二百三十五話 運命とは?
少女は腕を組み目の前の人を見つめていた。
その視線の先には一人の女性。ベッドの上で正座を組み、肉食獣に睨まれたウサギの様に固まっている。
そもそも何故この様な状況になったのか。
それは少し遡る。
鼻歌を歌いながら廊下を歩いている乙女。
随分と機嫌が良いみたいで、誰も聞いていないのに話し始める。それは所謂独り言。
「久しぶりに目が覚めたみたい。今後こそちゃんと会話をするぞ。うん」
ガッツポーズを決めたかと思えばある部屋の前で立ち止まった。
そして扉の前で深呼吸を繰り返して、意を決してのかその扉を押し開く。
「イヴ!様子を見に来たよ!」
しかし、反応は返ってこなかった。
「あれ?」
乙女がベッドを確認するが、今は少女はいない。
身体が小さい少女の事なので、布団の中にいるのかと思って布団を捲るが、勿論いないものはいない。
漸くこの時点で少女が居ない事を理解した。
「うっ、またか」
布団を持ったまま苦い顔になる乙女。
落ち込んでいるらしい。溜息を吐いている。
この頃間が悪い為、少女が目覚めたタイミングを狙っていたのにも関わらず、一度も会えていない。
仕方ない。探そっか。
乙女はそう思い振り返ったが、ピタリと動きを止めた。
「まてよ?」
このままだとどうせまた会えない。
多分だけど運命の神様的な物が私を阻んでる気がする。
思えば、今までだって普通はあり得ない様なすれ違いが多い。失敗の殆どは私が悪い訳じゃ無いよね。
つまり、運命に抗うのは無理だろうから‥‥‥よし。どうせ。
そう考えた乙女の中の悪い心が膨れる。
「んしょ、よいしょ」
乙女は少女のベッドに侵入して布団に包まる。そして、慣れた動きで体制を整えて息を吸い込む。
「無臭だ」
とても悲しそうな声で感想を漏らす乙女。
「いや、まあ、石鹸の匂いはするけどさ、こう、ねえ?」
乙女は誰かに向かって問い掛ける。
「思ってたのと違う。身体が違うんだからそりゃまあそうなんだろうけどさ。なんて言うの?昔のあの甘い匂いを求めてたのに」
一人不貞腐れる乙女。声に出ている。
その時。扉の方からガチャリと音が聴こえて、乙女は慌てて布団に潜り込むが、その動きが入室者に見えてしまった。
ヤバイ。誰か来た。
ま、まあ?イヴじゃなければ誤魔化せる。
そう乙女は願った。
「え?何?」
その声は乙女が一番あり得ないと信じた人だった。
「布団。生き物だっけ?」
何か不思議な事を口にする少女。
ある意味現実が受け入れられて無いのかもしれない。
「そんな訳ないか」
少女は自らの言葉を一瞬で否定する。
そして、少女はゆっくりと近寄る。
乙女は布団の中で息を潜めていたが、少しずつ大きくなる足音が、乙女を追い詰める。
やがて足音が聴こえなくなった次の瞬間。代わりに布団が投げられた音が鳴り、隠れていた乙女があぶり出された。
少女は正体不明の蠢く塊(布団)を捲り、その中のモノを見て驚愕した。
そこに居たのは乙女。丸く蹲っていた。
「‥‥何してるの?」
「な、ナニモシテナイヨ」
一応ここは私の部屋で、ベッドは言うまでもなく私の。
どうしてフユが居るのだろうか。
確か‥‥‥起きた時には居なかった。
多分、私が部屋から出てリスタさんと会話をしてた時の間に侵入したのだと思う。
まあ、別に侵入した事は咎めるつもりは無い。何か隠してる気がするけど。
「何を隠してるの?」
「べ、別に私、まだ悪い事はし、してないから」
しどろもどろで慌てふためく乙女。
確かに悪い事はしていない。布団に侵入するという事が悪い事だと言ってしまえば、その限りでは無いが。
しかし、乙女の動揺が、少女に不信感を与えるのは間違い無かった。
「フユ?」
「はひゃい!」
「どうして目を逸らすの?」
「それはそのなんと言いますか」
少女の瞳が少しだけ陰を帯びる。
「まあ‥‥‥良いや。どうしてここに居るの?」
「あうぅ」
うう。戻って来るとは思わないじゃん。
怒られるかと思ったらそんな事ないし。
何か急に落ち込んでるし。
乙女が色々な事を考えていると、少女のジト目はパッチリと開かれた。
「それとも、まさか」
少女は気が付いたらしい。
乙女は今度こそと思い、覚悟した。
「一緒に寝たいの?」
そんな言葉が少女から繰り出された。
乙女は一瞬言葉の意味がわからなかった。
「え!?」
「あ、だから、一緒に寝たいのかなって」
「そ、それは、ちが」
乙女が慌てて否定をしようとするが、ものすごい勢いで少女が落ち込んで行っているのを乙女は察知した。これは不味いと思ったのだろう。すぐさま意見を変えた。
「わないかな??」
結局乙女は否定出来なかった。
しかしどうやら、少女は嬉しいみたいだ。笑顔になった。すぐにその表情は平静へと戻ったが。
「そう。ならまあ、いいよ」
あくまでも自分から甘えたなどとは認めない少女。
強がっているが、内心乙女には見透かされているかもしれない。
「もう少し詰めて」
「あ、ああうん」
「仕事。仕方ない。うん」
少女はそう言って乙女の隣を陣取りながら言い訳を述べる。
乙女はと言えば、展開が急過ぎて頭の回転が止まってしまっている。
あれ?なんでこんな事に。
運命の神様?
そうか、夢か。
「痛い」
「何してるの?」
呆れるかの様な少女の視線。
自分のほっぺをつねる乙女。まだまだ現実が見えていない。
「早く寝るよ?」
「はい」
珍しくしおらしい乙女。
結局目が冴えてしまって眠る事は出来ないのであった。
乙女への好感度が上がりました。
理性が働いている時の少女はかなり頭が良いです。
しかし、どこか冷たい。そんな感じです。
時に感情が爆発することもあります。幼さ故。
自己に対する評価は厳しめで、何故か他人には甘い少女。その反動なのか、実は甘えたがりです。