二百十七話 また会う日まで③
赤色の光に呑み込まれた。
一瞬で何処かに飛ばされた。
此処は何処なのだろうか?
目が覚めた。私の名前は▪️▪️▪️だ。
声が聞こえる。2人の男性。声を聞くだけでは判別は出来ない筈。
ただ、確信はある。何故か。それは
「あれここは?‥‥‥どこ?」
私はそう言ったんだ。
そうだ。これは記憶だ。あの子の。
『フユ。聞こえてる?』
私の中に語り掛ける声。
これはどういうつもりなんだろうか。
『私の心には届かないからね。フユに見せて、それから幾つかお願いをしたいんだよ』
そうなんだ。それがみーちゃんの意思なんだ。
『うん。どうするかは任せるよ』
初めてお願いされた。
今までこんな事は無かった。
そんなみーちゃんが、私に頼むという事は余程大事な事なのだろう。
失敗は許されない。今度こそ。期待に応えないと。
「私はクロ」
名前が無いからって、随分と安直。
まあ、どことなく抜けてるのは変わり無いんだね。
アイちゃんか。何で記憶が無いのに、その名前にしたんだろう。
『ある人のあだ名だよ。死ぬ間際まで考えてて、ずっとその名前を呼んでみたいと迷ってたんだ。まあ、だからかな?』
隠したけど流石に判る。
と言うか、声が震えてるよ。恥ずかしいんだね。
『フユだって』
不満そうな声。
理解してるよ。私だって人の事言えないし。
生まれてからずっと側にいてくれた存在。
そっか。そうなんだね。うん。みーちゃんにとって、とても大切な人なんだね。
それから、龍の力を隠して生きて行くと決めたけど、使わざるを得なかったんだ。
初めて旅に出て、一人暮らしを始めた。
それでもやっぱり不便で、それなりには苦労した。寂しくは無いけど、人と触れたいと思って街に。
って、アレ?なんか見覚えあるんだけど。
この受付も。街も。
まてよ?もしかしたらこの時点で何とか出来たかも。
いや、流石に無理か。まさか、女神と黒龍の間に生まれた娘だなんて判る訳無いよ。
特に、私はあの時冷静じゃ無かったし。
リナちゃん。妹か。
あ、これは、良くないね。客観的に見て、初めて気付いたけどこれは依存。だよね?
まあ、しょうがないか。私がこの子の立場ならこうなると思うし。
妹を助ける事には成功したけれど、互いの認識のすれ違いで2人は喧嘩をしたりする。結果的にはそのお陰で、より強い絆を繋いだんだ。
でも、その時に寿命を知った。あまりにも短い終わりまでの時間を。
『そうだね。でも、それからかな。嘘を吐く様になるんだ』
嘘?
『うん。覚悟を決めたんだと思うよ』
へえ。
さて、竜聖国へと旅か。父の痕跡を求めてね。
それにしても結構遠いよね。私は空を飛んだけど、みーちゃんは馬車か。あ、やっぱり何日もかかるんだ。
龍の置物か。私も要らないかな。‥‥‥あ、ごめん。
仇敵。
魔力の身体を破壊するのは容易ではないか。
でも、殴り続けてれば倒せるよね?
『その通りだね。でも、万が一が怖かったんだと思うよ』
みーちゃんを裏切ってでも?
『みたいだね。私は裏切られた。それでも、事実が受け入れられず、私は自分自身に言い聞かせたんだ。勿論。誤魔化しただけだから、その心の傷の所為で誰も信じられなくなった。それはつまり、フユの事も疑ってしまうんだ』
私は、嫌われたと思ったよ。
『まさか。ただ、疑心暗鬼なんだよね。だから届かないんだよ』
それを解けって話だよね?
『どうするかはフユに選んで欲しい。私の青の力が無いとアイちゃんを起こす事は出来ないから』
それって?
『青色の力は、誰かに対して優しさを向ける事で覚醒するんだ。方法は二つ。ミュエラに預けるか、フユが私の誤解を解くか』
ミュエラ?
『フユが私の誤解を解く方が簡単かな。ただ、誤解を解く事自体が難しいよ。フユを敵だと認識してるから』
何故?
『私の中でアイちゃんに裏切られた事によって、フユをアイちゃんの手先だと思い込んでる』
成る程。
『気をつけてね。私が覚悟を決めてしまったら、フユを勢いのまま倒してしまうから、近寄られない様にしてね。あと、少し強引な方が良いよ。私は押しに弱いから』
失敗したら?
『白玉に細工しておく。一回限りの手品だけど、私自身に催眠をかけられる様に魔力を込めておくよ。使う時は必ずミュエラを巻き込まない様に。逆上しちゃうだろうからね。この手品は油断してないと効かないし、私が怒っても駄目だからね?』
氷よりも冷たい瞳の輝き。
怒らせたら駄目。理解してる。
『もし、フユの説得が上手くいったなら、私はフユを完全に信用するよ。多分ね。逆に、ミュエラに任せたら、フユへの想いはそれ程でも無いかも』
ふーん。そうなんだ。
『‥‥‥だから。任せる』
へえ?滅茶苦茶にするかもよ?
『そんな事をする人は態々言わないよ』
わかんないよ?感情に任せて行動するかもよ?
それに私、馬鹿だもん。
『フユは、いや。愛生ちゃんは天才だよ』
‥‥‥違う。
『少なくとも私は信じてるよ。例えどんな結果でも受け入れるから。だから、泣かないで』
泣いてない。
『お願いは聞いてくれなくても良いよ』
嫌。やる。
私の生きる理由はみーちゃんにしか無いんだもん。
それに、やって欲しいなら命令すれば良い。
なのにそれをしない。このお人好し。
『うん』
必要な物は?
『アイちゃんを入れる器が欲しい。私達は同居出来なくなったから、錬金術師を探して。会った事ある筈』
わかった。
『錬金術師を見つけた頃に、私に会いに来て。その頃には思い出してるから。白玉を使って、私を攫ってね』
その言葉のすぐ後に赤色の光から解放された。気が付けば再開した洞窟の中に立っていた。正確には現実に戻って来た。
取り敢えず頼まれた事を必死で頭の中に叩き込んだ。
「理解した?」
申し訳無さそうな感情が見える。
見えなくなった筈なのに、不思議とそう思える顔。表情は動いていないのに。
やるって決めてた。
でも、顔を見たらと、より一層覚悟を決めた。
理解したよ。私にとってはお願いという名の命令。
「わかった。でも」
「必ず戻るから」
私を騙すつもりは無い。それだけは確信を持って言える。
本当は少しだけ怖かった。私を捨てるんじゃ無いかって。それを否定してくれたから嬉しい。
私って単純。
良い様に利用されてるだけ。
だから、私は皮肉を言う。
まあ、惚れた側の負けだよ。本当に。
「うん。命令だもんね」
こんな言葉で揺るがないってのは理解してる。
会話は終わって、イヴは何かに気付いたらしい。金髪の子ども?に近寄った。
寝てるのかな?あれ?でも、心読めそう。
無意識の相手には通じなかった筈。
やはり。読むなって言われた。
起きてるけど、気付いてないフリしろって事?
多分あってる。
そして、イヴは寝た。
私に全てを託して。
さあ、やろう。期待に応えないと。
もう二度と、失敗は許されないから。今度こそ。