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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十二章 黒龍飛翔
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二百八十二話 西へ③

「やっと着いた」

「精々半日でしょう。何をそんな疲れた風な」

「いやいやいや」


空を飛んで少し大きな街に着いた。

レングラント王国首都レングラム。

この国の東端から、ここまででおおよそ半日かかった。空を飛んでこれくらいだから、歩いたらどうなるのか、そう思うくらいには遠かった。


んで、結構大変だったにもかかわらず労いの一言もない妹だ。元々そういうタイプだって知ってはいるけどさあ。ホントそういう所だよねえ。


「龍に疲労は無縁な筈。気の所為ですよ」

「いやいや」


精神的に疲れるよ。

それでさあ、褒めてもくれないじゃん。やる気が失せちゃう。


「仕方がないですね。では少し休憩にしますか」


指をさして近くの木の下を案内された。

地面はまだ冷たいので、温度を調整した透明な床を作り出して木の陰にへたり込む。

するとおもむろに、アイちゃんが魔法の道具を取り出した。何が起こるのか疑問を浮かべていると、魔法の道具から何かが飛び出した。

こう、ポンっと。


ハンバーガーだ。

かつての世界にありふれていたあの食べ物。


「どうぞ」

「えっ、これって」


戸惑いを隠せずにいた。

まさかこの世界でこんなものを見る事があるとは思わなかったから。

何の変哲も無い様に見えるそれは、出来立ての様な熱があり、お肉の香ばしい匂いが漂う。ソースの匂いは無く、チーズも見当たらないが、その分大きなお肉の塊が、パンの間にどっしりと構えているのだ。

食べても良いと言われたので、中々ワイルドなそれをワイルドにかぶりついた。


最初の一口は大きくハンバーガーの三分の一を頬張った。

味はとても衝撃的だった。勿論良い意味で。

この世界のパンは結構堅めで、それを覚悟して強めに噛んだけれど、思いの外柔らかくて簡単に噛み千切れた。お肉はそれよりもっと柔らかくて抵抗を感じなかったぐらいだ。


噛み切ったお肉の断面から肉汁が滴り落ちる。口の中のお肉は噛めば噛むほどその旨味が溢れ出してきた。

今まで食べたお肉の中でも最上級の美味しさだった。そう言っても過言では無いほど美味しい。


そしてそれからは無我夢中で食べた。あっという間にぺろり。気付けばなくなっていた。

あまりの美味しさに我を失っていたのだ。


「‥‥‥あっ」


食べ物である以上は食べればなくなってしまう。それは当然の事で、もっと味わって食べれば良かったと後悔した。


「まだありますよ」

「えっ!?」


私の心を見透かしたのか二つ目のハンバーガーが出てきた。

今度はそれを味わって食べ‥‥‥なくなっちゃった。

仕方がない。このハンバーガーが美味しすぎるのが悪いのだ。あっさりとした塩っぽい味付けが、お肉の良さを引き出して、全くくどくない。


「むぐっ」

「急いで食べるから。はい、お水」


慌てて食べてしまったので喉に詰まった。

水を受け取って流し込む。危うく死ぬ所だった。


「もぐもぐ、これは、もぐ、美味しいね」

「食べるのか喋るのかどっちかにしてください。行儀悪いですよ」


怒られたので飲み込んで話すことに。


「この間のケーキもそうだし、コレもそうだけど、アイちゃんて料理上手いんだね」

「普通ですよ。お肉をパンで挟んだだけのものを料理と言うかは疑問ですが」


褒めたつもりが素直に受け取ってくれなかった。

本当にアイちゃんはいつもツンツンしてる。

大体褒めても否定ばっかりだし。


「いやいや。美味しいよ」

「そうですか。まあ、料理なんてものは知識さえあれば誰でも出来ます」


まーた隙あればツンツンしてるよ。

褒めたんだから素直に喜んでくれれば良いのにさあ。

まあ、食事を必要としないアイちゃんが、態々私の分を作ってくれただけでも感謝すべきなんだろうけどね。



‥‥‥ん?

あれ。そもそも料理を美味しく作る必要がない気がする。自分は食べないんだから美味しい物を作る必要が無くて、適当に作れば良いだけ。と言うか作る必要すらない。お店で売ってる格安の保存食とかでも良い筈だ。


アイちゃんは物知りだ。比べて前世の私は料理は苦手だった。今も変わらずだ。

だからこそ今私が知識を与えられただけで、料理が上手くなるかって言われたらそうではない気がする。そう簡単に出来る様になるなら苦労はしないもん。


水を出すタイミングも完璧だった。

もしかして、アイちゃんてただのツンデレなのでは。

それを隠す為にいつもツンツンしてるだけで、内心はそこまでとか?



いや、まさかね。

確かめたいけどアレだね。アイちゃんの心は読めない。この力、絶妙に使い勝手悪い。知りたい相手にこそ働かないとか意味無いじゃん。


「何ですか」


心が読める様にならないかなあと思い、見つめていたら言われた。

アイちゃんとイヴに共通している、読心出来ない問題。

大半の人は身体という名の器が、その人を覆う壁の様に存在していて、その中の輝きを見つめると、その人の考えが理解出来る。

二人とも壁みたいなものがあって読めない。

何か、方法があって読める様にならないだろうか?


気になって仕方がないけれど、見えないのならば仕方ないかと、そう思って諦めた。

アイちゃんに適当に返事をしてはぐらかした。

そして、私達は他愛のない会話をしながら暫しの休息を取るのだった。

???「魔法少女って凄い。病弱も治るなんて。私、将来は魔法少女になる。そして、困っているみんなを助けるんだ」


???「はー、私もね。魔法使えたらな。こんな退屈から抜け出せるのにね。なーんて。子どもじゃないんだから」

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