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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百二十六話 奇跡の絆

少女はベッドに寝かされていた。すやすやと寝息を立てて穏やかに眠っていた。

そしてそれを真剣な瞳で眺める乙女。

物思いに耽り、自らの記憶を辿っていた。





どうしても戦わないといけないの?


『うん。警戒してるだろうからね』


説得するだけなら必要無い気もするよ?


『ミュエラがいる限り信じないよ。私自身の声すらね。それはそうと、心臓の位置に魔力核があるのは知ってる?』


あぁ、そうなんだ。

魔力核?魔法を使う時に力を込めてる所?


『そう。龍の魔力核は壊れないけど、唯一、私だけは壊せるから気をつけてね』


気をつけてって言ってもねえ?

下手したら死ぬって事だよね?


「うん。何とかその魔法を使われない様に工夫して。その、無事でいて欲しいから」


‥‥‥うん。わかった。




微かに残る声に耳を傾けていた。

声を聞いた事で乙女の頬が弛み始める。


「言われた通りにしたよ。ね?私、頑張ったよね?」


乙女は少女の頬を突く。特に返事を求めていた訳では無いが、乙女が触れた事で少女が目を覚ます。


「んんっ、あ、ここはどこ?」

「あっ、起こした?おはよ」


乙女が少女に話し掛ければ、薄らと開いていた瞼を目一杯広げて起き上がる。

その瞳は乙女を見つめ、何があったのかを瞬時に理解した。



あ、私、負けたんだ。

なのに、どうして生きてるんだろう?

どういうつもりなのか。命までは取るつもりは無いって事なのだろうか。



少女が気になって乙女をじっと見つめれば、ふいと乙女は視線を逸らした。少女に見つめられて照れくさいのか頬を染めてしまっている。

その反応が、どうにも命を狙われていた様には思えず、ますます疑問が深まってしまう。


2人が固まって奇妙な空気が流れていた頃、タンタンと扉が叩かれ、それに続いて声が聞こえる。


「失礼します。フユ様。完成しましたがどうしますか?」

「あー、うん。入って来て」


乙女が応答すれば、ガチャリと扉が開かれ男性が入って来た。


「おや?お目覚めでしたか」

「あ、」


急に話しかけられ怯える少女。

自分の知らない所で会話が進み、不安が込み上げてくる。


「早かったね」

「急ぎましたから。体調は如何ですか?」

「まあ問題無いかな?」

「それは良かったです。さてコレですね」


男性が取り出したのは赤黒く不穏な輝きを放つ丸い玉。中の赤い模様が蠢き、まるで生きているかの様な不思議な玉。

危険な物に見えるが、惹きつけられる様な魅力も感じる。


「ごめんね待たせて。今、全部が揃ったから。はい、イヴ」

「これは?」

「アイちゃんを起こして来て。これ、新しい身体だから」

「え?」


少女は戸惑う。

もう既に亡くしてしまっていた。

そう思っていた。しかし、乙女の言葉に思わず縋る。


「で、でも、私」


喉まで出かけた声を止める。

自らの失敗を認めたく無かったから。

しかし、乙女は出なかった言葉に対して否定をする。


「死んでないよ。だから、逢いに行っといで。これがあれば救える筈だからさ」


言葉が信じられず、その玉と乙女を交互に見比べる。



嘘だと思えなかった。信じたいと思った。



少女は玉を受け取り小さく頷く。

今まで疑っていたのが嘘の様で、笑顔で乙女を見つめる。乙女も笑顔で応じてくれた事で、少女は集中する。

そして、自身と玉を繋ぎ、かつて親友のいた場所へと飛ぶ。


少女の瞳は濁り、意識を失う。

乙女達はそれを眺めて声を漏らす。


「行ったね」

「ええ。上手く行く事を祈りましょう」

「うん。グスッ」

「無理してたのは分かっていましたが、お強いですね」

「そんな事ない」

「いえ、そうですか」


乙女は涙を拭い少女を見届ける。

この奇跡を起こす為に最も苦労した功労者として、少女を眺め続けるのだった。









暗く、無音の世界の中。

一切の明かりすら無い場所を迷う事無く、ただ真っ直ぐに歩く少女。

目的地に辿り着いた事で歩みを止めた。


『来たよ。嘘じゃなかったんだね。良かった』


鎖が巻き付き、刺さった塊に話し掛ける少女。

その声に微かに応える声。


《何をしに来たのですか?》


大切な人の声。

それが聞こえて、喜びの感情が湧いて来るのがわかる。


『助けに来たんだよ』

《もう手遅れです。如何に貴女でも不可能です。だから、かえ》

『帰らないよ。私を助けてくれた人の為にも何としても連れて帰る』

《強情ですね。昔から貴女はそうでしたね》

『うん』

《まあ、やってみて下さい。どうせ、私は》

『わかった』


少女は最後まで聞かずに鎖を全て解き、祈りを捧げる。

蒼く、光がもう1人の少女を照らす。


《ふふ。流石の貴女でも弱った私の魂を治すのは不可能ですよ》


諦めるかの様な女の子。諭す様に言い放つ。

それを睨む異眼の少女。


『アイちゃんが諦めたら駄目って言ったんだよ。だから私は諦めたくない』

《そう、ですか》

『一つ、思い出したんだ。初めて君と出会った時の事を』


余裕そうだった女の子の表情が固まる。瞳が揺らぎ、慌て始める。


《な、何をするつもりですか?》

『2人で1人。私達は生まれた時から2人。そして、これからも。だから、半分こだよ』


異眼の少女が女の子ににじり寄り、それによって後退り、女の子は逃げようとする。


《こ、来ないで下さい》

『駄目だよ。もう二度と逃がさない』

《それをしたら、貴女が》

『今度は失敗しないよ。手を取って』


目の前に来て手を差し出す少女。

震えて躊躇う女の子。

ゆっくりと恐る恐る手を取った。その瞬間。少女は大切な親友を抱きしめる。


『今度こそ、絶対に』


青色の光は女の子に取り込まれ、輝きは弱く、か細くなって行く。

互いに強く抱き合い、ゆっくりと元あった暗い世界へと沈むのだった。

所謂、深層意識というやつです。

その世界では曖昧な記憶を取り出せたり、普段の自分とは違った能力が使えるとかなんとか。


明晰夢的なアレです。

そもそも少女は無意識に力をセーブしていますから、この空間では無敵です。

勿論口喧嘩も最強です。何せ議論が通じませんから。

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