の証明だと思うんだよね。いや、違ったら恥ずかしいけどさ。

ま、でも黒龍としてはありがとねって感じ。その思いで祈ろうね。


本当は私が黒龍だよって打ち明けたら皆んなの為にも良いかもしれないんだけどね。

しょうがないよね。秘密なんだから。

そんなこんなで、私は仕事をしているって事で。うん。いやーきょーもはたらいてる。


「なにやら輝いてますね」


私は皆んなへの祈りに集中した。雑念は排除。

そんな時に、ラーナちゃんが何かに気が付いたらしい。輝き?

気になって辺りを見渡した。けどわかんないや。そんな事よりも集中だ。


「あー何かいい事がありそうな気がしてきたぞ!」

「そ、そうですか。またどうぞ。黒龍様はいつでも見守っていますからね」


私を撫でていた人への祈りに集中してたらもう終わってた。

一連の流れとしてはこう。


順番が来た人はラーナちゃんの前に来る。

何故かそこで私が撫でられる。

ので、私が祈りを捧げる。

そして悩みとかを相談する。

それをラーナちゃんが応答する。

お客さんはお礼を言って教会を後にする。


こんな感じ。一人当たり数分程度。

余り長くなると護衛の騎士さん達が引き剥がすらしい。

でも大半は国に肯定的な人が多いらしくて、そういう方々はササッと終わっちゃうから、実際に引き剥がしはあんまり無いとか。

ま、私がここで働いた経験が少ないから、見たことないだけとゆー。


あ、ちなみにもしも、私が居ない場合、その撫でるという所がスキップされるだけ。

私は追加要素的な存在だ。コンテンツ。何と無料です。要らないとか言わないで。

教会に紛れ込んだ地方猫とか。違うよ。歴とした教会お抱えです。


まあ、そんなこんなでお昼まで沢山働い(?)た。

でもちょっと(?)物足りなかったからお片付けを手伝うつもりだった。けれどテンション高めのお姉さん二人に


「ここは任せてネ、イヴさんは上がって?」

「え、でも」

「良いから良いから」


そう言われてしまい、グイグイと強引に持ち場から外されてしまった。折角のお仕事だったのに。

力には自信があるよ。私すごいよ?沢山沢山重たい物持てるよ?お役に立つよ?


残念ながら訴えは通りませんでした。訴えさえ出来なかった。

そしてよく見ると、私だけ一人放置されたのかと思いきや、どうやらラーナちゃんも除け者に。

ラーナちゃんが怒ってるね。うん。わかる。


「何で今日は帰らそうとするのですか!?」

「今日は大切な友人様との約束があるんですよね?」

「あると言えばそうですが、それは別に」

「ダメですよ!こんな仕事よりも友達を大切にしてあげないと!」

「こ、こんな仕事って。アナタたち」

「そして、是非、明日の内容を聞かせて下さいね」

「そっちが目的でしょうが!?」


納得がいかなさそうなラーナちゃん。それでも、結局は強引に追い出されかけている。恐らくラーナちゃんも負けるだろう。何故かは分からないけれど、このお姉さん二人はとても強いのだ。凄く口が上手いというか。


ラーナちゃんと帰る方向が同じという事で、折角なので一緒に帰るのはどうだろうか。誘ってみよう。

うん。我ながら良い考えだよね。丁度、決着もついたみたいだし。


「あ、イヴ様」

「追い出されちゃったね」

「いつもは用事があると言えば、何かにつけてズルイとか言う癖に。あの二人は全くもう」

「そうなんだ」

「大体、あの二人は私に対する尊敬が足りないんです。いつもブツクサ言う癖に」


ちょっぴり頬が膨らむラーナちゃん可愛い。

ぷんすか。

それよりラーナちゃんが愚痴モードになっちゃった。こうなると長いんだ。

だから幾らかの愚痴を聞いてから提案する。


「それより、一緒に帰る?来るでしょ?」

「あっ、行きます」


強引に会話をぶった斬った。でもどうせお話しするなら、私のお家の方がいいよね?

て事で、ラーナちゃんの手を要求する。少し強引だったかもだけど、ラーナちゃんは応じてくれた。


そう言えば、誰かと手を繋いで歩くのは久しぶりだ。

ちょっとした距離を、友達と手を繋いで、私の家へ連れて行く。何だか懐かしい。そんな気分だ。





応接室にお客様をご案内。

お茶菓子は準備おっけい。何時でも準備万端。常に用意されている。

さあ、お茶会だ。



「最近どうですか?イヴ様」

「ん?最近。‥‥‥まあまあかな」

「特に問題はなしと」

「最近と言えば、ここ数日来てなかったよね?」

「う、そうでしたか?」

「忙しかったんだよね?」

「い、忙しいと言うよりは、その、アイ様がその、ごにょごにょ」

「ん?何?」


よく聞こえなかった。

ので聞き直そうと思った。


「あっ、なんでもないですよ!それより、あそこにあるのは何ですか?」


何か訊いてはならない事を訊いたかも。

適当にはぐらかされちゃった。

まあ、アイちゃんが、とは聞こえたから2人の間に何かあったのかもね。アイちゃんとは仲良くして欲しいんだけどね。うーん。何だかギクシャクしてると言うか。仕方ない事だけどね。

あっ、それよりも質問を答えないと。


「えっと、転移の宝玉だね」

「はあ。綺麗ですねこれ。真っ黒で、まるで黒龍様を思わす様な造りです」

「あ、うん」


そうかな。綺麗?かどうかはよく分からないけど。普通じゃない?

