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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百十一話 魂の目的

森は静まり返り、再び静寂に包まれた。

私は上手く信用を勝ち取り、ミュエラは蜘蛛さんを疑うのは辞めてくれた。多分これで衝突は避けられる。

蜘蛛さんは私のお願いを聞いてくれそうだし、ミュエラも一応飲み込めたと思う。


私はお互いを見比べて、念入りに関係を確認していた。すると、蜘蛛さんから言葉の文字が浮かんでいる。


【アナタサマハ、言葉ヲコエニダサナクトモ意思ヲツタエルコトガデキマス】

「ん?」

【言葉ハフヨウデス。オモッタコトヲ、ワタシニネンジテクダサイ】

『こんな感じ?』

【ソウデス。ミタトコロアナタサマハ、ニンゲントナカガヨイヨウス。デアレバ、ワタシト会話ガデキルノハ、アヤシマレルカモシレマセン】

『うん』

【コンゴ、マモノト会話ヲスルトキハ、コノホウホウヲツカウトヨイトオモイマス】

『わかった』


確かに言われてみればそうだと思った。

一応さっきまで敵同士だったのだから、急に和解したら、怪しまれるのは至極当然の事。

という事は今もミュエラに疑われてる?

そう思ったら、ミュエラが私に話し掛けて来た。


「どうしたの?見詰め合って」

「えっと、蜘蛛さんをどうしようかなって」

「うーん。村人に危害が無ければ放置でも良いかしらね?」


それで済むなら良いのだけど、いつか討伐隊が組まれるかもしれないし、どうせなら共生関係にしたい。

討伐してはい終わり、なんて事にはしたくない。我儘なのは理解してる。

それでももし、人間と魔物がお互いに助け合う事が出来れば、この蜘蛛さんを討伐する理由は無くなる。つまり、村人さん達に何か恩恵があれば良い筈だ。


とは言え、蜘蛛さんが絶対に人間を襲わない様にしなければならないし、血を吸わないと生きていけないから、人間を襲わずに血を吸う方法を考えないと。

まあ、今まで村人さんを殺しては無いから、このままでも大丈夫だとは思う。けれど、正体不明の魔物に襲われたという事実は、いずれ争いに繋がる筈だ。今回依頼が発生した様に。


いや、まてよ?

そもそも吸血する対象は、人間である必要は?

他の魔物。あるいは動物。それらだと駄目なのだろうか?

そもそも人間を襲う必要が無くなれば単純な話なんだもの。よし、一応聞いてみよう。


私は蜘蛛さんを見詰めて念じる。


『蜘蛛さんの食事って、他の生き物だと駄目なの?』

【カマワナイデスヨ】

『あ、それなら』


どうやら構わないらしい。

しかし、蜘蛛さんは申し訳なさそうに言う。

いや、申し訳なさそうかどうかは見ても分からないんだけど、なんとなくそう思った。


【デスガ、ニンゲンノ血ガイチバンオイシイデス】

『あ、グルメなんだね』

【ニンゲンナラ少量デスミマスシ、マモノダトキケンデスカラ】

『少量で済む?どういう意味?』

【ナゼカ満足度ガタカイノデス】

『そういう理由が』


それだとやっぱり駄目か。

村人の為に食事を変えろと言うのは無茶苦茶可哀想だ。食は生きる上でとても大切で、それを否定するのは、私には出来ない。

それに、他の魔物を襲うのはリスクが大きいって事だよね?苦労して仕留めてお腹も膨れないのなら、仕方が無いのかも。

なにより美味しくないみたいだし。


私の血はどうだろうか?

エルフの血を美味しそうと言ってたし、私の血にも魔力はある筈なので、美味しいかもしれない。いや、わかんないけどさ。

聞いてみる?


『あのさ、私の血は?』

【ソ、ソレハ。マリョクガオオスギテ、ノンダラハジケトビマス】

『へ?』

【薄メテイタダケレバノメルカモ。一滴ノ血ニ対シテ、大量ノ水デ】


え?濃すぎるって事?

