二百四十七話 加速する我儘
「という事なので、少し国を出ようと思います」
私は王様に会うや否や、外出の許可を得る事にした。
エルフの里を守る為に、私を含めた三名で王様にお願いした。私は一応代表として。
「うーむ」
王様は即決してくれなかった。それは仕方ないか。日頃の行いがあんまり、ね。
そして今気がついたけど、王妃様がいつの間にか王様の隣に居た。
「良いのでは?」
「しかしだな、リアーナよ。国の防衛がもにょもにょ」
国の防衛が‥‥‥から聞こえなくなっちゃった。一応、飛び飛びながらなら微妙に聞こえなくも無い。
イヴ様の身体がとか、二人がとか?
「いつまでも頼り切りでは駄目です。それにフユ様が聞いてますよ」
「ぐぬ」
「優しさに甘えてばかりではいけません。私達は大人なのですから」
「し、しかし」
「子どもがやりたいと言っているのに、大人である私達が信じてあげられないのは大人失格です。今後のイヴ様との関係にも差し支えますよ。ただでさえラーナちゃんにも嫌われているのに」
「ぐあッ!」
何か知らないけど夫婦喧嘩?が始まった。
王妃様が叱りつけてるのは何となく分かる。王様は凄いショックを受けた顔をしてるね。もしかするとこれが尻に敷かれるってやつなのかな。そんな事を考えてしまう。
すると、フユが隣で吹き出しちゃった。
王様夫妻はフユが笑った事で、我を忘れて盛り上がってしまっていた事に気が付いたみたいだ。王妃様が一つ咳払いをしてから話しかけてきた。
「見苦しい所をお見せしました。さて、イヴ様。護衛の騎士などの手配をしますので、今暫くお待ち頂きたく思います」
「それが、その」
王妃様からお目付役兼護衛を付けられそうになった。
しかし、これは断らないといけない。というのも、エルフ族としては出来るだけ里の位置を極秘にしたいらしい。だから里に行くのは私達だけだ。
「護衛は私がするよ。イヴは優しいから代わりに私が言おうか。護衛は邪魔だから要らない」
「‥‥‥わかりました」
ピシッと空気が張り詰めて凍ってしまった。
当たり障り無い程度に断ろうとしたけど、フユが完全に拒絶した。
内心どうなるかと思ったけど大丈夫そう?
フユが怖い。王妃様も怖い。
一応最初から話は聞いてくれてたから、王妃様は意外と我儘を聞いてくれるのかも。
いや。調子に乗って怒られたく無いから滅多な事は言わない様にしとこう。
許可はもらえた事だし早速行こう。
こうして私達はそそくさと王城を後にした。
外壁を守る騎士さんに通してもらってから街の外に出た。
前回の外出(家出)からおよそ一ヶ月。
思えば仕事漬けの日々だった。
部屋に入れば目に留まる物は溜まってしまった書類ばかりだった。それでもコツコツと片付けてだいぶ減ってたんだけど‥‥‥また溜まっちゃうかな。まあそれは仕方がない。
寧ろ息抜きとして、今の外出を楽しもう。仕事の事は忘れよう。いや、忘れたい。
私がそんな事を考えていたら、フユが私を抱き上げた。咄嗟の事でびっくりしちゃった。
振り返ると翼が生えてた。
「さあ行こっか?空へ。あっ、残念ながら特等席は1人用なので、エルフは私の魔法で飛ばしてあげる」
フユが喋りながら私達は浮かび上がる。
私は翼を出す事が出来るから別に構わないのに。
「つ、翼が!?ヒッ!う、浮かんでる」
「あっ、ちょっと暴れないで。動かれるとバランスが取りにくいから」
「で、でも」
「まあ、地上に降りたいならおろしたげるよ?無事で済めば良いけどね」
「そ、そんな!?」
気付けばそこは地上を離れた天空。
絶望に打ち拉がれるミュエラ。
もう既にかなり高い所に居るので、もしこのまま落下したら足が痺れる所では済まない。
ミュエラは大人しくなった。怯えて足元を両手でぺたぺたしてる。
「あー、確か下を見てしまうから怖いんだよ。落ち着くまでは空でも見てたら?」
「そ、空って。全部同じですよ」
「上だよ上。ま、どうせ案内が要るから慣れて貰わないといけないけどね」
最後の言葉はとても小さな声だった。
密着しているから聞こえたギリギリの声。
聞こえなくて良かったよミュエラには。
空を飛ぶのは理解出来た。飛んだ方が歩くよりは早い。それは理解してる。それにしてもどうしてこんなに高い所を飛ぶんだろう。低空飛行だと駄目なのかな。
うーん。考えられるのは、うっかり落下とかしても地面に着く前に救出が出来るからとか?
或いは、人目を避ける為。フユに聞いてみよ。
「ねえ?フユ。低空飛行なら怖くない気がするけど」
「んー?何かな〜」
あっ、なんだか分からないけど高度は下げないつもりだ。満面の笑顔にはそう書いてある。
「母だって飛んでいました。だ、だからわた、私だって」
うっ、ミュエラが気の毒だ。涙目になってるよ。
フユには何か考えがあるのだろうか。
私はミュエラの心配をしながら空を泳がされるのだった。
その時微かに聞こえた声には気付かずに。
「ぐっふっふ。待ちに待った久しぶりのお外デート。普段出来ないあんな事やこんな事をじっくり楽しまないと。2人っきりじゃないのが気になるけど」
十数年という時間。国には少女も父も居なかったのです。
しかし、少女が帰って来てからは、今まで問題無く乗り切っていた筈なのにどうしても甘えてしまう。
龍という存在が、竜聖国にとってそれ程までに安心感を与えてしまう物なのかもしれません。
少女は理解していませんが。