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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百二十五話 囚われの姫君

少女は金の風人と共に平原を歩き、行く当ての無い旅を続けていた。

少し予定がずれ込み、長い事あの村に滞在していた。村人達と仲良くなり過ぎて中々出られなかったのだ。


「良い村だったわね」

「うん。良い人達だったね」

「食べ物も沢山貰ったから随分と遠くまで行けるわ」

「蜘蛛さんも馴染めて良かった」

「そうね」


2人談笑しながら乾いた風を背に歩いていた。

しかし、夏だと言うのに何故か風が冷え始める。


「少し冷えて来たわね?」

「そうかな?そうかも」


少女は言われて初めて気が付いた。

空はどんよりと曇りへと変化していた。

若干湿気も感じる気がする。


「雨?が降るのかしら」


心配そうに上を眺める金の風人。

少女が釣られて空を見ればそこには人が居た。

白色をした神。神秘の白龍が人型で此方を見つめていた。


その人に気付かれてはいけないから気配を隠していた。

しかし、瞬時に理解した。

それだけでは足りなかった。逃げ続けるのなら、その姿すらも見せてはならなかったと。



でも、もう遅い。手遅れだ。



瞬きをしたら姿は消えていた。

「何処へ?」と視線を彷徨わせれば、同じ高さに降りて来ていた。

思わず唾を飲んでしまう。


「こんにちわ。いい天気だね?」


その言葉はまるで、喉元に刃物が突き付けられているかの様な恐怖を与え、私は咄嗟には声が出せなかった。


「そんな目で見なくたって良いのにー」


気楽そうな声。

この前とは違う必死さの欠片も無い声。

勝てるって確信している様にも取れる。

いくらフユでも、魔力核を破壊したら倒せる筈。大丈夫。


私はそうやって自分自身に冷静さを取り戻させる為に言い聞かせた。


そうだ。相手が油断してるなら。

そう思って、フユの魔力核に繋げようとした。

しかし、掴もうとした瞬間に消えた。

魔力核を破壊しようとしても少しだけ時間が掛かる。その事は私も知らなかったけど、フユは知ってたみたい。


「危ないね。流石にそれには気をつけてって忠告されてたからね。避けるよ」

「ぐっ、」

「油断してないと効かないよ?まあ、幾ら試してくれても良いけどね。但し、」


フユが私を試す様に言う。

恐らく言葉通りに魔力核の破壊は無駄だと思う。そして、フユの言葉に続いて魔力の槍が出来上がり、その矛先をミュエラに向けた。

当然黙って攻撃させる訳にはいかないから、今度はその槍を投擲される前に破壊した。


結晶は砕け散り、輝きが生まれ、微笑むフユの綺麗な顔を彩る。

これが敵じゃなければ見惚れていたのは間違い無い。

私がフユを睨んでいると、フユが息を漏らした。

何となく緊張している気がした。あっちの方が有利な筈なのに。


「ふう。さて?そのエルフ。ミュエラだっけ?巻き込んじゃうけどどうする?」


訊かれなくても決まってる。


「護って見せる」

「ふ、ふーん?私相手に?随分余裕だね」


ピクピクと眉根が動いてる。

怒らせちゃったかな?

怒らせるつもりは無かったけど。


「そんなんじゃないよ」


余裕がある訳ない。

正直私が全力を出せば勝てるかもしれない。

可能性だけで言えば万が一はあり得るから。


でも、フユを倒しきる前に反撃でミュエラがやられてしまう可能性がある。そんな事あってはならない。

だからフユとの間に私が立ってるんだし、フユの魔力核が破壊出来てればこんな事態に陥ってない。

まさか躱せるなんて思ってもみなかった。多分心の何処かで油断をしていたのは間違い無い。


「そう?なら、邪魔の入らない所で相手してあげようか?」

「どう言う事?」

「私の射程外でも良いよ?私はお姉ちゃんだからね」


随分と余裕そうだ。

ミュエラを護るのが厳しいのは事実。だから乗っても良いとは思う。

でも、その提案をするメリットが分からない。私としては願ったり叶ったりなのだけど、なんて言うか、形容し難い違和感がある。


いや、護らないといけないんだ。

相手が乗ってくれるならそれに越した事はない筈。だけど。


「提案した理由は?」


一応訊ねる。

どうしても不安が拭えなかったから。


「そのエルフを巻き込みたく無いからね」


嘘じゃない。何故かは分からないけど本当の事を言ってる。

信じて良いのかな?


私はたったその一言で信じてしまう。


「‥‥‥わかった」

「そう?じゃあ、こっちへ来て」

「駄目よ!ルビー!」


ミュエラは私を止めようとした。


「え?」


咄嗟に振り向いてしまった。

そして私がフユから目を離した隙に、背後から何かの気配を感じた。


「うぐっ!?」


黒い何かに掴まれ、私を包み込む。

すると私の目に映る景色から、色が消えて行く。

なんだか眠たくって、ぼんやりと浮かぶ様な感覚。力が入らなくて抵抗する気力も湧かない。

意識が薄れていく中。私はミュエラの顔を眺めてた。



よかった。



ミュエラは



無事



だ。





ドサッ。




「ルビー!?」

「危ない危ない。ホント、中々油断しないから苦労したよ」

「な、何をしたんですか?」

「さあ、何でしょうね?」


乙女はそう言って少女を担ぎ上げる。

しかし、それを止めようと風人は弓を構えて脅しをかけた。

その手は震え、翠の瞳からは涙が滲んでいる。


「に、逃しません。ルビーを置いて下さい」

「へえ?この子に当たっても良いの?」


乙女は笑いながら、担いだ少女を盾にするべく持ち替える。


「ひ、卑怯です」

「そう?そう思うって事は、この子を避けて私に矢を当てられる自信が無いって事だよね?それじゃあ本気ではないって事だよ」


益々泣きそうな風人。

追い討ちをかける乙女。


「盗りにおいでよ、本気ならさ。竜聖国まで。それに、龍は矢なんかでは死なないよ」


乙女は言葉を残し、銀の幕が落ち、乙女に覆い被さる事でそこには何も残らなかった。

金の風人は弓を下げ、かつて居たその場所を見つめる。

半ば諦めているのに諦めきれない。

唯々、金の風人は動くことも出来ずにその一点を眺めるのだった。

はい。今章は終わりです。


‥‥‥嘘です。もう一話。

何せもう1人囚われの姫がいますからね。

それをどうこうして次へ。


さて。戦闘センス抜群の乙女ちゃん。

割と格上でも勝ちます。まあ、覚悟の差と言いますかね。

今までズタボロにされて来た故の強さとも言えます。その経験から相手の嫌がる事をするのは得意です。逆に言えば、それが理解出来ているからこそ乙女は優しいのですね。

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