二百三十四話 少女のいない時
少女は目を覚まして周囲を確認する。
よくよく見ればどうやら今は夜らしい。
近くに置いてあったランタンらしき物を手に取って廊下に出れば、真夜中では無いらしい。静かだが明るいので、自分以外は多分起きているだろう事を理解した。
私がどれだけ寝ていたのかわからないので、誰かしらに話を聞く為に人のいそうな場所を求めて歩く。
そうすれば一人のメイドに出会った。
それはリスタと呼ばれるメイド見習い。この屋敷に戻ってから会うのは初めての相手。
向こうは驚いていた。正確には表情に書いてある。
「あ!イヴお嬢様!」
「えっと、こんにちわ」
リスタさんが嬉しそうに駆け寄って来た。
夜に大声を出してたらまたオルトワさんに叱られちゃうよ。
そんな感想を抱いたけれど、嬉しそうな反応が、私にとって本当に嬉しくてそんな些細な事は気にならない。
「あー、このプニプニほっぺ。懐かしいですう」
急に抱きついたと思ったら私の頬を触り始めるリスタさん。
イヤ、そっちかよ。
私のリスタさんに対する好感度がほんの少し下がった。
私は露骨に不機嫌になった。
多分それを察したリスタさん。
「あ!も、勿論戻って来てくれて嬉しいですよ!?一応メイド長から帰ってきたとは聞いていたんですが、中々タイミングが無かったです」
「そうだね」
「それはそうと、どうかしましたか?」
屈託の無い笑顔で用事を聞いてくれるリスタさん。
問われて私は思い出した。元々人を探していたんだ。
私は別に何をしたかったとかは無いけど。強いて言うなら、会話をしたかった。
「私が居なくて、皆んなはどうだったの?」
思わず訊いてしまう。
悪い答えが怖い癖に、聞かずにはいられなかった。
「皆んな。ですか。私は少々退屈でした」
「そうなの?」
「はい。お嬢様がいなければ仕事が無くて。‥‥‥あ!」
何かを思い出したかの様に、突如として叫ぶリスタさん。
「実は、大変だったんですよ。お嬢様が居なくて」
「え!?」
どうやら私が居ない所為で大変だったらしい。
益々、罪悪感が湧いてくる。
「そのですね。フユお嬢様とメイド長が喧嘩したんですよ」
「ほぇ?」
私はてっきり、直接私に関わる問題が発生したのかと思った。そうではないらしい。
とは言え、喧嘩も一大事と言えばそうだし、私が遠からずの原因の可能性もある。
何にせよ聞かなければ。
「それは、どんな事なの?」
「はい。メイド長がいつも通り食事を持って行ったんですよ。そしたら、フユお嬢様がピリピリしてたのか拒絶したんですよ」
あー、それ聞いたかも。
オルトワさんから直接聞いた。
なんだけど、態々話してくれてるのに遮るのは良くないよね。
黙って聞いとこう。相槌を挟むのも忘れずにね。
「するとメイド長が怒っちゃって。ならもう作りません!って言っちゃったんですよね」
「ふむふむ」
「でも、なんだかんだで作ってあげてて、今更1人増えたところで手間は変わらないって言ってました」
「へえ」
なんだかんだで優しいんだよね。オルトワさん。
「流石にフユお嬢様も悪いと思ったのか、食堂には顔は出さなかったんですけど、食器だけは部屋の前に置いてあって、一応食事は摂ってたみたいですよ」
「ふーん」
私が家出したから機嫌が悪かったのかな?
なーんて。まさか。自意識過剰。
「あっと、それよりもですよ!」
またもや急に大声を出すリスタさん。
また何か思い出したみたい。
「フユお嬢様が男性を連れて来たんですよ。その方は結構年齢は上だと思うんですけど、ひょっとして、フユお嬢様は年上の方が好みなんですかね?」
「う、うーん?」
なんとも言えない。
人付き合いは人それぞれだから、私が何か言える様な事は無い。
「あ、でも、別部屋なので流石に。いや!人前ではそう言って健全に見せ、夜には‥‥‥キャー」
何か知らない間にリスタさんが盛り上がってる。
どうしたんだろう?
‥‥‥なんか、話し合いをする空気じゃ無くなっちゃったな。
「ごめん。リスタさんこの辺で」
「あ!そうですね。スミマセン。話が脱線してしまって」
そう言ってリスタさんは戻って行った。
廊下の角を曲がった瞬間。リスタさんの悲鳴と話し声が聞こえた。
「はう!?メイド長!?」
「ちょっと宜しいですか?ねえ?リスタさん」
「い、いえ。よろしくないです!」
「まず‥‥アナタは‥‥ながら」
「痛いです!離して下さい‥‥んです」
あからさまにオルトワさんの機嫌が悪い。
矛先が向いてなくても判る位には。
何かあったみたいだ。静かになった。
多分、騒がしかったから人が集まったのかな?
まあ、気にしない様にしとこう。
さて、仕事でもしようか。退屈だもの。幾らでもあるし。うん。そうしよう。コツコツやらないと終わんないからね。
私はそう思って取り敢えず自室に戻った。
するとそこには有り得ない光景が。
私のベッドが蠢いていた。正確にはベッドの中の布の塊が。勿論布団が生きているとか言う常識外れな答えは聞いた事がない。
さらに私の部屋にはベッドは一つなので、アレは私ので間違い無い筈。
つまり、私以外の何か。それも生物が隠れていると見て良い。
私は意を決して、その正体を探る為に布団を捲れば、布団の蠢きよりもさらに驚いてしまう存在がそこに居たのだった。
さて、ホラー展開です。
布団が生きている。ナニカが隠れている。何者かが遠隔で操作している。
の、どれかです。
これは難しいですね。