二百六十一話 裏会議
議会は終わって参加者は続々と部屋から出て行った。私達三姉妹は「少し残ってくれ」と王様達に頼まれたので待っていた。
何故そんな事を言われたのか。理由は分かってる。
私達姉妹が会議中に騒がしかった事だろう。
それはまあ怒られるよねえ。と考えてて、叱られるのを待ってた。
待ってたって言うとなんだか私が叱られるのが好きみたいな。怒られるのは好きじゃないもんね。正確には身構えてた。
「さて、いくつか質問があります」
「な、何でしょうか」
王妃様からの言葉。
とても神妙な顔つきでこれはもう冗談を言い合える状態ではないと察した。
私はいつでも謝れる様に謝罪の言葉を練ってた。こんな感じに。
まず初めに、私の姉ーずの良いところを言って、それからワンクッション謝っておいてから最後に「何でもするので許してください」と言う。
よし完璧な流れだ。
「一先ず今後の作戦と、王家についての助言を頂きたいのです」
「ごめんなさい!」
怒られる。そう思って即座に謝罪した。
勿論考えてた通りには口は動かなかった結果だ。
いや、でも失敗はしてないよ。
先手必勝。悪い事をしたら謝る。これはとても大事な事だからだ。だから先に謝ったんだよ。うん。失敗してない。
けれどなんだかよくわからない感じに。
会話の内容も聞かずに適当に謝ったから。
どうも悪い癖です。いつもお世話になってます。やらかしてから気付きます。そして言い訳をするのも駄目だ。
「え?あぁ、はい?こちらこそ?」
何故か王妃様に謝られた。
どうしよう。居た堪れない空気に。
「どうしてイヴが謝るのですか?」
「だ、だって二人が、そのお騒がせしてて、怒ってるかなって」
「えっ?」
王妃様に「何を言ってるんだろう」な目で見られてる。
ど、どうやら怒っているのは勘違いなのかもしれない。でもでも、まだわかんないし。
そ、そうだ!
必殺。GOMAKASHI☆
「あ!あの、相談って何の事でしょうか!?」
咄嗟に機転を利かせた。
つまりお茶を濁した。
そしてそれはうまくいった。
「えぇ、っとはい。西方への侵攻計画をお聞きしたいのです」
「せーほーのしんこー?」
計画?
知らないよ?何も。
考えて欲しいってのは聞いてたけど、良い案なんてなくて保留してたんだし。
「はい。この情勢で軍を動かすのは危険かと思ってまして」
「えーと、その」
私が悩んでたらアイちゃんが勝手に答えた。
「国の防衛にはフユ。進軍はイヴと私だ。細かい計画を話す気は無い」
答えは答えたけれど殆どの問いかけを拒否しちゃった。
「私が勝手に決める」
そう言いたげな、アイちゃんの有無を言わさぬ一言。明らかに説明不足なのに納得せざるを得ない。昔から会話を打ち切る様な厳しい口調は時々あった。そういう時は黙って従うしかないんだ。
「承知しました。では王家についてのアドバイスを頂きたいのですが」
お咎めなし。良いんだろうか?
良いんだろうね。うん。深くは考えないでおこう。
話題を変えてきたので私は黙って頷いた。
聞いて欲しいと言われて断るなんて、私には無理だもの。
何で黙って頷いたのかと言うと、アイちゃんが作った重くるしい空気の中で、声を出せるほど頑丈な心臓は持ってないから。
「後継者と婚姻。相続に関して良い方法が無いかと思案しているのです」
「そこに居るではないか」
ラーナちゃんを指差すアイちゃん。
後継者ってのはアレだよね。時期王様に相応しい人のことだよね。
うん。アイちゃんと同意見だね。
「それが」
何だか悩みがあるらしいんだ。
なので私は耳を傾けた。
王様夫妻の思いとしては、時期王様の位に就くのはラーナちゃんで問題ない。けれどラーナちゃんに自信がないみたいだ。だから黒龍に指名して貰って、国民全員からの支持を得たいって事らしい。
そして少し脱線するんだけど、今後の王位継承は黒龍からの指名によって決定するつもりだって。
そしてもし、何かがあったら黒龍に王位を剥奪する権限も持って欲しいとか。
はあ。ほへー。
何言ってるのか分かんないんだけどね。
それってつまりアレだよ。私が王様より偉いって事になる。
まあそんな事よりも驚いたのは、その二つのルールは実質、先代から続いてる暗黙の了解だってさ。お父さんの時代からって事ね。
んで、改めてよろしくネってな事らしい。そう締め括って話が終わった。
いやおかしいよねえ!?拒否権は?
