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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百二十一話 奇跡の準備③

乙女はとある人達とパーティーを組む事にした。普段ボッチだった乙女が何故仲間を受け入れたのか。それは仲間がいなければ受注出来ない依頼があった為、仕方なく受け入れただけの話。



まあ、仕方ないもんね?



そう乙女は考えているが、乙女の表情筋はほんの少しだけ弛んでいた。その事に気付く者はいない程の小さな変化だったが、ギルド内の空気が穏やかになった事で、新人の受付は胸を撫で下ろしていた。

新人から見れば、以降今日よりも緊張する事は無い。それだけは確信を持って言える。

だから内心、自らを褒めていた。

そんな事を新人が考えていれば、乙女はまた笑ってしまう。心の中で。例にもよって誰にも気付かれないのだが。


気を取り直した乙女は、かの3人組に提案を投げかける。それは先程舌打ちをした依頼を受ける為の提案だ。


「あのさ、受けたい依頼があるんだけど、手伝ってくれない?」


協力者が必要な依頼。

ここにいる全員が受ける資格は足りている。だからあとは、この3人が受けてくれるかどうかだけ。

3人組は、3人とも問題無さそうだが、やはりヒソヒソと会話が始まる。

乙女には全部筒抜けで、ついでに言うと心が読めなくても声は聞こえる。集中すれば小さな音を拾うのは、龍にとって造作も無い事なのだから。


「どうするよ」

「‥‥‥良いと思う」

「嘘を吐いてる様には見えないよ?」

「うーん。この人貴族でしょ?戦えるの?」

「‥‥‥この魔力の量で戦えない訳が無い」

「私達には分からないから、信用するしか無いかな」


乙女を含め、周囲の全員が3人組を眺めていた。

そして、意を決したのだろう。3人組のリーダーであるリリアが、乙女の提案を受け入れる。


「わかった。私たちで良ければ」

「そう。あなた達だから良かったんだけどね」


乙女は3人を観察しながらそう言う。

3人組は唐突にそんな事を言われ、動揺を隠せず問いかける。

今日、乙女と初めて会った筈なのに、何故まるで知っていると言っているかの様に語るのか。


もしかして、私達は有名人!?


などと別に自惚れる程強くも無い。

唯一、ルルだけは他のパーティーから声をかけられる事が多い。魔法使いは引く手数多なのだ。

パーティー全体を客観的に見れば平凡な所と言え、ルルがいなければ生活に困る程なのだ。

ゆくゆくは強く、有名になれる事を望んでいるが、まだまだ遠い。

しかし、乙女が答えるのは、3人組からは予想も付かない遠い所からの奇襲。


「親友がお世話になったみたいだから」

「親友?」


お世話をしてあげた事がある人。誰だろう?


「竜聖国。公爵。私はその子の姉だから」


3人組は思い出す。

出会ってから一年弱。勧誘しようとしたが、公爵家当主である事が発覚して諦めてしまった小さな少年。もとい少女。

どこか大人びていて、とても優しい子を。


「「「あ!?」」」

「リリアさん。アルカさん。ルルさん。私の名前はフユ。よろしくね」


乙女は自己紹介をした。

しかし、3人組は思考に囚われてしまっている。



どうして私達を知っていたのか。

ルビー君に説明されたのだ。


貴族様なのに戦えるのは珍しいと思う。

ルビー君の姉なら納得。


どうして受け入れてくれたのか。

ルビー君の姉として見定め?

‥‥‥ルビー君に変な事をしてないだろうか??

とても不安になって来た。事と次第によっては処罰も有り得るのだから。


「安心して。あの子は感謝してたから」

「「「は、はい」」」


3人見事にハモる。

別に乙女は脅していたりする訳では無いのに、震えてしまう3人組。

なんとかその不安を解いてあげたいが、乙女が己の力を明かさずに出来る方法は浮かばず、諦める他ない。

肝心な所で口下手になってしまう乙女の難しい所。しかし、乙女にはある長所があった。

それは、



ま、いっか。



悩みを捨て去る事だった。

長所とは言えない長所かもしれないが。


さて、自己紹介も終え、乙女は仕事の話に移る。

このままではいつまでも収束に向かわないので、仕方なく強引に流れを操作する。


「という事で、遺跡の探索を受注するからお願いね」


衝撃の事実を知ってしまい、それと同時に惜しい人だったと感傷に浸ってしまった。

かの少女は、赤銅にとってとても必要だった。棲む世界が違うと、少女を諦めて帰ってしまったが、当時はとても諦め切れなかった。

今でこそ漸く立ち直っていたのに、それを蒸し返された様な物。だから動揺してしまうのは必然。

しかし、混乱しながらもなんとか3人は答えた。


「わかりました」


乙女はそれを受けて頷く。

今後少女が、この3人組と一緒に仕事をする事は無いだろう。

だからこそ、あの子の代わりに恩を返すのが目的として受け入れたのが本音。かつて3人組に下した別れの身代わりに、姉として出来る事を探した結果だ。


乙女は誰も彼もに優しいとは言えない。

唯一人。その人の為ならば優しくなれるのだ。

奇しくも女神の血を持った者は全てそれが根底にあり、その先に抱く奉仕の心が女神の力を覚醒させる。


乙女はその事を知っていた。正確には少女の記憶を覗いた事で察した。しかし、それがもっと早くに理解出来ていれば、状況は変わっていたかもしれない。

あの時は、優しさを捨ててしまっていたのだから。

治癒は他者にしか使用出来ず、他人に対してどれだけ優しいかによって効果が変わります。


盾もほぼ条件は同じですが、自分に使う時は自己愛が強ければ効果も上がります。結局は使う人次第で効果もまちまちですね。

そもそも使えるかどうかも素質依存ですけどね。

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