二百十六話 お祭り
パーティーの開幕だ。
皆んなは飲んでは食べ、会話で盛り上がり、中には遊ぶ人もいた。
子ども達は食事を楽しみながら蜘蛛さんと遊んでいる。蜘蛛さんは人気者になったみたいだ。
それはそうと、私もミュエラと一緒に食事を楽しんでいた。すると村長さん、つまりはキュイさんが来て話し掛けて来た。
「エルフも肉は食べるんですね?」
「ん?」
エルフはお肉を食べないと言ってるかの様な口振り。ミュエラはお肉を両手に頬張っているから、私はその質問の意図がわからなかった。
私は疑問符を浮かべていると、ミュエラは笑いながら答えた。
「ええ。確かに食べないわね」
「はて?では」
「里の皆んなは食べないわ。エルフにはお肉は禁制だもの」
あっけらかんと駄目だと認めたのに、その両手のそれは大丈夫なのだろうか?
と言うか、今も齧ったけど?
「でも私は食べるわ。里から出るまでは私も食べなかったのよ?でも、幼い頃に母に連れられて、里の外で食べて以来好きになっちゃった」
笑いながらまたお肉を齧るミュエラ。それはもう美味しそうに。
駄目だと理解してるけど、美味しいものには敵わないらしい。
ミュエラのお母さんなら、その人もエルフなんだよね?当然肉食は駄目の筈。
それが分かってて、ミュエラに食べさせたと。多分その人もお肉を食べてたんだよね。
「俗世の食物だなんて言うけど、美味しい物を美味しいって言って、何が悪いのかしらね?」
「そうですね」
「皆んな頭が固いのよ」
「ルール。なんだよね?」
「母が良いと言うなら良いのよ。ルールなんて知らないわ」
これでもかと言うくらいにお肉を食べるミュエラ。まるで何かに取り憑かれたみたいに。
「それに、帰ったら幾らでも野菜は食べられるし。今のうちにお肉を食べとかないと」
「バランス悪いよ?」
「ルビーが作ってくれたサラダも食べてるもん!」
いや、頬を膨らませられても。
好きにすれば良いんだけどさ。
「それよりも、ルビーは料理が出来たのね」
「ん、一応」
思い出したかの様に言うミュエラ。
難しい物は作ってないけどね。
炒めたり、茹でたり、盛り付けをした程度。
「里の食べ物は全部植物なんだけど、調理なんて存在しないのよね。全部生。ああ、外の世界は素晴らしいわね」
なんか感傷に浸ってる。
そんなに里の食事が嫌なのだろうか?
でも確かに、生で食べる野菜もあるけれど、調理した方が良い物も多い。
生の方が栄養が無くならない物もある。でも、子どもとかは生野菜よりは、調理した物を好むとか?
アレ?‥‥‥うん。ミュエラは大人だ。ミュエラは大人。
まあ、ミュエラは食事に集中してるし、他の人の所に行こう。気付いたらキュイさんいないし。
私は練り歩き、蜘蛛さんの所に辿り着いた。
すると、大人の女性に話し掛けられる。
「あら?ルビーちゃん」
蜘蛛さんに纏わり付いて遊ぶ、子どもの様子を見ているお母様方達だ。
お腹いっぱいになって、元気いっぱいの子ども達と遊んであげる蜘蛛さんは流石だ。
最早蜘蛛さんは村に馴染みきっている。
「ルビーちゃんも一緒に遊ばないの?」
「私は良いです」
「あら?なんで?」
「‥‥‥皆んなの邪魔になりますから」
そう言って、蜘蛛さんの周りの子ども達を見る。
邪魔になると言う理由は半分で、もう半分は恥ずかしいと思ったから。
流石に一緒になって遊ぶのはちょっと。なので、私は子ども達を見物するのだ。
するとお母様方達に手繰り寄せられ、何故か撫でられた。膝の上に乗せられ、特等席で子ども達を眺める。
子ども達はとても楽しそうで、とても幸せそうに見える。
その光景は飽きが来ず、ゆっくりと時間が過ぎていった。
かなりの時が流れ、夜が更けてしまえばお母様方達に連れられ、子ども達は続々と寝床へと帰った。
遊び相手がいなくなった蜘蛛さんは、私に一言告げて森へと戻る。
【デハ、失礼シマス】
あれだけ騒がしかったのは一瞬で捌け、静かな夜へと戻った。
しかし、全体的な人数は減ったものの、大人達は今も楽しんでいる。別の場所で。
なので、私はそちらに合流した。
「あーん。私の可愛いルビー」
私にべったり引っ付いているミュエラ。頬擦りをして来て微妙に邪魔。口元が緩みっぱなしで、まるで人が変わったみたいだ。
取り敢えずミュエラを見つけたから、近くに寄ったらこれだ。
引き剥がそうとしても離れないから非常に厄介だ。
「す、すまねえ。ルビーちゃん」
「これは?」
正常なミュエラならこんなに面倒な状態にはならない。私には事態が理解出来なくて近くに居た人に問い質しているのが今。
「いや、大人だって言うから、酒を飲ませたら、その」
「お酒?」
「お、おう。でも、たった一杯だぞ?」
「そもそも、どうしてこんな事に?」
私が事の経緯を聞けば答えてくれた。
皆んながお酒を飲んでいたらミュエラが飲みたいと言ったらしい。
それで「子どもは駄目」と「お酒は大人になってから」と言ったら、ミュエラが冒険者カードを見せた。
年齢は確かに20歳を超えていたから、渋々飲ませたみたいだ。
さらに、ミュエラはお酒を飲んだ事が無かったらしく、加減を知らず。と言うかお酒一杯でこんな状態。
「ルビーが2人いるわー」
今も訳の分からない事を言ってる。酔っ払いミュエラ。
いつもなら、私が嫌そうな素振りを見せれば察してくれるのに、今回は離れる気配が全く無い。
「もう」
「ルビー」
「何?」
「呼んだだけー」
「‥‥‥」
面倒だ。でも、手荒な真似はしたくない。
「うう。ルビー」
泣き始めた。なんだか余計に剥がし難い。
はあ、仕方ないな。まあ、偶には良いか。
いつもお世話になってるし。
「お母様。私、地竜を倒しましたよ。私、必ず追いついて見せますから」
寝言。
ミュエラの口から時折出る母の姿。
きっと、ミュエラの中で憧れとしてあり続け、今も大切に想っている人。
素晴らしい人なんだろうと思う。
母か。もし、会えるのなら会ってみたいな。
どんな人なんだろうか?
私はミュエラをあやしながら想像する。
自らの母の姿を。
かつて、何も知らない時に出会った事を知らずに。
神と竜(龍)の格について。
人 =竜に連なるもの
↓ ↓
英雄= 竜
↓ ↓
神 = 竜王→龍→龍帝=龍神