二百八十三話 西へ④
お昼ご飯を食べ終えた。
結局3つも食べてしまった。ハンバーガーを。
「そろそろ行きますか」
私が満足した頃合いに、立ち上がってそう言う妹。せっかちさんな妹。
でも、私としてはもう少しのんびりしたい。なので立ち上がった妹をムリヤリ手繰り寄せて膝の上に座らせた。
「もすこしのんびりしようよ」
「ちょっと」
「慌てない慌てない。試合はまだ始まったばかりですぞ」
「何を訳の分からない事を」
イヴと言い、アイちゃんと言い、小さいから凄く収まりが良い感じだ。
こうやってスキンシップも軽々とね。
すると上機嫌な私とは違う、何かこう、不満げな視線を感じる。まあ良いじゃん。食後はまったりしたいものだよね。
お腹一杯でなんか眠くなってきたかも。多分妹からは何かこう、癒しの空気みたいなのが出てるんだよ。だから眠くなるのも仕方ない。うん。おやすみなさい。
「ちょっと?フユ?」
「ぐう」
「ハッキングして無理矢理起こしますか」
「アイちゃんむにゃ。かわいい」
「‥‥‥仕方がないですね」
「あー、君達?」
「何だ。私達は休憩中だ」
「そんなところに居ると危ないよ。コッチへおいで」
「私達に近寄るな」
「な、何だとこのガキ」
「ほっといてくれ。人間の助けは借りるつもりはない」
「は?ガキのくせになんて生意気な」
人の足音は遠ざかる。
誰にも邪魔をさせない為に。
もし逆上されてもフユを起こせば良い。
‥‥‥。
「私はハンバーガーじゃない!」
ハッ!?
挟む用のパンが私を挟まんとする。そんな夢を見た。
そして私は捕まってハンバーガーになってしまった。
お昼ご飯に3つも食べた事によるハンバーガーの呪いかもしれない。てそんな事どうでも良いんだけど。
てあれ?
アイちゃんが無反応だ。
アイちゃん?寝てる?
おーい。ツンツン。むふふ。悪戯しちゃおうかな。
「やっと起きましたか」
「うわ!ビックリした。起きてたの」
「貴女と違って私は寝ていませんが」
「あ、そうなの」
ちくしょ。起きてたのか。まあほっぺを堪能出来たから満足だけど。
どれくらい寝てただろうか。
夕方くらいかな。太陽が傾いてる。ふあ。よく寝た。
「さて、調査を開始しましょう。誰かさんはしっかり休めたみたいですからね」
「ウッ、分かってるって」
背中を伸ばしながら小言はそこそこに聴き流す。
そして読心を解放。周囲の人達を観察して情報を集める。
視線。つまりは感情がこちらに向いてるからやりやすい。
そこらへんにいる武装した人を眺める。得られた情報は訓練場の位置とか、将軍の家の位置とか。
「将軍て何だっけ?」
「兵を指揮する役職ですね。規模によりますが大将の場合もあります」
「その人でいいの?」
「見つけたのですか?」
「うん。多分」
「ふむ、では急ぎましょう。善はなんとやらです」
うーん。せっかち。
そんなにぐいぐい引っ張らなくてもわかってますよう。
まあでも。「早く早く」って袖を引っ張るのはなんかイイね。わがままな妹が甘えて来るのはこう、クルものがあるよね。
うん。カワイイ。
「何をニヤニヤしてるのです?」
ジトー。
目を細めてこちらを睨むこの感じ。早くしろって聞こえて来る様なそれ。あーもう。お姉ちゃんはたまりません。
「うんうん。行こうね」
「??。わかればいいのです」
まあ、アレしろだのコレしろだの言われて面倒くさいけど、妹が頼ってくれるのは正直嬉しいけどね。
イヴみたいに遠慮されるのはちょっぴり寂しいし。アイちゃんは逆に遠慮がなさ過ぎだけどね。
全く。人使いが荒いんだから。
「着いたよ」
「それでは透明化を。目的の人物以外には用はありませんから」
「あいあい」
「アイだけにですか?」
‥‥‥ん?
「‥‥‥早く行きますよ」
「あ、はい」
珍しい。アイちゃんがボケるなんて。
てか私の持ちネタ取られちゃった。まあ、今の私の名前とは関連性が無いからもう使う事も無いし、いっか。
さて、気を取り直して潜入。
将軍さんのお部屋へ。ソーっと部屋に入って姿を現す。
誰にもバレずに行けた。
「だ、誰だ!?」
「初めまして。我らは竜聖国リベリオン公爵家の者だ」
「竜聖国だと!?どうやってこの国に」
「我らには誰にも見られなくする技術がある。それを駆使してここに来た」
「な、何と」
うーん。間違いではないけど技術?