どうしてそーなるの!?
私が悪い子だったら国を滅茶苦茶にできるんだよ!?しないけど。
‥‥‥具体的な方法がわからないだけだけど。
私が反論しようにももう既に次の話題に移ってた。
さも当然かの様にこの話題を流して、今はもうラーナちゃんの結婚相手をどうするかで話し合い中。
私が心の中で文句を言ってたらもう切り替わってた。
ぐぬぬ。
大切な友達のラーナちゃん。その結婚相手ならしっかり考えないと。私の理不尽な権限については後回しだ。
「イヴ様の選んだお相手ならばどなたでも」
ラーナちゃんが訳わかんない事言ってる。
「うむ。異論は無いな」
「そうですね。イヴ様なら良き相手を選んでくれるでしょう」
王様も。王妃様も。
「ふむふむ。一つだけ条件がありますね」
何でそんなに偉そうなんだろ。アイちゃん。
相手は王様たちだよ?
色々ツッコミたい所が多いよ。
「条件ですか?」
「婿入りに来る事を条件に相手を探すと良いと思います」
「難しいですね」
はあ。もう良いよ。
どうせ悩んだって無意味だし。
それよりも話には参加しないと。
「婿入りって?」
何となく気になったから質問してみた。
知的好奇心が刺激されたからつい。
婿入りってなんだっけ?
「結婚とは家同士の繋がりです。しかし色々な要因で優劣がつきます。基本的には男性側が優位な嫁入りが一般的ですが、それでは国家としては良くないので、婿入りを受け入れて貰わなければなりません」
説明から読み取れるのは、婿入りとは女性優位の結婚って事だね。
うーん。結婚はもうちょっとこう、対等なものだと思ってたけど。違うんだ。
「他国から招き入れるのは如何でしょうか」
「良い考えではあるが、権限とかの線引きは徹底しなければならない。少なくとも偉そうな国との婚姻は認められない」
えー?
アイちゃんがそれ言う?
「イヴ。偉そうなのではなく、偉いのですよ。特に貴女は誰よりも貴い存在です」
え!?何?心読まれた?
いやまあそれは昔からそうだったね。
そんな事よりも。
ワタシガエライ?トウトイ?
何を言ってるんだか。あー、アレだね。アイちゃんがいつも言ってるお世辞だね。
いやいや、だってねえ?
私なんて一人じゃ何にもできないへなちょこだよ?
弱っちいし。愚かだし。龍の事なんて何も知らないし。いつも色んな人に助けて貰ってばかりだし。
まあ、だからこそ恩返しの為に何でもやりたいと思ってるけど。どうせまた足手まといだろうし。
少女は自信がない所為なのか、自分で作った言葉のナイフを自らへと次々に突き刺して気が付けば針の筵。
誰もそんな非難する様な事は思ってなくても、少女はそう思ってしまう。
少なくとも、少女が偉いと言われて誰も反論しなかったのがその証拠となるだろうか。
周りの人の優れている部分ばかりを見て、自分の劣っている箇所で比較して鬱々とする。
隣の芝は青いとはよく言ったもので、どうも自分を見るのが苦手なのだ。
成功を成功と捉えられず、失敗ばかりが心に残る少女。今も遠慮しながら会話の場に留まるのだった。
自信。
大事ですよねえ?
偽物の自信だったとしても必要です。
一説によると、ある少女が総司令官に就任した際の作戦は、少女に自信をつけさせる為、ひいては国内の貴族にアピールをするのが目的だったとか。
失敗しましたけどね。白龍の所為で。