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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十一章 新風
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二百五十九話 賢き者の戦場②

随分と王様は難しい顔をしていた。

貴族さん達が苦言を呈する毎に、アイちゃんがそれを捩じ伏せるから。

まあ、論戦を傍観していれば、どちらが優勢かなんて子どもの私でも理解できるくらいには片側に偏ってる。

しかし、このままだと怖いのが貴族さん達からの反発。

だから私の方を向いて助けを求める様に視線を送ってくる。私の隣のアイちゃんにではなく、私にだ。


抑制してくれって事だよねえ。

うーん。無理だと思う。

だってそもそもこの口喧嘩、もとい議論は、私を庇う為だろうから。

本来なら私の意見を変えてアイちゃんを諫めるべきなんだろうけどね。

でもでも、アイちゃんに

《貴女が言い出した事ではないですか》

って言われるだろうし。そう言われたら

『そうだけどぉ』

としか言いようがない。だから口が挟めないんだ。


そして結果。

奴隷制は認可降りず。

奴隷の所持は国家反逆罪と同等。即刻死刑だって。

‥‥‥重過ぎない?

それはまあ、奴隷制は悪い事だけどいくら何でも死刑はその、良くないと思うの。


え?

ああー、うん。

今は罪に問わないけど、もし隠していたならば黒龍に対しての裏切りになるからって事?

それにしたってねえ?


「まだ裁くつもりは無い。その代わり、今後奴隷を所持して隠していた場合は許さん。但し、許可を得たならその限りではない」


みんなに聞こえる様に言い放つ。

全員がアイちゃんを見つめる。王様が慌ててそれを追いかけて同調する。


「う、うむ、それは王家が保証しよう!」

「竜聖国の民は平等だ。故に奴隷という身分は存在しない」


慈悲を見せる様に高らかに宣言する。


「偉大なる黒龍は、竜聖国の全ての民を見守っている。皆が団結し、共に助け合う事を望んでいる。今、己が利益を求めて奴隷が何だと争っている場合ではないだろう?」


アイちゃんがそう言ったら、この場にいる全員が驚愕に満ちた顔に染まっていた。

「確かに」と聞こえる様だ。

皆んなの心が動かされた。


私は思わず拍手した。



パチパチパチ。



私だけが手を叩いていて、とても小さな音が鳴った。手が小さい所為なのか随分と貧相な音だ。

それでも私達を認めてくれた人もいた。

それは他でもない王家の面々。ラーナちゃんから国王夫妻。そして一人、そしてまた一人と音が増えていった。


全員が手を叩いていた。



フフン。とドヤ顔のアイちゃん。

うんうん。それをする資格があるだけの凄い交渉力だ。私も見習わないといけない。


「ふぁ、ん?ナニコレ。どゆ状況?」


のそりと上体が動くフユ。

何か不思議そうな顔をしながら手を天井に向かって伸ばすフユ。一人だけ空気が違う。一人だけ取り残されてるみたいな感じ。


もしや。寝てた?

予想は当たってそうだね。


「この妹でコレですか。何故こんな」

「なに、なんかトゲを感じるんですけど」

「別になんでもありませんよ。はあ」

「あー、今明らかに馬鹿にした!」


わいわいと言い合う。

大事な会議中なんだけどなあ。


私がそう思っても止まらない。もう既に二人だけの世界。私の姉ーずがいつも通りに言い争ってる。

流石にこのままではまずいので、取り敢えず喧嘩?は止めておく。


「会議中だよ、二人ともちょっと黙ってて」

「あ、ハイ」

「むぅーー」


私の双子の姉は素直だ。

しかし不満そうな一番上の姉。

ちょっと頑固なところあるよね。

姉としてのプライドとかかな?

いつもはあまり気にせず怒らないけど、今回は少し強めに言うべきだと思った。皆んなが見てるからね。

だからちょっとだけ厳しく言った。


「フユ。嫌いになるよ。良いの?」

「ごめんなさい!!」


謝るのがものすごくはやかった。


本当に嫌いになるわけではないけれど、体裁というか、まあ、一応私はこんなでも公爵だから。示しがつかなくなったら困るからね。

それから王様達に向かって頭を下げるんだ。


「お騒がせしました。続けて下さい」

「で、では再開しますね」


気を取り直して、とその時。


「少々お待ち下さい!」


議会を仕切り直そうとすると誰かが割って入る。

えっと、王家直轄領の代官。爵号は男爵様だったかな?

名前は‥‥‥アストラ・ベルラ男爵。多分。

貴族たる者他の貴族様に対しての予習は欠かせない。


王妃様が王様に目配せして王様が頷く。

こうして許可を貰って初めて喋って良い。



アレ!?


今気づいたんだけど私、結構許可なく喋ってたよね。

まずいよー。あーでもおこられてないからまあいーのかなー??

まあ、うん。はい。おっけ!

きにしちゃいけない。



許可が出た男爵様が一呼吸置いて発言する。


「も、もしもの話ですが。その、もし、奴隷を所持していた場合は如何様に致しましょうか?」



‥‥‥。沈黙。



アイちゃんと王妃様が目を合わせてる。

うーん?会話してる?

そう見え、あ、何か見える。





持っていますね。


まちがいないな。


‥‥‥どうしますか?


罪に問う絶好の機会だ。


それは、粛清しろと?


選択肢としては良いとは思うが?


流石に反発が。


なら、引き取れ。以後の所持は罪。踏み絵にもなる。


成る程。しかし、どうやって管理するかですが。


引き受けよう。貸し一つだ。


そ、それは恐らく返せない負債ですね。


安いものだろう?

王権が強くなるのだからな。


ゔっ、甘んじて受けます。



‥‥‥。


終わった?会話だよね。

流石アイちゃん。一瞬で意思を伝えあっていた。内容はよくわかんなかったけど。



ほんの少しの間が空いて王妃様が質問に答える。


「さて。そうですね。もし、奴隷を所持しているのなら、今差し出せば罪にはなりません。一ヶ月以内に連れてくれば王家で引き取ります」

「そ、それはその、しかしですな」


王家が引き取るらしい。

でも、納得がいかない人がいるらしい。

難しそうな表情の人は多く、その数の多さがそれを物語ってる。


「本来は地下牢送りでも良いのだが、何せ牢が足りん。投獄も面倒だから片っ端から切るのが妥当だろうか。なあ?リアーナ王妃」

「そ、それはその、少し」


いつの間にか王妃様とアイちゃんが仲良くなってる。

にしても悪い顔してるよアイちゃん。


「寛大な裁定感謝します!なので、なので処遇は引き取る形でお願いします!」



ありゃ、皆んなにっこり。凄い。これが交渉術。

皆んなが納得してくれたって事かな?

凄いアイちゃん。流石アイちゃん。

皆んなを笑顔にする優しいアイちゃん!

私もにっこり。


ただ、数人だけ笑顔ではない人もいた。

その一人であるフユはすごい顔してる。


「いや、凄いけどね。化け物だわ。誰も気付いてないけど」

「おや?ありがとうございます。我が姉よ」

「いや、褒めてねーし」



なんだかんだで仲良さそうな私の姉ーず。

二人の談笑を眺めながら議会を続けるのだった。

折角スペースがあるので何か書きますか?


交渉事の基本ですね。

敢えて厳しい条件を突きつけ、その後代替案を用意してお得感を与える。それしかないと思わせる。


とは言っても最強の後ろ盾(黒龍)あっての事ですが。

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