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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百十二話 下手なりの努力

私達は蜘蛛さんを森に置いて、村に帰って来た。村長さんに、蜘蛛さんの事についての相談をしようと思ったから、事の経緯を説明した。


「蜘蛛さんは悪い蜘蛛さんじゃないよ」


こんな感じで。

いや、まあ。こんな単純な説明では無かったけど、要約するとこんな物だ。多分。

説明しながら何とかして見逃して貰おうと思い、結構支離滅裂な説明になったと思う。

途中からミュエラに、バトンタッチしたけれど「信用出来るから」なんて、フワッとした説明ばかりしていた。

大事なのはそんな適当な事では無く、蜘蛛さんの価値を説明する事だった。


ミュエラが説明したのは糸の価値についてだった。

蜘蛛さんの糸はとても強靭な為、編み込む事で革の代用になると言った。

更には手触りの良さも説明する。ツルツルでスベスベ。触ったら少し冷たく感じる。

特に今は夏なので、必ず売れると力説する。

間違い無くこの村の特産品になると、現物を見せながら上手く説得した。

どこから持って来たのか。それはミュエラを助ける為に断ち切った糸を使ってた。まさか回収しているとは。


「興味深いですね」


側から聞いてもすごい説得力。手応えも十分。蜘蛛さんの危険度も皆無だと伝える事が出来た。

魔物の危険度という名の「リスク」よりも、得られる「メリット」の方が大きいかどうかを精査していると思う。


「本当に危険では無いのですか?」


念入りに訊ねる村長さん。

そこには自信がなくてオドオドしていた人ではなく、村長として責任を抱え、未知の領域へと踏み出そうとする勇気の表情を浮かべた人が居た。


未知の領域。魔物と共生出来るのかどうか。

それは私にも分からない。この世界で初かも。

互いが互いの手を取り、双方の信頼によって成し得る。


私は未だに自信が無い。

もし、私の所為で人間が、或いは蜘蛛さんが。

そう考えたら、確実だと言い切って退ける事が出来ない。

しかし、ミュエラは違った。


「勿論よ。生きる為に血を欲しがっているから、分けてあげて欲しいのよ」

「量によって変わりますが、この糸が使えるのなら一考の余地がありますね」

「量に関しても問題無いわ。今まで死人が出ていないでしょう?」


ミュエラの言葉に否定が出ない。

恐らく決着はついただろう。私は何もしていないけど。


そして何もしていないという事実が、私の心を暗い世界に沈める。

話し合いという勝負に勝ったのに、歯痒い思いがどうしても私の心を引きずる。

結局おんぶに抱っこ。勝てたのは偶々。そう、偶然。

そう思えば、酷く打ちのめされた気分だ。


そんな沈んだ私に、問い掛ける声が届く。


「ルビー君はどうですか?」

「僕、は」

「蜘蛛の魔物をどう思いますか?」

「信じられると思います。いえ、僕は信じたいです」

「成る程」


自信が無くて下を向く。仮面を挟んでいるのに、目を合わせる事すら出来ない。

そんな私の肩を叩く人がいた。

ポンッと手を置かれ、慌てて手の主を見れば、ミュエラが笑っていた。


「良かったわね」

「え?」

「納得しました。村人には説明をしますので、連れて来てくれますか?」

「了解よ」


ミュエラが返事して、キュイさんは頭を下げてから外へ出て行った。

二人だけの空間になった事で、私は幾つかの感想をミュエラに投げかけた。


「凄いね。ミュエラ」

「ん?何が?」

「私にはメリットなんて浮かばなかったし、血を分けるなんて発想も無かったのに」

「あー、うん。それはまあ、その」

「話しも分かりやすかったし、私は何もしてないよ」


さっき上げていた顔は、また下を向いてしまった。

そして、私が落ち込んでしまった瞬間。

空気が固まり、思わずびっくりしてしまいそうな、冷たい声が聞こえた。


「は?」


一瞬で私の背筋は伸び、冷たい感覚を覚えて、恐る恐る顔を上げた。何か凄い嫌な予感を感じたから。

するとそこには、鋭い目付きのエルフが居た。


「アンタ。何言ってんの?」

「え?」


咄嗟の事で、なぜ怒っているのか分からない。

多分、変な事を言ったのだとは思う。


「あの蜘蛛が懐いているのは、アンタに対してなのよ?」

「でも」

「悪い蜘蛛じゃ無いんでしょ?」

「うん」

「なら良いでしょ?」

「だけど、説得したのはミュエラで」

「アンタが信じたから私も信じたのよ」


ミュエラは私を励まそうとしてくれる。

でも、私は自分を卑下する為に言い訳を重ねる。


「私は交渉が下手で」

「だから?」


まるでミュエラは、気にしないと言ってる風。

私は益々重ねる。


「メリットとか、わかりやすかった。私には出来ない」

「あぁ。まあね」

「あと、安全だって。言い切ったし」

「あーうん。ハッタリよ」

「ふぇ!?」


思わず変な声が出た。


「そもそも安全かなんてどうやって保証すんのよ。私にもわかんないし」

「ほへ?」

「アンタが大丈夫って言ったなら大丈夫よ。自信を持ちなさいよ」


気付いたら元気になってた。

こうやって、私は簡単に気分が上下してしまう。

今回もミュエラのお陰で、私は笑顔になる。誰にも見せないまま、私はミュエラを尊敬する。


「売れるかなんてわかんないし、安全かどうかなんてもっと分からないわよ。でも、ルビーの前で格好悪い姿は見せられないし。最悪は私が討伐すれば良いし‥‥‥」


小さな声はブツブツと呟かれ、誰の耳にも届かずに消えて行く。

輝きの目に晒されながら。

少女は正しいルートを選べません。

今までずっとそうでした。そして今回も。

その結果がどうなる事やら。ゴールへと辿り着くのか?

皆目見当もつきませんね。

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