二百二十七話 龍の居ぬ間に
私は目を覚ました。
長い間寝ていた様な気がする。
ふと、何か両の手に硬いものが触れている感覚があり、恐る恐る見てみると、赤色の様な黒色の玉を抱え込んでいた。
私はそれに気付いて改めて実感した。
「ああ、夢じゃなかった」
久しぶりに親友と会った。フユのお陰で。
親友を救う事は出来たはずだけど、あの後どうなったのかは分からない。
けど、この玉からは微かに震えを感じる。
だから多分大丈夫。
少女は大切そうに玉を撫でていると、ノックと共に女性の声が聞こえて、それに続いて人が訪れる。
数日ぶりのメイド長だった。
「お嬢様。起きていましたか」
「うん」
会話をして思い出した事があった。それは
「やばい。私、家出したんだった。怒られる」
色々あって忘れていたけれど、よく考えたら身勝手に家を飛び出したのだから説教が待っている。
特に厳しいオルトワさんなら、それはもうコッテリ絞られる事だろう。
「お帰りなさいませ。私が何かを言う事はありません。ご安心を」
「うっ、」
ああ、読まれてる。
「表情に出ていますよ。正確には目ですが」
「そ、そんなに?」
「はい。フユ様が‥‥‥心配していましたよ」
「うん。分かってる」
今思えば心配して連れ戻しに来てくれてたんだ。
それなのに、私の我儘で拒絶した上に無視して旅を続けてたんだ。
殺すつもりはなかったみたいだし、何よりあれだけ私の為に尽くしてくれたんだ。
「毎日泣かれて、手がつけられませんでしたから」
「あぁ、そんなに」
「お掃除をしようにも追い出されて大変でした」
「ごめんなさい」
「ふふ。冗談ですよ」
メイド長は微笑みながら色々と教えてくれた。
ほぼ愚痴だったけど。
「それから、急に戻らなくなったんですよね。偶に夜に戻って来ては、またどこかへ行くのです。食事はどうするか。ほとほと困り果てましたよ」
「あはは‥‥‥」
「それでですよ。訊ねたんですよ。食事はどうするかと。すると何と言ったと思いますか!?」
「えっと?」
「「いらない」ですよ!?」
「うん」
「は!?し、失礼しました。お嬢様」
「ううん。続けて」
メイド長の話を聞いていれば、なんとなく楽しくなって来た。
そもそもオルトワさんが感情を出すのは珍しいので、これはこれで面白いし、今まで私は我儘に過ごしてたから、少しくらいは人の話を真剣に聞かないとね。
「コホン。長くなりました。さて、白龍筆頭に、私達家臣一同、王家、それぞれ心配しておりました。皆様がどの様に仰るか、それは判りませんが、挨拶に伺う事をお勧めします」
「うん。お礼と、謝らないとね」
「ええ」
「順番はどうしようかな?」
「まずは白龍であるフユ様かと思いますが、出掛けておりますので王家が良いかと。その際に見かけた知人には一言あればそれで」
フユは出掛けてるのか。
あれからちゃんとお礼を言えてないし、個人的には一番に会いたかったんだけど。
「そうそう。誰が私の家出を知ってるの?」
「そ、それが」
ん?
なんだか凄く険しい顔だ。
何か不味いことでもあったのだろうか。
「その‥‥‥お触れが」
おふれ?
お風呂の亜種?
いや‥‥‥冗談だけどさ。
「領内の者ならイヴ公爵様が失踪したのは、皆が知っています」
あ゛!?
そうじゃん。どうしよう。
全員に謝りに行くの!?
「どうしよおぉ」
「王家に任せましょう。どちらにしてもお触れは取り消す必要がありますから」
「そ、そうだね!」
あー、滅茶苦茶色んな所に迷惑かけてるよう。
あれ?これはもしかして大説教コースでは?
やばい。嫌だあ。
「うぅ」
「わ、私も行きますから。お嬢様頑張りましょう!」
「ありがとぉ。ぐすん」
少女は涙を浮かべながらも決心をして、遂に立ち向かう事を決め、いざ王家へ。
そして、少女は重い足取りを無理矢理奮い立たせて王城へと辿り着いた。保護者付きで。
「そう言えば、事前のお伺いは必要無いの?」
「それに関してなのですが、お嬢様の居ない時に、許可は要らないと陛下が直々に」
「え!?態々!?しかも来たの?」
「そうです。代理としてフユお嬢様が受理しました。それはリベリオン家の2名を名指しで許可を頂いています」
「はわわ」
「また、2名の代理なら、つまり私とかがイヴお嬢様の命令とかでなら、それに対しても許可が要りません」
「相当な権限だよね」
「そうですね」
つまり私達が、王様の暗殺を企てたりしたらそれを止める事は出来ない訳だから、相当信用されていると見て良い。
でも、私、家出してたのに。大丈夫なの?
「流石に代理の場合は手紙などが要りますが、普通は基本門前払いですからね。それと比べれば桁が違いますね」
オルトワさんがそう言っている内に着々と取り次ぎの用意が整っている。
王家のメイドさん達も通りかかるオルトワさんにお辞儀をしている。
オルトワさんが王家に仕えてたのは知ってるけど、どう言うポジションだったんだろう。
少女はメイド長に連れられいつもの部屋に入室する。
ああ、着いちゃった。
もう逃げられない。でも、今度は逃げない。
逃げなかったら怒られなかったのかな。
少女は珍しく出された茶菓子に手を付けずに人を待つ。
神に祈りを捧げる敬虔なる信徒の様に。
あるいは死を待つ者の様に。
贖罪の時を待つのだった。
一応十章です。やる事は決まってるのでサクサク進めたいですね。
さて、とりあえず迷惑をかけた人へのお詫びの挨拶回りです。
暫くは国絡みでのんびり目で行きたいと思います。
あと、並行してアイちゃん絡みも。
目下の目標はアイちゃん復活で。