二百三十八話 はじめての共同作業
取り敢えず、誕生日プレゼントを何にするかは決めたけれど、どうやってそれを用意しようか。
簡単に済ませてしまうならお店に買いに行く事だろうけど‥‥‥それは最終手段にしておこう。
試しに作ってみて駄目だったら買うとして、それなら材料は‥‥‥オルトワさんに用意して貰おう。
「と言う事でお願いします」
「何事かと思いましたが」
「うん。余ってる宝石とかあったら欲しいな」
「それが」
「ん?どうしたの」
「イヴお嬢様はそう言った物に興味がありませんでしたので、宝石の類は邸内には無いのです」
「な、なんと」
確かにそんな物には興味が無かった。
昔から私はお金があったら装備品にお金をかけてたし、身につけてたペンダントもあげちゃった。
「素材を買いに行こうにも、王女様の誕生祭が近い事から、それらの値段も跳ね上がっているでしょう。そもそも品切れの可能性も高いですが」
「踏んだり蹴ったりだね」
みんな考える事は同じか。
そりゃね?
王女様にプレゼントするんだと息巻くよね。
うーん。なら、私のマントとか仮面とか?
と思ったけど、マントは赤とか黒とかの模様でラーナちゃんには似合わない。寧ろ不吉な雰囲気まで漂ってるから、変に誤解されるかも。アレを装備してたら変質者だものね。
それなら仮面はと言うと、見るからに怪しい仮面だからと同じ理由で辞めておこう。
翡翠のダガーは借り物だし、そもそも誕生日パーティーに刃物を持ち込むのは如何なものか。
「お嬢様?宝石の類はありませんが、金属はありますので、それを持ってきましょうか?」
「うーん。それで作ったら幻滅されない?」
それで作った物は見るからに安っぽいだろうからね。
「正直、お嬢様からのプレゼントなら何でも喜びそうな気がしないでも無いですが」
「いやいや。相手は王女様なんだよ?そんなに簡単な相手では無いんだよ」
「それは仰る通りですが。あの気難しいラーナ王女様がこれ程懐いていますからね」
「ん?何?」
「いえ。取り敢えず持ってきます」
そう言ったオルトワさんは、倉庫に素材を取りに行ってくれた。
少し待ったら、すぐに戻って来て渡してくれたのは、所謂金とか銀とかそう言った物だった。
でもこれって、スプーンだよね?
いや、気にしたらダメか。どうせ使ってないし。
「この辺を加工してなんとかするしかありませんね」
「あれ?オルトワさん手伝ってくれるの?」
「期日まで間が無いですからね。それにお嬢様の手伝いは私の役目ですから」
「あ、ありがとう」
「とは言ったものの、形を変えるなら溶かさないといけませんね」
そうか。流石に固まっている金属の形を変えるのは難しいよね。うん、難しいだけ。やろうと思えば出来るけど、オルトワさん達には内緒だからどうしようかな。
フユに任せれば良さそうな気もする。同じ龍族だから出来ると思う。多分。
うーん。そう都合良くフユが来るとは限らないけど。
「呼んだ?」
「ひゃうん!?」
突如として背後から声を掛けられて跳び上がってしまった。
まさか、呼んでもいないのに来るとは思わなかった。もしかしたら、心が通じているかも。
「フユお嬢様。イヴお嬢様のベッドで寝ていた筈では?」
「んー?呼ばれた気がした」
確かに来て欲しいとは思ったけど。そう、願った瞬間に現れたから、びっくりした。一応単なる偶然だとは思う。私の部屋から、ここまで歩いて数分は掛かるから。私のお願いが届いたとは考え難い。
だから偶々だし、そんな超能力みたいな物はある筈が無い。考え過ぎだ。
まあ、来てくれたならやって欲しい事をお願いしよう。本当に良いタイミング。
「フユ。この銀と金の形を変えたいんだけど出来る?」
「は、はい、できまひゅ」
「えっと、ならまあお願い」
「う、うん」
どうしたんだろう。
なんだか慌てている様な。
私はフユを心配していたが、それを他所に、フユは順番に金と銀に魔力を込めた。すると赤色に輝いたり、青色に輝いたりとその金属達に変化が発生した。
片方はよく知った変化を。もう片方は初めて見るが、変化する事自体は知っていた。
「これは、驚きました。ミスリルと、何でしょうか」
「さあ?魔力を増幅するらしいけど、名前は知らない」
「フユでも名前は知らないの?私もだけど」
「んー。変化するのは知ってたけど、実際に見たのは初めてかな」
「成る程。未知の金属と言えますね。それなら王女様へのプレゼントとしても相応しいですね」
「うん。と言う事で、フユ。手伝って」
「ほいほい。あぁ気安い感じ良いなあ。久しぶりで緊張したけど、やっぱコレだよね」
「ん?何?」
「な、なんでもない」
「ふーん?」
まあ良いや。良く聞こえなかったけど、取り敢えずフユに手伝って貰えば完成すると思う。ありあわせの物だけど、なんとか工夫して、ラーナちゃんに喜んで貰わないと。
こうして手伝って貰った。
までは良かった。
「あぁ!そこ違うよ」
「え!あ゛!」
「‥‥‥やり直し」
「‥‥‥はい」
髪飾りを作ろうとしていたのだが、二種の金属に魔力を流す事によって形を変えたり、繋げて模様を描こうとしていた。しかし、作っている物が小さいのでかなり難しい。
魔力の操作が出来上がりの質に直結するから。
どうにもフユは、あまり器用では無いらしい。
最初は凝って凄く難しい形にしようとした。
幾つもの花が連なる感じにしようとしたけど、まず一つ目すら苦労している。材料も多くは無いので、所々空洞にしたりした。
そもそも金属なので重くなるのもあったり、髪が見えなかったら意味が無いので、適度に穴を用意した。
それが良く無かった。形が歪になって簡単にポッキリと。
結局飾りは一つだけにした。
失敗する度にフユが泣きそうになるし、その内自分でやれと言われかねない気がしたから。
そして完成したのが、4枚の青銀の花びらの中心に、金の丸を象った髪飾り。遠目で見れば銀色の髪飾りなので、金の髪の邪魔はしない筈。これならきっと似合うと思う。
私のセンスが狂ってなければ、だけど。
少女は出来上がりに満足して、早速パーティーの準備に勤しむのだった。
アレ?少女は相変わらず何もしていない様な。
乙女は不器用と言うか、まあ色々あります。