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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百六話 一宿一飯

村長さんの家で一晩を明かした。食事も用意してくれて、かなりの好待遇だった。

それのせいなのか、思わず考えてしまったのが「もしかして、無茶苦茶な依頼を押し付けられるのでは??」という事。

確か昨日村長さんが、食料などを与える代わりに、依頼を受けて貰いたいとかなんとか。

こうやって恩を売り付けて、断れなくしてしまうんだ。私は知ってる。何かで見た。


そんな事を朝から考えながら、ミュエラと一緒に布団を片付けていると、村長さんが来た。キュイさんといったっけ?

そのキュイさんは何かを持っていた。


「どうぞ。朝食を持って来ましたよ」


なんと朝ご飯を用意してくれたらしい。

そのメニューは、パンとサラダ、後はお肉?だった。多分塩漬けの肉だと思う。


「あ、これは態々どうも」


ミュエラがお礼を言ったので、私もそれに続く。


「ありがとうございます」

「いえいえ。お客さんですからね。どうぞごゆっくり」


キュイさんは、笑って部屋から出て行った。

思わず私は訳がわからなくなって、首を傾げる。


なぜこんなにも良くしてくれるのだろうか?

旅人である、他人の私達に。

いや、まだわからない。油断した頃にこう、ズドンって落とされるんだ。信じちゃダメだ。

そうだよ。私が油断したら、ミュエラに何が起こるか分からない。だから、私は信じない。


キッと瞳を尖らせて、大切な人を見つめる事で決心を固めた。

仮面のレンズに映る、ミュエラの不思議そうな顔。私を見ていた。

そして、私に質問をする様に話し掛けて来た。


「食べないの?」


問われた。けど私は思考した。

食べる。でも、毒があるかも。私達を嵌めようとしているかもしれないから、有り得ないとは言い切れない。


あ、でも毒は効かないんだっけ?私には。‥‥‥うん。はい。

そう言えば、昨日食べた物も美味しかったな。

‥‥‥いや、そもそも毒を入れるなら昨日で良いじゃん。

いや!待てよ?ミュエラには毒が効く筈。

だとしたらマズい!


ハッと閃いた瞬間。ミュエラを見た。

すると、もう食べ始めてた。そして私の視線に気付いたのか、ミュエラは笑いながら喋る。


「美味しいわよ?」


その笑顔は輝いていて「早く食べないの?」と、言っているみたいだ。

なんだか急に私は考えるのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。

着けていた仮面を外して、私は食べ物を手に取って頬張る。


「美味しい」


思わずそう言っていた。

久しぶりに美味しい物を食べた気がする。

そう、久しぶりにだ。ただのパンの筈なのに。とても美味しく感じた。

つまりそれほどミュエラの‥‥‥ごほん。

いや、ここのご飯が美味しいんだ。きっとそういう事なんだ。決してミュエラのご飯が不味い訳じゃ無いんだ。うん。これ以上はいけない。


思わず早口になってしまった。

すごい笑顔のミュエラ。

とても言えないよ。うん。考えちゃダメ。


「美味しいわね。私のご飯に引けを取らないくらい」

「え゛!」

「ん?どうしたの?」

「え?あ、いや、その」

「ひょっとして口に合わない?私が作った方が良いかしら?」

「ああ!?いや!美味しいな。あはは」


私は作り笑いした。

私がつい、この前作ってくれたミュエラのご飯について絶賛しちゃったから。その時から作って貰った手前文句も言えず。

いや、食べながら思ってたけど、私の方が料理が上手い気がしてならなかった。

まあ何にせよ、美味しいと言ってしまったので、それはもう嬉しそうに作ってくれるんだ。


そもそもの食材の鮮度が違う。キュイさんが使っているのは、この村で作った物だと思われる。

パンにしても、保存をあまり考えない代わりに、味を重視して作っている筈だ。それはこの村で作って、この村で消費される前提だから、手を込める事が出来る。

それに対して、ミュエラの食材は、携行食なのでどうしても味は犠牲になってしまう。カチカチだしね。

だから、料理の腕の差というよりも、食材の差だと思うべき。


ただ、一つ思う。

多分。同じもの使っても‥‥‥うん。

美味しいのは美味しい。愛情が込もっているんだろうなとはなんとなく思う。

ミュエラの笑顔を見ながら食べるご飯は格別。それは間違いない。

でももうちょっとなんとかなる筈だ。

私の為に作ってくれるご飯はとても嬉しいんだけどね。

贅沢だというのはわかってるんだけどね。


料理してる時のミュエラは少しおぼつかない。分かりづらく巧妙に隠している様に見えるけれど、あまり料理は手慣れていない気がする。

いつも自信満々なのに、包丁を持った手が震えてるし、何より包丁が綺麗すぎる。まるで、買ってから殆ど使っていないのかもしれない。

まだわからない。毎日丁寧に手入れしているのかもしれないから。あのダガーナイフも綺麗だし。道具は大切にしているんだろうね。まあ包丁は一切磨り減ってないけどね。


別にミュエラの料理が下手だなんて言ってない。

そう。私はただ、ミュエラにご飯を作ってあげたいだけなんだ。あわよくば、料理番を奪おうなんて思ってない。

毎日ご飯を振る舞いたいんだ。ミュエラの為に。いつもお世話になってるし。他意は無い。


よし。そうと決まれば、キュイさんに私の料理の腕前をアピールして、キュイさんに料理を作る事で間接的にミュエラにも振る舞える。

うんうん。そうすれば自ずと恩も返せるし、料理番も自動的に。

とすれば、ご飯のお礼を返す為に、料理をさせてくださいと頼めば良いかな?

こ、これは!?妙案なのでは!?



閃いた私は行動を開始する。

景気付けの朝食を摂り、作戦を決行する為に。悪い笑みを浮かべながら。それとは真反対の行動原理に従って。

このエルフ。結構なんでも食べます。

味覚は‥‥‥サバイバル慣れしてますので、割となんでもいけます。

育ちは良いんですよ。育ちは。だからなのかもしれませんが、料理は


「うるさいわね!?冒険者で料理する人なんていないんだから仕方ないでしょ!」

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