二百五十五話 特性
私達三姉妹と王女様で机を囲って会話に花を咲かせていた所。各々がお茶菓子を食べ、雑談に耽っていた。
「皆様お揃いなので一応伝えておきます。明日、王城にて議会が執り行われます」
王女様こと、ラーナちゃんがそう言った。
私は勿論知ってる。1週間前くらいに招待状が来てた。だから議会への参加はスケジュールに組み込んでいる。なのでこれは確認のための一言という訳だ。
そして、それはアイちゃんも当然知ってる。私の仕事は全部アイちゃんも目を通しているから。
フユにはまだ話して無かったかも。
「えー、面倒。パスで」
早速行く気なさそうなフユ。冗談の様に断っているが、基本的には冗談はあまり言わないので、これは本気で行きたくないやつだ。
あと、やっぱり伝え忘れてたみたいだ。
「おや、フユは出ないのですね」
「んー面倒いよね。何?出た方が良いの?」
「内容にも依るでしょうが、行く気が無いなら何方でも」
「ほー、アイちゃんは出る気なんだ」
「出るとは言ってないですよ」
「えっ!出ないの?」
ころっと意見を変えるアイちゃん。
私はてっきり参加するつもりなのかと思っていたけれど、二人の会話を割ってまで思わず出ないのかを聞いてしまった。
「出ないとも言ってませんけどね」
「いやどっちやねん」
フユが飽きれて突っ込んだ。確かに紛らわしい。結局どっちなのかはわかんないし。
でも、仮に参加しないのなら、フユも参加するつもりがないのであんまり偉そうなことは言えない様な。
「まあ、参加する利はあります。この国の底が知れますからね。貴族はさておき、よもや王家が無能だったならばと、少し今後を考えないといけませんからね。つまりそれを見る良い機会だと言うことです」
とんでもない暴言を放つアイちゃん。
しかもその『王家』の一人である王女様の目の前で。当然ながらのラーナちゃんは引き攣った表情になってる。
「あー、まあそうよね」
「龍の棲まう国として相応しいかどうか、見極めねばなりませんね」
「ぶっちゃけ私はどうでも良いけどね」
好き放題言う姉二人。
それを聞いて震えるラーナちゃん。多分怒らせちゃった。
いつも優しいラーナちゃんだけど、王家に対する暴言はとても容認されるとは思えない。
視線を落としていた王女様は此方を睨んでいた。
それはまさに鬼気迫ると言った感じ。
私は慌てて謝ろうと口を開いたけれど、それよりも早くに王女様は言葉を発した。
「ご期待に添える様に励まさせて頂きます」
私が謝る間もなく席を立ち、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
ほんの少しの間だけ静かになったが、そこから再度口を開くアイちゃん。
私以外に対しての口の悪さは少し思うところがあるね。
「少々脅し過ぎましたかね」
「んー、まあ言い過ぎたかもね」
「本当だよ。折角楽しく話してたのに」
私が二人に小言を言いながらほっぺを膨らませた。
謝りたかったけど即座に反応できなくて、その不甲斐なさも込めて二人に苦言を呈した。
一応オルトワさんが追っ掛けてくれたので、また後日に謝る事にしよう。
「おや、楽しく無かったですか?」
不思議そうな表情のアイちゃん。ちっとも悪いと思っていなさそう。
「アンタね」
呆れ顔のフユ。
でもフユも一緒になって言ってよね?
そう思いながらフユを見つめた。
「ご、ごめんって」
「ふむ。少し勘違いしてるかも知れませんが、立場と言う物は大事です」
「分かってるよ、だから何」
立場という物。
それはつまり地位とか役目とか。そう言った物。
大事な物だから、特に王女様に対しては礼儀を弁えるべきだと思う。
そんな事、アイちゃんに言われなくてもよく分かっている事だ。
「貴女は、貴女と言う存在は、この世界においてのみならず、あらゆる万物よりも価値の高い存在です」
「‥‥‥」
「例えば、この世の資源。それら全てを集めても、貴女の価値には遠く及ばないのです」
「そんな事は」
「ありますよ。未だ、貴女は自身の価値を知らないだけです」
訳のわからない事を言ってる。適当な事を殆ど言わないアイちゃんだからこそ、余計に冗談には聞こえない。
それがさっきの話とどう繋がると言うのか。
「誰彼構わず力を貸すというのは貴女の素晴らしさでもありますね。しかし、それは危険でもあります」
「それの何が悪いのさ」
アイちゃんの言いたい事は何となく理解してる。でも、何が悪いのか分からない。
「どうどうどう。二人とも落ち着きなって」
私達双子が睨み合って危険な空気が流れた。
フユはそれを仲裁しようとしてくれたんだけど、私は聞く耳を捨ててしまった。
「悪いとは言ってません。少なくとも貴女は悪くありません」
「じゃあ、何が言いたいの」
少し沈黙して
「貴女は、人と仲良くするべきではありません」
アイちゃんはそう言った。
それも、冗談ではない。本気の目だった。
つまりラーナちゃんと仲良くするなと言っているって事。
思わず頭に血が上った。
椅子を後ろに吹っ飛ばしながら立ち上がって、怒りのまま部屋から飛び出した。
少女の居なくなった部屋で居た堪れない空気の二人。
「あー、怒っちゃったね」
「そう、ですね」
「どしたの?らしくないじゃん。どしてあんな事言ったの?」
「イヴの為です」
「ふーん?」
「フユ。貴女には一応話しておきましょうか」
「お?何々」
「龍には魂の力と呼ぶべき並外れた能力があります。それはその龍の個性とも言うべき物でしょうか」
「ほほう」
「例えば、父の【虚無と導主】と言った様な性格の影響を受けた物です」
「よーわからん。それの何が凄いのかが」
「問題はイヴの持っている能力です」
「おー、念の為聞いとこうか」
「【祝福と誘惑】です」
「ん?」
「まあ、簡単に言えばダメ人間製造機です」
「ええっ?」
「身に覚えがある筈です。前世でもその波長はあったと思っていますが」
「た、確かに」
アレもコレもなどと言いながら何処か遠くの世界に旅立った乙女。何故か上を見つめて目を細めている。
「特に人間は影響を受けます」
「はっ!まって、私達もその影響を受けるって事は‥‥‥有り得る?」
「無くは無いでしょうね」
「や、ヤバいじゃん。どうすんの」
「取り敢えず問題は無いです。が、問題が起きてからでは遅いでしょう?」
「な、成る程」
二人は同時に溜息をこぼして悩みに没頭する。今後の行方に想いを馳せながら、今暫く考え込むのだった。
龍の持つ個性は魂との深い繋がりがあります。
とんでもない能力ですが、それにデメリットもあります。それは今後小出しにするとして。
さて、次の話も主人公の抜きの密談です。
こう言うタイミングでないと話せないですからね。