というか、飲んだら弾け飛ぶって何?

私の血は毒薬なの?

いやまあ、うん。人間じゃなかったね。あぁ、改めて実感したよ。


少し滅入る。

考えたくなくて棚上げしてたから。

つい、考え込んでてしまったが、蜘蛛さんの話しは続く。


【タダ、吸血効率ガ良イノハ事実デスネ。ソレニ、アナタサマノ血ハタイヘン貴重ナモノデスノデ】

『そなの?』

【ソレコソ、魔物スベテガホシガルデショウ】

『‥‥‥蜘蛛さんはどうなの?』

【‥‥‥イタダケルノデスカ?】


物欲しそうにこちらを見つめる蜘蛛さん。

別に血をあげるのは構わない。けれど、価値があるのなら、無料であげるのはなんとなく躊躇う。

私の血は交渉に使える事が理解したから、取り敢えず、村人さん達との関係を上手く取り持てば解決の筈だ。


でもそんな方法なんてあるかな?

ミュエラに相談しよう。


「ミュエラ」

「ん?」

「この蜘蛛さんと村の人達で、なんとか仲良くなれないかな?」

「危険は無いの?」


やはりそこは不安なのだろうね。

でも、私は言い切る。


「そこは保証する」


しかし、蜘蛛さんも不安そうに言う。


【コロサナケレバヨイトオモイマシタガ、ソレモダメデスカ?】

『うん。無理かな?』

【ムズカシイデスネ】


駄目か。どちらかを優先すれば、もう片方が立たず。

なんとかしてお互いが納得出来て、争わなくても済む方法は無いのだろうか。

もし、アイちゃんならどうしたか?

そう思い思考を巡らす。


《人間も蜘蛛も生意気ですね。貴女が必ず正しいので、無理矢理にでも言う事を聞かせましょう》

‥‥‥駄目だこれ。

どうしよう。良い方法が浮かばない。


考えに考えても駄目。そんな時。ミュエラがポソっと溢した。


「村人が定期的に血を分ければ良い気がするわね」


一瞬固まった。


「へ?」

「それで白蜘蛛は、代わりに何かを支払えば良いのよ。見たところ死人が出ない程度の血の量で済んでるみたいだし。どうかしら?」

「な、成る程!」


良い方法だ。

とは思うけど、蜘蛛さんは何が出来るだろうか?


【ワタシハ、イトヲダスクライシカデキルコトハナイデスヨ?】


うん。有効活用する方法は浮かばない。

それでも、ひょっとしたら何かに使えるかもしれない。村長さんに相談してみよう。


もし、これで上手く行って、互いが仲良く過ごせたらどうだろう?

私という魔物も、人と仲良く生きて行く事が出来るんだと証明されないだろうか?

互いの価値を認め、共に生きる仲間として、私は許されないだろうか?


とても不安だ。拒絶されたら立ち直れないかもしれない。

でも、私は人の役に立ちたくて生きてるんだ。

可能な限り助けられる命は助けたい。

捨てられるのも、捨てるのも嫌なんだ。


例え、これからどれだけ厳しい道でも歩みは止められない。

馬鹿だって、愚かだって、言われるだろうね。

それでも、怖くて手が出せなかったからって迷った結果、それで後悔だけはしたくない。

だから、私のやる事は一つ。村長さんを説得する事。必ず成し遂げて見せる。



少女は己の決意を固める。

他人の為に。

もし、人間か、魔物か。何方かしか救えないとしたら何方を選びますか?


イヴ→どっちかなんて選べない。だから、どっちも救う。


アイ→どうでもいいです。敢えて言うなら、クロ。いえ、イヴの選んだ方で。


フユ→人間?かな。特に魔物がとか、人間がどうとか考えた事ないや。まあでも、お世話になった人もいるから。


以上。それぞれの答えでした。

結構偏りましたね。

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