二百五十三話 ゆずれぬあらそい
朝の日課が終わったので少し片付けをしておく。アイちゃんの近くに置いてある本以外は、元あった本棚に返しながら書類の整頓もした。後は勝手に、エルードさんが王様に届けてくれる手筈になってる。
シン、と静まり返った部屋で、私は黙々と片付けをしていた。するとアイちゃんが本を眺めながら口を開いた。
「ところで、何故イヴはこの様な事をしているのでしょうか」
「何が?」
片付けの事だろうか?
仕事も終わったし、今日は巫女補佐もお休み。暇だから、アイちゃんの読書が終わるまでの間は片付けでもしようかなと思った。
「与えられた仕事。つまりは書類に目を通しましたが、これらは貴女がやるべき仕事では無い様に思います」
「それって、私が劣ってるって事?」
ただ淡々と、私に言い聞かせる様な物言いだった。
二ヶ月前にも同じ様な事を言われた。と言うか、似た様な発言はほぼ毎日言われてる。
確かにアイちゃんと比較すると、私は駄目駄目だ。それでも何とか頑張るって決めたもん。
貶されている様に感じて思わず頬が膨らむ。
すると、アイちゃんが慌ててさっきの発言を取り消す。
「ち、ちがいます。良いですか?イヴ。よく聞いてください。先ず貴女は子どもです」
「子どもだって馬鹿にしてる」
益々私は膨らむ。
私が子どもだからといって仕事を取り上げようとする。
私達は双子なんだからアイちゃんだって子どもなのに、何故私だけ子どもと言うだけで取り上げられないといけないのか。
「そう言う意味では無くて、その、勿論貴女は優れています。何でも出来ます。ですが貴女にはもっと楽しい事をして欲しいのです」
どうやら否定してた訳ではない?
なら良いけど。
んーでも、仕事は嫌いじゃないし。
「楽しいもん」
「‥‥‥本当ですか?」
「アイちゃんに教わってる時は楽しいもん」
「そ、そうですか?」
アイちゃんが照れた。
まあ、これは本当の事。一人で仕事してた時は実際のところ退屈だった。それに気づいたのも最近だけど。頑張ったら褒めてくれるから楽しい。
「うん。本当だよ?」
「なら、仕方ありませんね」
アイちゃんに納得して貰った。公認も貰えた。凄く嬉しい。
私も照れてたら、その時ノックの音に続いてオルトワさんが部屋に入って来た。
「イヴお嬢様。王女様が来てますが」
「わかった。客間?」
「はい。お待ち頂いています」
「そっか。アイちゃんは?」
「私は少しやりたい事があるので」
ラーナちゃんとアイちゃんは、この前一度だけ顔合わせをした。だけど、お互いに遠慮してるような節がある。ギクシャクしてた。
何となく仲良くなれそうな気がするんだけど、アイちゃんが余り会いたがらない。
何とかしてキッカケを作りたい。
だけどまあ、無理を言っても仕方ないから今日もお茶会は二人だけ。
待たせてるから早く行かないとね。
少女はそう考えて部屋を出る。パタパタと音が遠ざかって行き、それを追いかけるメイド長。
そして少女の居なくなった部屋で何やら言い合いが聞こえるが、それは少女達の耳には届かない。
「ちょっと!説得するんじゃ無いの!?」
「し、仕方ないではないですか!」
「失敗してんじゃん。簡単に絆されちゃってさあ」
「そ、それなら貴女がやれば良いではないですか!そんなに文句を言うなら」
「ぐぬぬ」
何故かその部屋には乙女が居て、女の子と口論している様だ。
口喧嘩は意外な事なのか小さな方が強そうだ。
「全く。何処の世界に軍事のみならず、外交関係、更には国家予算のやりくりまでも一人の子どもに任せる国がありますか」
「えっ、マジ?そんな事までやってんの?」
「はぁ?まさか、フユ。知らなかったのですか?」
「いや、なんか、仕事してるなーとは思ってたけど」
冷や汗を浮かべる乙女。それを睨む小さな女の子。
表情に変化は無いのに、その瞳からは怒りが滲み出ている。
「へぇ?」
「ち、違うんだよ!?」
「なーにが違うのです?詳しく説明してくれますか。妹が仕事をしていた時に貴女は何をしていたのか。詳しく、徹底的に納得のできる回答を」
「いや、それは、そのぅ」
「聞くのは面倒なのでやっぱり良いです。ハッキングするので大人しくしていて下さい」
「え!?あ!?」
小さな叫び声が聞こえ、それからは静かになった。
「こんな事があったのですね」
「みないでよう」
「何を今更。人の身体を散々見ておきながら」
「ご、ごほん!にゃんのことかな??」
「噛んでますよ?」
「うるさい!」
「見えていますから、今更誤魔化しても意味がありませんけどね」
お馴染みの空間で二人が向き合って会話をしている。
周囲には幾つかのモニターの様なものが浮かんでおり、それに映し出される、これまた映像の様なもの。
「しかし、興味深いですね」
関心やら何やらが入り混じる声。
それに反応する、やや泣きそうな声。
「何がよぅ」
「これですよ。これ」
そう言って指差すのは、一つのモニターに映っている少女の姿。その少女は他のシーンにも数多く出て来るのだが、女の子の差した場面だけは他と比べ明らかに異質な姿。
見た目。表情。纏う空気でさえも。
「あー、みーちゃん?」
「そうですね。これはどう言った存在なのでしょう?」
「えー、みーちゃんじゃないのー?」
「強い瞳です。まるで、覚悟を決めているかの様な」
「んー?」
「それと、激しい怒りを感じます。私が裏切ったあの時と同じか、それ以上の」
「よっぽど恨んでたんでしょ。それくらい大事だったって事だろうし」
「っ‥‥‥そう、ですね」
目を細め、瞳が下を向き、真一文字に口を閉じる。後ろめたさを感じて落ち込む小さな女の子。
一応フォローはした。けれど、バツが悪そうに黙ってしまう乙女。その顔には「やってしまった」と書いてある。
今後も似た様な事が数多く発生する。しかし今回の言い争いは、両者引き分けで幕を下ろすのであった。
基本は三人が主軸の物語です。
無垢、慈愛の主人公。
叡智、冷静のアイ。
二人の中間くらいの性質に妹スキーを足したフユ。
こんな感じです。
フユの扱いが雑なのは「愛」故にです。