二百五十八話 賢き者の戦場①
今日は議会の日。
各貴族が集まり、今後の方針を決める為の会議を行う。
細かな法律についてなどがあるが、主な議題は聖戦。
先日貰ったプログラムを見て知った事だけど、この国に攻めてくる国があるらしい。それの対策を練るのが今回の議会の本題だ。
そもそも何故攻めてくるのかと言うとだが、軽く説明するとこうだ。
女神教という宗教がある。
それは、結構色々な国に布教していて、その影響を受けている国はかなり多く、またその規模は大きい。
そして、女神教というものは黒龍を目の敵にしているらしいので、黒龍を捕らえて処刑せんとしているらしい。
らしい、らしい。とか言ったけどつまり私を狙っているのだ。
私の命が危うい。負けたら捕まって酷い事をされるのは言うまでもない。
逃げたらどうだろうか?
それは少し考えた。お世話になった国を捨てて逃げ出すのは龍としてどうかとは思うけど。それでも一応提案はしてみる。
「ねえ、アイちゃん。聖戦ってあるよね」
「ん?それがどうかしましたか?」
「私の命を狙ってるんだったら逃げた方が良いのかな?」
「それでも良いですよ」
アッサリと肯定された。
私はてっきり叱られると思った。
龍という身分でありながら逃げるのか、逃げたら駄目だろう、とかそんな感じで。
「所詮はこの国が滅茶苦茶になるだけですから。貴女のいないこの国は圧倒的物量によって痛い思いをするだけです。まあ精々国民が奴隷として他国に売られたりとかですかね?」
「どっ、奴隷!?」
「はい。この時代では敗戦国に権利など無く、唯々蹂躙され搾取されるだけです」
「な、なっ」
「まあ王女含め、王家は処刑ですかね?」
「逃げるなんて出来ないよ!」
気付いたらそう言ってた。
言った瞬間。誘導されたと理解した。こうなってしまったら私は釣られた魚の様なもの。言った事は取り消せない。
ま、まあ?当たり前だけど逃げるつもりなんてなかったけどね。
寧ろ覚悟を決めたと宣言するつもりだったけどね。
「そうですか。なら頑張りましょう」
「が、頑張る」
とは言ったものの、実際には戦争というものが何なのかをよく理解してない。
危ないという事だけは漠然と知っているけれど。
「しかし、女神教ですか。どうすべきでしょうね?」
「確か女神様ってある国を救った方なんだよね?とても国民想いの優しい方だったとか。あと、その、お父さんが倒しちゃったんだっけ」
私がそう言ったら、アイちゃんは黙ってしまった。心なしか不機嫌そうにも見える。
また私は地雷を踏んだのかもしれない。
お父さんの話題は駄目なんだ。私は理解した。
「‥‥‥そろそろ時間ですね。行きますか?」
ちょっぴり気まずい空気だったけど、二人手を取り合って王城へと参内する。
その時フユと合流した。なんだかんだで議会には参加するらしいので一緒に向かう。
私達は一応議会には出席するけど特に口出しをするつもりは無い。
会議が始まる前にもアイちゃんに念押しされた。
「分かってますね?貴女の役目は見届ける事ですからね」
「分かってるよぅ」
渋々頷いて始まるのを待った。
続々と人は集まり各々決められた席に座って待機する。私の席はラーナちゃんの隣。少し視線を送れば目が合って、言葉はなくて目でお辞儀をされた。
とても冗談を言い合える雰囲気ではなかった。
何となく怒ってはなさそうだけど距離を感じる。
隣には机に肘をついてそこに顔を乗せて寛ぐフユ。そのさらに奥にアイちゃんが腕を組んで黙ってる。
アイちゃんは兎も角、フユは随分とだらしない格好だ。けど、誰も何も言わない。フユは怖いからね。しょうがない。
「あー、ダル。やっぱ寝とけば良かったかなぁ」
言葉も態度も面倒くさそうな感じ。
髪いじりを始めて机に頬擦りしている。
そろそろ誰かが注意しないといけない気がする。まあ誰も何も言えないんだけど。
そんな状態なんだけど時間がきたので開始する。それはある方の声によって。
この議会の進行を務める王妃様だね。
えっと確か、プログラムによれば、先ずは国の法律調整からだったかな。
「さて、予ねてから何名かからの意見提案を受けての議題です。奴隷制についてですが、意見はありますか?」
奴隷制。
この国ではその法は制定されていない。
どういうことかと言うと、竜聖国の民は全て平等だと決まっているから。
なんて言うのはちょっと綺麗すぎるけど、法自体定められていないので、有りでも無しでもない。
何となく良くないよね〜みたいな。
厳密には存在しない事になってるけど、
「恐らく貴族の殆どは所有しているでしょうね」
アイちゃんがそう言った。
うん。多分そう。けど駄目とも決まってないし、あまり推奨はされないだけ。
というのが現状で、今後はどうすべきかというのが議題なんだ。
「白龍様の意見をお聞きしても良いでしょうか?」
「どーでもいー。よーわからんしー」
超適当な回答。
貴族の人たちはフユのその反応が嬉しそう?
