二百十三話 仲介者
村長さんから許可を貰い、ミュエラと共に再度森の中へ。
蜘蛛さんの姿は目立つとは言え、隠れるのが得意みたいで、気配は感じるのに見当たらない。
「蜘蛛さーん」
私が呼び掛ければ、ガサッと音を立てて降ってきた。目の前に。
「わっ!ビックリした」
どうやら木々の葉っぱに紛れていたらしい。
当然ながら大きい身体なので隠れ切る事は不可能だけど、上の方には目が行かないので、そこを利用して上手く隠れていたのだ。
偶々目が行っても、白い模様かな?で終わってしまい見逃すのだろう。
現に私は視界に捉えた筈なのに見逃した。
「こんにちわ。蜘蛛さん」
「急に降ってくるのはやめなさいよ。警戒してしまうでしょ」
文句を言うミュエラ。
多分真上に居ただけなので驚かすつもりは無かったと思うけど。
【モウシワケナイ。ツイ、キガハヤッテシマイ】
うん。謝ってるし、悪意はないらしい。
早く会いたかった。って事だよね?
気が逸ったって言ってるから。自意識過剰かな?
まあいいや。
それよりもこの蜘蛛さんは、ミュエラの言葉を理解している気がする。
確か魔物は人間の言葉を理解出来ないのでは?
蜘蛛さんがそんな感じの事を言ってた気がする。‥‥‥違ったかな?
確認しとこう。重要な事だもんね?
『魔物って人語を理解出来るの?』
【イイエ。基本不可能デス。シカシ、幾ツカノホウホウデ意思疎通ガ可能デス】
『ん?聞いても良い?』
【当然デス。マズ、全テヲ解スル龍言語。コレハ貴女サマノ言語デス】
魔物の王呼びから、貴女になった。
それは良いのだけど、一つ驚いた事がある。
『ん!?私をどうして女だと思ったの?』
【チ、チガイマシタカ!?】
『合ってるけど』
【ホッ】
『逸れちゃったね。ごめん。龍言語とは?』
【イエイエ、此方コソ。龍言語トハ、イチブノ方ノミガ使用シマス。貴女ノ意思ヲ、他者ニ可能ナ限リ理解シヤスクシマス。逆ニ貴女ハスベテノ意思ヲ理解スルハズデス】
『成る程。私の言葉は理解し易いって事か』
【ソノトオリデス。マモノハ賢クナルニツレ、理解力ガ向上シ、最後ハ人語ヲ話スマデニ至リマス】
『あれ?ミュエラの言葉は理解してるよね?』
【ハイ】
『やっぱり。なのに話さないの?』
【言葉ヲ話セバ、人間ニハオソレラレ、魔物カラハネラワレマス。ソレニ、声帯ガアリマセヌユエ】
『そ、そっか』
あからさまな魔物の姿だと人語を話すと危ないらしい。
同族からは迫害されるとか?
人間は仲良くなれないとも暗に言ってるよね。これ。
分かってるよ。
まあ、私は人間そっくりだから良いけど、蜘蛛さんは苦労して来たんだと思う。
隠れて生きて、気付かれない様に吸血を行う。
でも、それも今日で終わり。
村長さんが許可をくれたから大丈夫。
この蜘蛛さんは餓死が無くなり、村人さん達と仲良くやっていける筈だ。
「蜘蛛さん。ついて来てくれる?」
【ナンデショウカ?】
「村に行こう。きっとこれからは隠れなくても良いよ。約束する」
蜘蛛さんが頷く。
勿論蜘蛛さんの言葉はミュエラに届いていない。だけど、返事を見て蜘蛛さんの賢さに気付いた。
「まさか、私達の言葉を理解してるの?」
ミュエラが質問をした。
私達は同時に答える。
「そうみたいだね」
【ハイ。コエハダセマセンガ】
「成る程ね。これなら間違っても村人を襲う事は無いわね」
「うん」
【ニンゲンヲ、殺シテモ血ヲ吸イ切レマセンシ、ウラマレルノハ怖イデスカラ。ニゲラレテモ困リマスシ】
「ルビーはわかってたの?」
「一応。目を治してあげた時、感謝してる様に見えたから」
ここでは嘘を吐いておく。
蜘蛛さんの言葉を全て理解しているけど、それを馬鹿正直に説明したら疑われると思ったから。
何となく、直感がそう言ってる。
そもそも完全に嘘って訳では無いし、蜘蛛さんが言葉を理解していると知って貰えば安心だ。
どちらにせよこれは隠し通せないと思うし。
雑談をしながら蜘蛛さんを引き連れ、村へと戻ると、村人さん達は驚くものの、急に戦闘開始にはならない。
もし、私とミュエラがいなければ、蜘蛛さんは、難無く村人さん達を制圧するだろう。
この蜘蛛さんは強くは無いけど、糸の能力が非常に厄介だ。村人では手も足も出ない。
敵だったらね。
でも今は違う。
村長さんが説明してくれていたのも効いてるとは思う。
その村長さんも、ミュエラを信用しての事だし。
こうして、私達は蜘蛛さんを見せびらかすと、村長さんが話す。
「ふむ。こちらが蜘蛛さんですか」
「はい」
「そうよ。言葉を理解出来るみたいよ」
【獣人デスカ。大昔ニ血ヲスッタラ芳醇ナアジダッタナア】
‥‥‥蜘蛛さん。何も言わないよ。私は。
「成る程。賢いのですね」
「それで、どうですか?」
私は不安を抱えながら問う。
「村の異変を解決して頂き助かりました。ルビー君は凄いですね」
唐突に褒められて照れてしまう。
しかし、ミュエラは除け者にされて焦って大声を出した。
「私は!?」
「おっと、リュミトリアさんもですね」
お茶目な笑い顔で笑うキュイさん。
その顔はとても朗らかで、成る程、村長さんだと思った。
そして、その笑顔で蜘蛛さんに近付き手を差し出した。
「宜しくお願いします。蜘蛛さん」
【コチラコソ】
二人?は手を取り合う。
二人?の笑顔?で。
蜘蛛さんは表情がありません。
‥‥‥似た者同士。かもしれませんね?