あれは、この前行ったあの黒龍庭園に直接繋がっている移動魔法の道具。

使い方は簡単。龍の魔力を流すだけ。そうしたら、あっという間にこの真下。地下深くにある黒龍庭園へと行ける。



パシュン。



そう。こんな風にね。


ありゃ?

え?

ラーナちゃん?

消えちゃった。でも、この宝玉は龍の魔力を流さないと起動しない筈だけど。おかしいね。


ん?まてよ。私の魔力?

あっ、杖とかペンダント。私がプレゼントしたアレ。

魔力。流れてる。言うまでもなく、もろ私の魔力。

あう。早く追いかけないと。龍には安全な場所らしいけど、人間だとマズイとか。アイちゃんが言ってた。ラーナちゃんに万が一があったら困るよね。



と言うことで、私も追っかけパシュン。




「な、な、何ですか!?ここわ」


興味本位でイヴ様の部屋にあった黒色の玉を触った。そして気づいたらここ。

目の前に広がる光景は見たこともない植物の数々や、光を反射して輝くとても荘厳な噴水。

広く開放的で、恐らくは竜聖国の外。イヴ様が管理している別荘?とか、何かだろう。

先程まで室内にいた筈なのに、太陽が直接見えると言うのは、恐らくはそう言うことだろう。

にしても太陽が大きい様な気がします。


だろう。だろう。と述べたのは実際にはよく分からないから。

そもそもどうやって移動したのか。

ここはどこなのか。竜聖国内なのかも分からない。



単純に私に知識がないだけなのもあるけれど、それ以前にイヴ様を知ろうとする行為は控えなければならない。いかに巫女と言えども、それがルールなのだ。



そもそもそれ以前に、イヴ様は大切な友人だ。

だからこそ巫女だとか云々とは別に、イヴ様を尊重してあげるのが、友としての、 最低限の思いやりなのだ。

だからもし、知りたい事があっても、グッと我慢して、あちら側から話してくれるまでは黙っておこう。つい何でも遠慮なく聞くのは、私の悪い癖だ。


なのでそっとこの場所の事は胸の中へ。

もしかすると、私とイヴ様の2人だけの秘密かも知れないから。


「ラーナちゃん」

「あっ、イヴ様?」


ほんの僅かな時間。自らの立ち位置について考え事に費やしていたら背後から声がした。

そちらに顔を向けると心配そうな表情のイヴ様がそこにいる。

さて心配そうな表情と言ったが、イヴ様の顔に変化は無い。一点を除いて。


輝く左の目。青く綺麗なその瞳に、陰が差し込んだり輝いたりと、その差で見分ける事ができる。

ほぼ毎日通い詰め、観察した私の成果だ。


悲しみは陰。

喜びは強い光。

優しい時は淡い輝き。

怒りは、未だ見た事がない。けど、少し、興味がある。怖いもの見たさ。


そして、今回は少し影のある薄い輝き。

多分、心配。それが徐々に明るくなっていって通常の光へ。

感情の起伏が見てとれる。


「良かった。急にびっくりしたよね?」

「ここは?」

「庭園。お父さんが作った黒龍庭園」


ははあ。そう言うことですか。道理で見慣れない景色だと思いました。

どういう原理かはわかりませんが、ここはさっきの部屋とは別の場所。

まあ、それは見れば分かります。


視線を踊らせれば映るのは彩り豊かな花々。広場の中央に鎮座する、見る者を圧倒する水の芸術。人が通りやすい様に整備された硬質な床の道。

私の知識全てを塗り替えてしまう程の衝撃が広がっている。素晴らしい芸術の数多。


先代の黒龍様が手ずから作り上げたのならば、ここにある物は景色も含め、全てが国宝に値すると言える。

感嘆のあまり、視線が取っ替え引っ替えふらふらと踊り出す。


だがよく見ると、通り道付近は整備されているが、奥の方に目をやれば鬱蒼と生い茂った草木が、そのさらに奥への視界を遮っている。

王城の庭も放置していては同じ状況になるだろうか。とひとつ思案する。

が、しかしそうならない為にも、王家では専属で庭師を雇っている。王家に来る者がまず目に入れ、威厳にも関わってくる部分だから、特に丁寧に管理していた筈。


黒龍様の庭園を侮辱している訳ではない。

それだけの努力をしている王家の庭よりも遥かに素晴らしいという事が言いたいので。

事実。目を奪われていますからね。

ただ、ちょっと勿体ないと言うか、その。

目には付きますよね。仕方がありません。手入れをする人がいないのでしょうから。



なんとなくそう理解して、ふと目を配る。

何か違和感を見つけて泳いでいた視線が止まった。


あれ?

奥に、何か。


目を凝らして見れば木々の隙間の奥に何かがある。

よく見るとその場所まで硬質な床の道が続いている。無造作に伸びた植物に隠されているが、道があるのだ。


「ラーナちゃん?」


もしかして、と思った。

つい、誘い込まれる様に植物を両手で掻き分けながら道を作った。

その時ピリリと手に痛みが走った気もするが、それも一瞬。すぐに忘れた。


「扉?」


自分の身長から見れば4人?いや。5人分くらいの高さ。幅は横に並んで10人分。

辿り着いた先には扉。隠されていた、と言うよりは、長い間使われていなかったであろう巨大な扉。


好奇心だった。

さっきまでの友としての決意とかなんとかは吹き飛んでしまった。

そして今。衝動的にここまで来ていた。そのまま扉に手を伸ばす。未知を求めて。

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