二百四十話 貴族の誕生会
私達は誕生日パーティーに参加する為にお城に参内した。
城内に入る前に受付があったけれど、招待状を出す前に、フユの顔を見るや否や許可が出てしまった。所謂顔パスと言ったヤツだが、王女様に会うと言うのに、そこら辺は案外ゆるゆるらしい。
まあ、招待状を出す手間が省けたと言えばその通りだけど、そんなので良いのかとは思った。
一々指摘するのもどうかとは思うけれども。
取り敢えずは城内を歩いて、パーティー会場まで向かうのだけれど、目的地が近付くに連れて心音が強くなるのを自覚してる。
言うまでも無いけど楽しみだ。
会場に辿り着けば、もう既に貴族と思しき人達が沢山居て雑談に興じてるみたいだ。
ただ、その時、私達が扉を押し開いた瞬間に視線が集まった。入って来た者に興味が湧いただけなら、私達を少し見たら会話に戻る筈だけど、視線が集まったままで、なんだか注目されてる気がする。そして、それは気のせいじゃない。
多分。原因は。
「イヴ様!」
ぱたぱたと靴音すら可愛らしい音を立てながら私達に歩み寄るラーナちゃん。
そりゃね?
パーティーの主役が態々出迎えをするなんて視線が集まって当然だよ。
王女様ともあろう者が「そこまで丁重になる相手とは」ってなるし。
勿論無自覚だろうけどね。王女様としての自覚を持って貰わないと。私が目立っちゃうよ。まあ目立ってるのはラーナちゃんだけどね。
「イヴ様?」
おっとまずい。
独り言に夢中になってた。
「あ、ああうん。招待状ありがとうございます。お呼び頂き、誠に嬉しく思います」
「い、イヴ様?急にどうしました?」
慣れない敬語を使ったら心配された。
頑張って練習したつもりなんだけどね。
私には才能が無いみたいだ。
「いえ。王女様相手ですから。丁寧に話さなければ駄目だと思いましたので。変ですか?」
「そ、そうではありません!ただ、その、なんと言いますか。距離を感じます」
ん?王女様とは距離を置いて話すのが当たり前なのでは?
そもそも今までが間違ってたんだと思う。それでも、ラーナちゃんは優しく接してくれたけど、いつまでもそれに甘えてたら良くないもんね?
だから私は口調を直さないといけない。と思うんだけど。
「いやまあねえ。そうなんだけど、うん。相変わらずだよね。それを客観的に聞いたら距離感を測りあぐねるよね」
「ん?フユ。どう言う事?」
「あ、いや。うーん?まあ、立場ってのは理解するけど、そんな物よりも大事な物は何かって話かな」
「立場よりも大事な物?」
「そうそう。王女様の事をどう思ってる?」
そんな事。
言うまでもない。
「大切なお友達」
「ふーん?」
「あ、あっ、ありがとうございます」
ん?
何か知らないけど、ラーナちゃんにお礼を言われた。お礼を言われる様な事をした記憶は無いけど、急にどうしたんだろう?
「喜んで良いのか曖昧だなあ。まあでも、そうだろうなって答えだよねえ」
「意味が分からないんだけど」
「良いよそのままで。イヴはそのままでいて欲しいな」
「はあ」
それにしても、こんな入り口で話し込んでたら邪魔だろうからもっと奥に行こう。もう既に何人かが、私の後ろで待ってるし。それと王女様を独占してたら良くないだろうし。
「ラーナ王女殿下?彼方でお話ししませんか?私が通りを塞いでしまっていますので」
「構いませんわ!私の誕生日パーティーなのですから。私が主役なので誰も文句は言いませんわ」
えぇ?それはまあ、誰も文句を言わないだろうけどさ。
「それに!私はイヴ様と会話をしているのです!他の人は待たせれば良いと思います!」
いや、どう言う理論なのそれ。
このままだとパーティーでは無くなっちゃうよ。それに、ラーナちゃんは私だけの友達じゃないんだし。
「気持ちは分かるけど、流石にこのままだと始まらないから聞いてあげて」
「ま、まあ。フユ様がそう言うなら」
フユがそう言えば、渋々頷くラーナちゃん。
いつの間に仲良くなったのか。
「さあさあ。始まるまでお話しをしましょう!」
今度は元気よく私の手を引きながら楽しそうなラーナちゃん。まあ、主役なんだし。これくらい付き合うのは当たり前かな。
それからのんびり会話を楽しんでいれば、予定の時間が来て、ラーナちゃんが最初の挨拶をしてから本格的にパーティーが始まった。
私とフユは食事を楽しみながらプレゼントを渡す機会を伺っていたのだけど、ラーナちゃんは他家の貴族様に捕まって囲まれてしまったので、その機会は中々訪れそうに無い。
それにこう言ったパーティーでは主役以外が交流するのは当たり前みたいで、フユもひっきりなしに話し掛けられている。
そう。フユが。私に話し掛ける人は居ない。
フユはフユで、凄く煩わしそうに応対している。
それはもう見るからに不機嫌そうに、まさに食べ物を貪りながら、それを邪魔するなと言わんばかりに視線だけを動かして返事をしている。
若干寂しさを憶えていたら、オルトワさんが私に話し掛ける者がいない理由をこそっと耳打ちしてくれた。
曰く。
「イヴ様は公爵でありながら、無名だからと声をかける価値が無いと判断している様に推測します。領地を持っている訳でも無いですから。また幼く映るのも原因かと。その点。フユ様を白龍だと知らぬ者はおりません。何と言いますか。貴族は打算的な生き物なので気にしてはなりませんよ」
そんな事を。
いや、うん。別に。どうでも良いし。
さっさとラーナちゃんにプレゼントを渡したら帰るだけだし。
私は痩せ我慢をした。
はあ。私も食事を楽しもうかな。
いつ話し掛けられるかなって、心を躍らせながらフォークも取らずに待ってたのに。
ラーナちゃんも忙しそうだし。プレゼントを渡すタイミングも無いから。
こうして私も貪った。
結構な時間が経った所で、ラーナちゃんがお色直しだか何やらで、一旦部屋から出て行った。
私はこのタイミングしか無いと思い、戻って来た瞬間にプレゼントを渡す事を思いついた。
そしてどうやら私達は上手くやれたらしい。
ラーナちゃんを捕まえることに成功して、私とフユは、ラーナちゃんに話し掛けるのだった。
補足になるのですが、主人公を黒龍だと知る者は少ないです。
そしてメイド長は知らない側です。
逆に乙女を白龍だと知っている者は多く、貴族ならほぼ漏れなく知っています。