白龍に反対されたら何も言えなくなるからかな。奴隷所持を隠し通さないといけなくなるもんね。
でも周りを見る限り、奴隷制の反対者はいない。
あぁ、そっか。そうなんだね。
「イヴ公爵は如何でしょうか?」
質問が飛んできた。
答えないと駄目だよね?
なら、私の意見を言わせてもらう。
「反対」
一瞬、騒ついた。
そりゃそうだよ。私だけだもん。
「そっかー、イヴがそー言うなら反対にしようかな」
すぐさま意見を変えるフユ。
どうでも良さそうなのは変わってない。
私へのご機嫌取りだろうか。少し思うものもあるけど味方してくれるならまあ。
「な、成る程。アイ公姉様のご意見は」
「反対ですかね。どうでも良いですが」
二人揃って私の姉達は。ウインクなんかして。
嬉しいけどさ。嬉しいけどさぁ。
「お、お待ち下さい!我ら此処に居る貴族家は皆、奴隷制について反対されるのが理解できません!」
そんなの、嫌だから。
何て言ったら大文句言われるんだろうなあ。
理由なんてそれくらいだ。差別は良くない。
「ほう?」
私たちに反対意見(文句)を言った貴族の人を睨むアイちゃん。
私と話す時だけ優しい目をするアイちゃん。
それでも基本的には怖い目付きをしてる。私は慣れてるけど、睨まれて若干怯む貴族の人。
「自国の民も、他国の民も奴隷にするのは認めない。必ずいつかの未来で揉め事へと発展するからだ」
「理由になってはおらぬ!得体の知れない者が増えたと思ったら。そんな小娘の意見など無視すべきなのだ。国王様よ、早く決めて頂きたい!」
バチバチと聴こえてきそうな感じの言い合い。
それよりも小娘って私の事?それともアイちゃん?
何てどうでも良い事を考えてた。
「我が名はアイ。黒龍の代理としてこの議会に参加した。したのだが一つ聞こうか。誰に向かって小娘と言ったのだ?」
アイちゃんが小娘って言われてキレた。
どうどうどう。
「そ、それはその、君の隣の方」
指をさした先は私だった。
小娘には違いないからね。うんうん。
ところで、いつの間にアイちゃんは黒龍の代理になったんだろう?本物では?嘘は良くないよ。
寧ろ私が代理では?いや、違うか偽物。
「そうか、尚更許せん。即刻死刑でも良いが此処は議会の場。後で覚えておけよ」
ひぇ怖い。アイちゃんは怖い。
私の姉ーずは怖い人ばっかりだ。
「そ、それよりもこのこむ。この方は本当に黒龍様の代理の方なのですか!?」
この貴族さんはまるで、有り得ない。認めないといった様子で、王様に助けを求めて言葉を投げ掛けた。
「ぅあ、あー、うんむ。そぉだな」
王様は答えた。しかし気の抜ける返事だ。
まあそう聴こえたのは私の気のせいだろうかな。
それはそれとして、アイちゃんは黒龍様の代理。王様公認。
はー、アイちゃんて偉いんだな。
私はぽけーとそう考えていた。
黒龍は自分自身の事を指しているのに、無意識に責任感から逃れようとしていたのかも。
こうして私は、議会の空気に流されながらぼんやりと見届けるのだった。
公姉様。「こうあねさま」と読み仮名振りましたが、造語なので何でも良いかも。
アイこーねーさまだとなんか、うーん。
是非声に出して読んで欲しいです。
‥‥‥そんな感じです。
本来はフユが家系を継ぐのが妥当なんでしょうけどね。年長者なので。
まあ、例にもよって。
「えー、やだーめんどくさい」
ですし、もう一人の姉は。
「私よりもイヴの方が相応しいです」
なので。