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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
十章 再臨
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二百五十話 愛の為に

"世界樹"なるものの復活を頼まれた。

そうすると、あれよあれよとエルフの集落に連れて行かれた。正確には、話し合いが終わったから、またこの場所に戻って来たと言うのが正しいのかも。


みんなの視線は一点に集まっていて、そこには私と植木鉢が置いてある。

その植木鉢には小さな芽が生えていて、樹と呼ぶには随分と可愛らしい見た目のものだ。

それを復活。もとい、成長させるのには大量の魔力が必要らしい。



ただ魔力を込めるだけで良いんだよね?

それなら簡単過ぎだと思うけど。私にしか出来ないとか言われたから引き受けたけど。



「それじゃあ、お願いするよ」


妖精王様は私を信じてくれているのかな。

他のエルフの人達は信用してくれてないらしいから。コソコソと私の事を噂してる。


「本当に信用できるのか?」

「怪しい。いくら妖精王様の言葉とは言えなあ」

「得体の知れない小娘に何が出来るやら」



無視をする。

嫌な言葉はよく聞こえてしまう。

でも、そんな事はどうでも良いんだ。集中しないといけないから。頼まれたお願いを何としても果たさなくては。そうしないと私の望んだ物は手に入らないから。


一つ呼吸を吐き出して自分自身の魔力を確かめる。今更操作が出来ないなんて有り得ない事だけれど、それでも全神経を尖らせる様に感覚を研ぎ澄ませる。

穏やかに、そしてゆっくりと。ただ、優しく丁寧に世界樹へと魔力を流し込んだ。



世界樹は私の魔力を受け入れて喜んでいる様に見えた。それでもまだまだ足りない。とても弱っていて、もっともっと分け与えてあげないといけない。

そんな事を考え、いつしか私の魔力がすっからかんになっていた。

気付いたのは魔力切れになった瞬間。それと同時に目の前が真っ暗になった。






「イヴ!?」


少女が倒れてしまったのを目の当たりにした乙女が叫び、急いで駆け寄る。

無理をして倒れ、寝息を立てる少女。

ただ眠っているだけだと知り、乙女は安堵の息を吐いた。

やや心配する様な光が瞳に映った。続け様に悲しみへと移ろい、諦めた様な苦笑いへと。


「何で黙って無理するかなあ。もう」


お説教と言わんばかりのほっぺを弄る乙女。

為されるがままにそれを許す少女は、抵抗するどころか寧ろ笑っていた。乙女に抱き上げられているのが心地良いのかもしれない。

そんな少女を見てしまったので、乙女の中にあったその小さな怒りは、一瞬にして何処かへと消え去ってしまう。


「あーもう。可愛い。世界一」

「すまないな。無理させちゃったみたいだね」


妖精王と呼ばれた青髪の人は申し訳なさそうにそう言った。


「まあ、イヴが引き受けた事だし」



結局。止める事なんて出来ないんだ。

何としても成功させないといけないんだから。約束したんだもの。

とは思うけれど、それはそれ。イヴに無理をさせた事はちょっぴりとだけ腹が立つ。

だから、つい、棘が出る。



「約束は守ってもらうよ。イヴは結果を出したんだし、いくらエルフだからって出来ないなんて言わないよね?」

「当然だね。だから許して欲しい。非礼も詫びるよ。本当にありがとう」



青い髪のエルフ代表が真っ先に頭を下げた。

そうすれば、疎らながらも全員が、私達に頭を下げる。特に丁寧に頭を下げていたイヴの友達。心がこもっているのはよく分かった。

でもね、謝罪なんて要らないんだ。お礼だって。

ただ、欲しいのは結果。さっきまで信じてなかったくせに。今更都合が良すぎだ。

誰だよ、使えそうとか考えてる奴。一発殴ってやりたい。





張り詰めた空間。

不穏な空気。

そんな中に気を失っていた少女が目を覚ました。



「あれ?私?」

「!?‥‥‥起きたの?」

「あ、気を失ってたんだね。張り切り過ぎちゃった。えへへ」



少女が笑いかけた事で、凍りついた空気は砕けて溶ける。


「そうだね。よく頑張ったね」

「フユ。ありがとう。いつもその、えっと、大好きだよ」

「‥‥‥」


その何気ない一言が、乙女の思考を緊急停止させた。


「あれ?フユ?」

「で、でも。感謝される為にやったわけじゃないし」


素直になれない。

勿論言葉は嘘だ。嬉しい。死んでも良いくらい。

もう既に死んでるけど。



「でも、私は感謝してる。それに、改めて考えたら、助けて貰ってばっかりなのにお礼が全然言えてなかったから」

「べ、別に」



気付いたらそっぽを向いてた。

照れくさいから。眩し過ぎて見てられない。



乙女が視線を外した先には一本の木が立っていた。そこは、先程世界樹の植木鉢が置いてあった場所のはず。青々とした葉を纏い、しかし他の木とは全く違う特徴もある。周囲はキラキラと輝き、魔力の粒子みたいな物が舞っている。


一目で納得出来た。これは特別な樹なのだと。


「いや、早過ぎでしょ。いくらなんでもねえ?」

「おぉー、すごい」


若干引き気味の乙女。

世界樹と同じくらい瞳を輝かせる少女。

そんな二人の元にふわふわと妖精が近寄って来た。

その背中には、妖精と同じ位のサイズの何かを抱えている。


「妖精の雫です。とても貴重な物ですが、是非貰ってください。私達からの心ばかりのお礼です!」


少女の手に乗るほどの大きさの、小袋に入った液体らしき物。

少女はそれを少しだけ遠慮した様な素振りを見せたが、丁寧に受け取る。


「どうか、また来て欲しい。いつでも君達なら歓迎だ。そうだね?ミュエラ」

「は、はい!お‥‥‥妖精王様!」



また来ても良いって言われた。

それなら竜聖国に戻ったら報告しないと。エルフは皆んな良い人だったって。



「そんじゃあ、帰る?イヴ」

「うん。フユ。お願いね」



私達は無事に視察を終え、当初の予定外ではあったけど欲しい物も手に入れた。あとは帰るだけだ。

大切なモノを手に入れる為に。

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