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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十一章 新風
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二百五十四話 気付き

客間で待ってくれている人の元へと早歩きで向かった。

その人を待たせるのは最低限にする為に、歩きと呼ばれる範囲内で最大限に速度を出した。

「貴族たる者、慌ててはならない。優雅にお淑やかに」とお叱りを受けないギリギリの速度だ。


「お待たせ。ラーナちゃん」


敬称を省略して呼ぶ。

そうすると顔に花を咲かせながら此方を振り向くラーナちゃん。

向かいの席を案内されたので座ると、オルトワさんが私の分のお茶を注いでくれた。


そして満を辞してお茶会が始まったのだ。

他愛のない話。ラーナちゃんの愚痴を聞いてあげたりなどなど。

粗方話題を出し尽くした所で、ふと思い出したかの様に、私についての話題に切り替わった。


「最近のイヴ様はとても楽しそうですね」

「ん、そうかな?」

「はい。ちょっと前はどこか寂しそうでしたから」


そんな事を言われた。言われて初めて気が付いた。自分では気付いていなかった心の不調。それを教えてくれる大切な友人。


確かに今と比べれば色々不安だった時期もある。龍とは何かとか。誰が敵で、誰を信じて良いのか。

それは今でも心の中には残っているけれど、いざと言う時には相談出来る相手が居ると言うのは、少し前と比べて大きな差だと思う。

結局殆どは勘違いだったんだし。

勘違いだと判明したのはアイちゃんが目覚めて直ぐ後の事。




‥‥‥。


二人で向かい合ってベッドの上に座っていた。アイちゃんから、二人だけで話したい事があると言われたからそれに応じた。


私はその時覚悟をしていたんだ。

「もし、騙されたなら、それはもう諦めよう」てね。

どんな結果であれ、私はもう一度会話をしたかった。

そう思ってたらアイちゃんに謝られた。一言一句覚えてるよ。君の言葉を。


「イヴ、ごめんなさい。私は貴方を見縊っていました。貴女の素晴らしさを誰よりも理解していないといけなかった筈なのに」


いくら布団の上とは言え、全力で頭を叩きつけたら痛いと思う。


「信じて貰えるとは思っていません。しかし私は。私は、最低です。貴女の合意も得ずに記憶を消してしまいました」


うん。それは一応覚えてる。

思い出したって言うべきかな。


「私が消えるのは避けられそうに無かった。それ故に、後腐れ無く前に進んで欲しいと思い、私を消したのです」


消える必要なんて無かった。

もし、消えてしまったならそれを受け入れて生きて行く。それしか無いなら我慢する。

辛いだろうけれど。


でもね。悲しい。思い出が消えちゃったら。

死んじゃうのは仕方が無いよ。逃れられないのなら。諦めるよ。

でも、記憶だけは心の中に残る。残せる。

それを、アイちゃんは消そうとしたんだよ。


「何でもします。もし貴女が死ねと言うなら今すぐにでも」


私は理解したんだ。

大切なのは心。繋がっていたんだ。

例え居なくなっても、繋がっていたと言う事実は消せない。消させやしない。


「イヴ」

「死んで欲しくない。その時が来るのなら二人で迎え撃とう」


生まれた時から二人。

助け合って生きて行こう。


その想い。ありったけの想いをアイちゃんに送った。

心を繋ぐ方法は忘れていない。言葉では無い伝達方法。それを使って質問をした。魂を繋げて。



結果として。


アイちゃんが死んだら、そう遠くない未来で私が暴走するらしい。その為に思い出を消したらしい。

また私の能力の大半は、アイちゃんが開発した物とお父さんから引き継いだ物。

かつて人間だったのは事実で、恐らくそれが関係していて、私は人間に対しての拘りがある。

アイちゃんは人間嫌いだって自分から言ってた。


取り敢えず自分についてはこんな感じ。説明を受けた。

私の暴走はちょっと信じ難いけど、まあアイちゃんがそう言うなら。

あと、私は無意識に人を誘惑する力があるらしい。

それも俄には信じられないけど、まあ以下略。



‥‥‥。


きっと仲直り出来たよね?

さて、ラーナちゃんとお話し中だったね。


えっと、ラーナちゃんが心配してくれてたんだよね。

ん?‥‥‥あっ、もしかして。

今気がついたんだけど、私が不安そうにしているのを理解してくれていたから、態々毎日私に会いに来てくれていたのかも?

うん多分そうだ。

やっぱりラーナちゃんは優しいなあ。



「ありがとう。ラーナちゃん」



出来るだけの笑顔でお礼を言った。

言ったら何でか動揺してる。

一瞬固まったと思ったら、慌てて動き出してカップに手が当たって倒しちゃった。

カチャンッて音が鳴って余計に混乱するラーナちゃん。


「はわわ」


それを見たオルトワさんが片付け始めた。


「大丈夫ですよ。王女様」


片付けを手伝おうとしたラーナちゃんを止めてササっと綺麗に拭き取る。

あまりの手際の良さに少しびっくりした。慣れているのであろう手付きと「これはメイドの仕事です」と言わんばかりの一連の言と動。

危うく手を出しそうになったけれど、オルトワさんがこっちを見てるので辞めた。


「全く。無意識にそうやって、他人を誑かしては駄目ですよ」


アイちゃんの声。アイちゃんの手が私の視界を覆った。そして「はい、アーン」と言って私の前に何かを差し出されたので食べた。


クッキーだ。美味しい。


「ちょっと、何抱きついてんの」


やや不機嫌そうなフユの声を、アイちゃんは無視して椅子に座りながら第二のクッキーを手に取る。

そして私の口元に運んでくれたので食べた。


「美味しいですか」

「うん」


二人が来る前から食べてたけど、差し出されたものは何となく特別な気がしてより美味しく感じる。


それはそうと「誑かすって何?」

って聞こうと思ったけど、私の姉二人が喧嘩してたので聞きそびれた。

二人の邪魔をしちゃ悪いかなと思ったので、結局その言葉を飲み込むのだった。



「私もやる!」

「駄目です。これは私の役目です」

さて、主人公は他者へと気を配るのは長けていますが、自分自身に対しては、人一倍不得意です。

前世では理解のある乙女ちゃんがいたので良かったのですが、今生ではどうでしょうね。


アイちゃんは人間嫌いですね。

それこそ憎悪のレベルです。もしも、ある人間と出会わなかった場合、人類を滅ぼす位にはです。


フユは‥‥‥この世界に来て得た物もありますが、失った物もあります。余裕とか。

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