私の魔法なんだけど。
ほら、将軍さんも勘違いしてるよ。まるで竜聖国の人間は、全員がそんな事を出来るのかって驚愕してるよ。
出来ないからね。多分。私だけだからね。
「まあ、そんな事はどうでも良いんだが」
よくないよー。私頑張ったんだけどー。
超頑張ったよー。褒めて欲しいくらいなんだけどー。
「大森林と不毛の地を中立地とし、そこを互いの国境線として竜聖国は不干渉を貫いていた。しかしお前たちは度々そこを跨いで国境侵犯していた」
「それが、何だと言うのだ」
「我らは到底それを容認出来ず、竜聖国の議会でも満場一致で報復すべきだと結論に至った」
「つまり」
「我らはこれよりレングラント王国に侵略する。既に宣戦布告はなされている」
黙って聞く将軍さん。
私はよく分からないから傍観。
単なる付き添いだし。うん。
「さて、ここからが本題だ。単刀直入に言うならば、お前らは降伏しろ。そうすれば生かしておいてやる」
「ふん。戦ってもいないのに出来る訳があるまい」
単刀直入って言葉に疑問を感じたみたいだけど何となく伝わったらしい。
まあ、会話は雰囲気だよ。うん。ノリと勢い大事。
「そうか。では我らはお前たちを滅ぼす事にする。黒龍は悲しむだろうが仕方ない。お前たちが裏切ったと適当に言いくるめて納得させるしかないな」
「何?」
「我らが黒龍は慈悲深く、お前たちの死ですら悲しむだろう。まあ、私には関係ない。敵の言葉よりも私を信じるだろうし、何より死人に口など無いからな」
去ろうと背中を向けたアイちゃんに向かって将軍さんが呼び止める。
「ま、待て!」
くるりと将軍さんに向き直った。
若干めんどくさそうに顔だけで。
「何だ。我らは忙しいのだが」
「黙って国に返すと思うか?」
剣を抜いて鋒をアイちゃんに向ける。
その敵対行動で私はいつでもそれを止められる様に身構える。
「敵地に無策で来る訳がないが、もし不当な暴力を振るうと言うのならば、今すぐにでも滅してやっても良い。それだけの力が我らにはある」
向けられたその刃物よりも数倍鋭利な視線で睨みつけるアイちゃん。
脅し対脅しの睨み合い。
「不当だと言うなら、侵略行為も言い逃れの出来ない不当な暴力だろうが!」
「はあ。もう説明したしな。まあ何にせよ勝者が正義となるし、弱者に権利などない」
「そんなのが世界中から認められると思っているのか!?」
「確かにな。黒龍は認めないだろうが、誤魔化す方法なんて幾らでもある。精々抵抗してみろ。もし、降伏すると言うならば命ぐらいは助けてやらない事もないかもな」
今度こそ本当に背中を向ける。
話は終わった。会話というか宣告が正しい。
アイちゃんが目で合図を送って来たので、二人で瞬間移動。この街の上空へ。
「ホントにやっちゃうの?」
アイちゃんがやると言ったら本当にやりかねない。そんな気迫を感じるのだ。
「私達には正当な権利がある。それにここで力を示さねば裏切る貴族も出て来る。二十倍の兵力差ですよ?次に控えた戦争は。この程度の相手に勝てなくて如何するのです」
「いや、でも、何も殺さなくても」
「服従するなら生かす。それ以外は認めない。それに何か問題でも?」
躊躇いすら感じない。やると言ったらやる。
分かってはいるんだ。戦争がそんなに甘いものじゃないって。
「でも、他に方法とか」
「ならば対案を用意して下さい。理想を掲げるだけで平和が訪れるならば誰も苦労しません。貴女も龍なのですからその力と言葉で以て道を示すべきです」
「それは‥‥‥」
「他者に意見だけ求めて自分は否定だけ。そんな言葉が相手に届く訳がありません」
考えるのが苦手な私は何も言えなくなってしまった。
互いに見つめ合って、私は目を逸らしてしまった。
「逃げるのですか?」
その一言が私の心を抉る。
口喧嘩じゃ勝てないって分かってた。けど、だったらどうしたらいいのさ。わかんない事ばっかりだ。
その心の中で何を考えてるの。教えてよ。
当然見えなくて、どうしようもないんだ。
乙女が目を離した瞬間。
少女に宿る二つの輝きは一瞬だけ暗く濁っていた。その些細な変化は誰にも気付かれなかった。乙女が目を逸らさなければ或いは。
遅くなりました。結末をどうしようかと少し。
みんなハッピー、世界平和ドーン。が良いですよね。
アイちゃんは全く逆の思想ですが。
???「敵を全て滅ぼせば平和ですよ?」
???「人間なんて信用なりません」
何はともあれ、家族同士でも意見の食い違いはありますから。そこを上手くぶつけ合うのが大事です。
少なくともアイちゃんは、家族の言葉だけは聞くつもりありますから。‥‥‥多分。
フユもフユですよ。人の心を動かすなら見ているだけではダメです。ちゃんと自分の言葉で伝えなければなりません。結果がどうあれ。