二百八十話 西へ①
空。地上から途轍もない距離の場所。天高く舞う白銀の翼。白一色の羽根が幾重にも重なって羽ばたく。
竜聖国で白龍の名を持つ人(?)だ。そしてその人に密着して少女がぶら下がっている。
彼女らは竜聖国首都を飛び立って西へと向かっている。調査という役目を果たす為に。
「ねーえ。そろそろ教えてよ」
「何をですか?」
空の旅は退屈なもので、特に変化もない景色が続いてしまう。だからこそ会話を求めて話しかける。
片方は積極的にコミュニケーションを取るつもりがある。
片やもう一方はあまり会話をするつもりがない様だった。
「私が行かないといけない理由」
「そんなに気になりますか?」
「アイちゃん一人で行けば良いじゃん」
「私一人で行くと捕まるかもしれません」
「その時は連絡してくれたら良いのに」
「貴女は護衛です。私が危なくなったら守ってください」
「えー、どうしよっかなあ」
圧倒的に有利な状況からの上から目線。
妹にその態度を向けてにまにま笑う。面倒な事をさせられそうになっている事への仕返しのつもりだった。
「信じています」
しかし帰ってきた言葉はこれ。
助けて貰えると信じている。
「えー。まあ、あっ、てか理由。話す気ないでしょ!?」
「バレましたか」
「当たり前よ。さあ、話しなさい。さもないと守ったげないよ?」
「調査が終わり次第、西へ行軍します」
「うん」
「その為の準備を行う訳ですが、貴女の能力の方が適しているからです」
「ふーん。心を読む必要があるの?」
「それと敵対者は、一切の躊躇いもなく全て滅ぼす予定です。こんな事、イヴには話せませんよね」
「あーうん。嫌がるね間違いなく」
「しかし戦争とはそういうものです。やるかやられるかでしかなく、生き残る為に戦うのです」
そう自らにも言い聞かせている様にも映る。
「どっちも死なない方法ってないの?こう、話し合いとか」
「会話で折り合いがつくならば、そもそも宣戦布告などされていません」
「龍の圧倒的なパワーを見せたら何とかならない?こう、戦争は辞めるのだ的な」
「相手の心をへし折らなくてはならないので無理ですね。相手に痛みを与えておかなければ、また力をつけての繰り返しです」
「えー、でも。私がいた世界は平和だったよ」
「それは学習したからです。戦争の愚かさを。しかし学んだとて無くなりはしない。平和だったのは貴女の住む国だけで、周囲の国家はそうではないですし、表立って戦争をしないだけの仮初の平和です」
「どうしても無理?」
「無理です」
キッパリと言い切ってしまった。
しかし納得のいかない乙女が、ある一言を伝える。
「やってみなければわからない。無理だと決めつけていたら、出来るものも出来なくなっちゃうよ」
「それは?」
「みーちゃんの言葉なんだけどね。私もそう思ってる」
「‥‥‥そうですね。貴女の言う通りですね。しかし、私達がどれだけ努力をしても相手が聞き入れなければ無意味ですよ」
「じゃあ、説得してみようよ」
「どうやって?」
「えっと、敵じゃないよって言うとか?」
頑張って頭から引っ張り出した知恵。
しかし少女は首を振る。もう既に考えた結果の答えがあるからだ。
「フユ。そもそも相手が何の理由で戦争をしているか知っていますか?」
「え、あー、えっと。ごめん」
申し訳なさそうに謝る乙女。
理由とかは調べれば分かる事だが、今回は不勉強故に答えられない。そして、それが悪い事だと理解していて、更に少女がそう言った事に関して厳しいので早めに謝った。
いつも小言を言われるのだ。
今回もそうだ。
また貴女はぐうたら。少しは妹を見習ったらどうですか?と。
そんな感じで。
「いえ。良いんです。説明します」
不思議とガミガミがなかった。
思わず呆気に取られてしまった。
「端的に言えば欲です。土地。或いは力。はたまた人」
「えっ?恨みとかじゃなくて?」
「西は竜を操る秘術を求めています。東はまあ、全部ですかね。そのオマケに龍の首です」
「どう言う事?」
「叩きやすい相手なのです。我々は人類の敵として。弱そうな人を寄ってたかって集団で。貴女も知っているでしょう?」
「‥‥‥っ。」
「黒龍は人類の仇。龍に支配されている民を開放するのだと。随分と自分勝手な言い分だ。そんな相手に、何故、私達が配慮しないといけないのか」
アイちゃんから怒りが滲みでて、涙が溢れ落ちた。
気付いたらアイちゃんが泣いてしまっていた。
私にはアイちゃんの気持ちがよく分かる。分かってしまう。
「何が女神だ馬鹿馬鹿しい。龍と言うだけで恨まれて、敵にされて、悪者扱い。父がやった事が罪だと言うのなら、ニンゲンの方がもっと大罪を犯しているではないか」
気付いたら撫でていた。
何でもできる様に思えた少女。目の前に抱き抱えた少女はとても小さく、寂しそうに震えていた。
いつも、我慢しているだけだ。心の中の憤怒を無理矢理隠していた。妹に自らの優しい姿を演じて見せていた。
無表情なのはきっと仮面。これでも精一杯隠していたんだと。知る事になった。
「学校に大して来てないくせにテストだけは点が良いらしいよ」
「えー?何の為に学校来てんのって感じじゃん」
「いやいや、来てないけどね?」
「アッハハ。そりゃそうねー」
「って、アイちゃんも何か言ったらどうなの?」
「えっ、あっ、私は、その」
「そう言えば時々話してたっけ?どうなのよ?」
「いや、別に、特になにもない」
「嘘ー、なんか無いの?話題」
「ホント、何もないから」
嫌な思い出だ。
忘れられない。最低な思い出だ。
さて、この物語はフィクションです。
あまり心地よい話では有りませんが、今章はこんな感じになりますね。
スローライフちゃんは旅に出たのです。
今思えば昔から全然スローライフしてませんが。
戦争を回避する手段は模索します。見つかると良いですね。