二百七十七話 精神安定剤。略して、
誕生日を迎えて次の日。
またいつも通りの日常が始まる。
さて、昨日で晴れて十五歳となりました。どうも。イヴと申します。ぺこり。
そして、隣に座って私に色々と教えてくれるのはアイちゃん。私の双子の姉です。
普段から何を考えているのかは分かりません。と言うかそもそも知らないことだらけです。でも信頼してます。優しくて、頼りになって、あとあと、えっと。すごいです。
脳内語りをしてたら唐突にアイちゃんに叱られた。
「手が止まってますよ?」
「は!?ごめん」
「いえいえ。良いんですよ。ゆっくりやりましょう」
そう言って優しく接してくれるアイちゃん。
なでなで。
何故かすごく優しくなった。昨日から。
そうそう、昨日と言えば色々と会話をしたよ。改めて私の出自とか。予想はついてた所もあるけど、それも含めて色々と。
先ず、私はこの世界の住人では無かった事。
とある世界で人間として生まれて寿命を迎えて此処へ。死因は病死。享年17。
アイちゃんが言うには、どうやって此方側に来たのかは断定出来ていないが、なんらかの方法によってアイちゃんと接触。そして魂の共有により双子として存在している。
魂を分け与えた事で瀕死だったアイちゃんは助かったらしい。そうだった様な気もする?
覚えてないもんね。仕方ないね。
それから目が覚めるまでの12年間はアイちゃんとお勉強。よく覚えてない。そうだったっけ?
その間に魂の主格が私に。龍の権限とか能力とかを少しずつ委譲した。
『何で?』
《これから話します。順番です》
『うん』
ほぼ滞りなく完了。
その頃私が目を覚ました。はじめての人間との出会いは男性二人。トライさんとアルバスさんだ。服もなくて大事なとこを隠せてない。今思えば結構恥ずかしかったかも?
ま、まあまあ、人間の姿は仮初だから見られてもオッケー。
な訳ないよ。
初めて会った人達が良い人だったから良かった。そういう事にしておこう。
危険な魔物と出会い、村の人達を守る為。私達は本当の姿を見せた。その村では黒龍は忌み嫌われた存在。私が黒龍だと知られた時点で村には帰れない。二人は黙っていてくれたかもしれない。もしかすると受け入れられていたかもしれない。
けれど、私もアイちゃんも理解していた。
そう思うのは危険だと。
私達は旅に出た。
誰も知らない遠い場所へ。森の中で人との接触を断ち、二人だけで生きていた。
でも、人間と会話をして興味が湧いた。だから街へと行った。アイちゃんが許可をくれたからね。駄目だって言われると思ってたけどね。
街で過ごしていたら帰る場所が出来た。
仲間も出来た。家族も出来た。けれど私は黒龍で。
全てに対して一線を引き、距離を置いた。知られたらまた遠くへ逃げないといけなくなるから。
その頃。死期が近付いていた。
その最後の時に間に合う計算で、アイちゃんは全てを調整していた。でも何か知らないけど助かったらしい。私が奇跡を起こしたとか。
知らないよそんなの。
折角助かったならと色々やりたい事を探した。
手掛かりを求めて竜聖国へ。
わたしはきぞくだった。
偉いらしい。しらないよ。えらくないよ。
今でもそう思う。
王様の依頼で西へ。竜聖国が攻められてるから助けて的な感じ。
仕方なく助けに行った。
出会ってしまった。お父さんとお母さんの仇。
それを倒す為にアイちゃんに任せた。
信頼してたアイちゃんが裏切った。
けど私は抵抗した。アイちゃんを捕らえて私の中に幽閉した。らしい。
その辺の記憶が曖昧。仕方ないよ。私も必死だったし。
そこからしばらく眠った。そしてこの前のアイちゃん復活。それがアイちゃんの知り得た情報。
『何で私に譲り渡そうとしたの?』
《どうせ死ぬならと思い。ならば私の全てを貴女に託そうと思いました》
『記憶を消そうとした理由は?』
《貴女は私が死んだ事を忘れられず、必死に自分の務めを全うしようとします。そして私の意思を継いで、人類と敵対します》
『えっ?』
《全ては滅びます。唯一人。貴女を除いて。その未来を避ける為に記憶を消しました。私の痕跡を消せば上手くいくと思って》
『そっか』
《結果は失敗。貴女を信じられなかったが故にです》
少なくともその時のアイちゃんにとっては最善の方法だった。そして私の事が嫌いだとか、黒龍の力を返して欲しいとかは全く思っていないらしい。
だって、
『黒龍の力は返した方がいいよね?私のじゃないし』
《え?何故ですか》
『だって、私が奪った力でしょ?』
《‥‥‥違います。私が好きで贈った物です。それにもう受け取れません。貴女に定着していますから》
返却不能。いくら返しても返却の返却をするらしい。困った。
まあでもやっぱり、アイちゃんは裏切ってなんかないって事だけはよく理解したよ。
そうそう。一つ気付いた事があった。
それは、私はアイちゃんに憧れているって事。
憧れているからこそ、私は常にアイちゃんの事を完璧だと思ってた。完璧なアイちゃんがミスなんてする訳ないとも。
そう思ってたけど、私が気付いていないだけでやらかしてるらしい。知らなかった。
《私は、人間が嫌いです。そう言った私の良くない感情が生き続け、貴女に影響を与えてしまう。しかしイヴ。貴女は貴女の思うがままに生きて欲しい》
そう言って私の頭を撫でるアイちゃん。
心がじんわりあったまる様な感覚だ。心が繋がって、優しさを受け取って、昔を思い出す。ずっと、ずっと、足りてなかった物が今、満たされた気がする。
私の想いをアイちゃんに贈りたい。
この感情をどうにかしたい。
そもそも私は、アイちゃんにお世話になりっぱなしだ。でもでも何が良いかな。喜んで欲しいし。
悩みが一つの景色を映し出す。
「心が込もっていれば何でも嬉しいよ。大好きな人ならね」
「そう言うのが一番困る」
「いやー、ホントだってば。みーちゃんからなら何でもうれしいなあ」
「キスでも?」
「え!?良いんですか!?」
「‥‥‥え、嬉しいの?」
「い、いやまあ、うん。別にまあその、何でも良いケドネ」
何かの記憶?
その景色から離れて目の前。
近い。アイちゃんのほっぺがすぐ近く。
何となく、こうすべきだと思った。
チュッ
「お、おれい。た、たんじょうびの」
物凄く恥ずかしい。やっておいて何だけど顔から火が出そう。あつい。
その場の勢いでやったから、ああもう変な空気に。
アイちゃんが呆れてるよ。
居た堪れなくてそっぽを向く。
顔が真っ赤になってると思うし、恥ずかしいし。目を合わせられない。
「では、私からもお返しです」
チュッ
私なんかとは違ってスマートなキス。お返しされた。お返しのお返しはズルだ。卑怯だ。
これだと私が貰ってばっかりだよ。うう。
不意を突いてもアイちゃんの方が一枚上手。
必ずやり返される。私はいつだって敵わない。
でも、別にいいんだ。私達は助け合って生きていく。例え、何があっても乗り越える。大切な家族と共に。
そう、決めたんだ。
色々とこう、シリアスな所がありましたね。スローライフとはと言った感じですが。完全に原因はアイちゃんです。
さて。ちょっと長くなりましたが(リアル時間的に)今話でこの章終わりです。
今後はまあ、その、三人でイチャイチャ出来たら良いですね。