二百五話 呼び掛け
ある村へと辿り着いた。
前回の町からはそう離れておらず、四日程度で着いた。勿論村と判断した理由は単純に小さかったから。所謂規模が。
木造りの家が並び、農地が広がっているので村で間違い無い筈。
取り敢えず、食料やら何やらを補充する為に立ち寄ったのだが、歓迎されるかはわからない。
「どこかに泊まれたら良いな」と思いながら寄ったのだが、どうだろうか?
そんな事を一人で考えていたが、ミュエラは近くの村人に話し掛ける。
私はまごまごしてたので、相変わらずミュエラの凄さに驚かされる。
「失礼?そちらの方」
「うん?おや、エルフさんか?」
「ええ。旅の者なのだけれど、食べ物とかを譲って欲しいのですが?」
「あー、村長に聞いてくれたら。許可が出たら構わないぜ」
「成る程。どちら?」
「あっちだ」
村人さんが指差す1件の建物。村長宅らしいが、そこらの家と大差無い。
確か、村長は一番偉い人なのでは?それなのに、普通だ。
私はもの凄くどうでも良い事を考えていた。しかし、そんな私を導きながら、ミュエラは村長宅に向かう。
戸惑いながらも一応付いて行くと、やはり中も普通だった。ただ、扉は開けっ放し。開放感が凄いなと思ってしまう。つまりは、防犯の意識は皆無だった。
「すみませーん」
ミュエラが家の主を呼ぶ。
呼び掛ければ帰ってくる声。その声は呑気な声だった。
「はいはーい」
そして現れたのは、ミュエラよりも特異な耳をした人?だった。
その耳は横では無く上に。頭の上に耳が立ってると言えば良いのだろうか?
「あら?珍しいわね」
私は知らない。ミュエラは知ってる。私が見て来た人の姿とはかなり違う。何者なのだろうか?
「おや?僕よりも珍しい人に言われるとはね」
「あー、いえ。人と暮らしてるのが、かしら?」
「そうですか?」
「そうね」
「おっと。それよりも何用でしょうか?旅人?でしょうけど」
「ええ。幾らか食料とかあったら分けて欲しいのだけれど」
「ふむふむ。構わないですよ」
「ありがとう。助かるわ」
「いえいえ。良ければ泊まって行きますか?」
「本当!?」
「その代わり、が付きますがね」
「構わないわ。ね?ルビー?」
「え?あ、うん」
二人だけで会話をしてたから、ぽけーとしてた。交渉上手だなあ、とも思いながら。
「それでは自己紹介を。この村の村長をしてます。キュイと申します。言わずもがな獣人種です」
「では此方も。ミュエラ・リーン・リュミトリアです。エルフです」
獣人種。成る程。確か昔勉強した気もする。亜人の項目に括られてたと思う。
あと、ミュエラの名前。初めて知ったよ。カッコ良い。
あ、それより私の名前もだよね?
さてと?全部言っても良いのだろうか?
いや、ルビーはルビーでしか無い。イヴは違う。故郷を捨てたと同時に無くした名前なんだ。
「ルビー。人間」
ただそれだけを名乗った。真実はひとつも無いのに。私は嘘を吐く。
思えば、私の存在は嘘だらけだ。
「そうですか。ではゆっくりして行って下さい。依頼などはまた改めてにしましょうか。取り敢えず、疲れているでしょうから、奥の部屋を使ってください」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
私達は揃ってお礼を言ってから、その部屋へと行く。
荷物を隅っこの方に置いて休息を取る。
ミュエラは沢山の荷物を担いでいる筈なのに、全然疲れた様子を見せない事に今気づいた。
なので私は質問してみた。
「ねえ、ミュエラ?」
「ん?何?ルビー」
「大量の荷物で疲れないの?」
「ん?コレ?ああ、魔道具があるからね」
そう言って、バッグから取り外したのは、おそらく魔石を加工した道具。
私はてっきり、それをお洒落の為に付けていたのだと思ってた。
だって、カバンにストラップを付けるのはお洒落だよね?
私は、この質問を誰かにした事がある。そして力説されて納得した様な?今回、私はそう解釈したのだけれど違ったらしい。と言うか、そもそもストラップってなんだろうか。罠の類?うーん?
「凄い貴重な魔石でね?物の重さをかなり軽減してくれるのよ」
「便利だね」
「まあ、お母さんから貰った物だけどね」
「お母さん」
母か。いるのだろうか?私に。
フユの言葉を信じるなら、母は女神様らしい。
でも、私は色々と勉強したけれど、女神様は黒龍様に倒されたらしい。
普通に考えれば、敵同士が結婚するとは思えない。だからこそ私は考えた。女神の娘である私に、黒龍の力を与えて生かしたのだと。
私は女神の意思を受け継いだから、人間が好きなのかもしれない。
私は、【何方側】なのだろうか。
人か、神か、龍。何方側に付くべきか。
わからない。これから勉強するしか無い。そして、私を大切にしてくれる方を、信じたい方を助けよう。
きっと、それが正しいんだ。
もし、違うと言うのなら止めてみなよ。私の大切な龍。
少女は笑う。
その姿は死神を待っている。白銀纏う神か、龍か。終わりを悟りながら。
そして、その姿を遠くから見る存在がいた。
遠くとはいえど、物理的な距離では無く、遥か彼方から。
「このまま。大丈夫。必ず上手く行く。みんなが私を信じてくれたんだ。私は私を信じるよ。だから、少しだけ待っててね」
誰にも聞こえない声。たった一つの意思。
優しい声。自身に満ちた声は手を差し伸べる。大切な誰かを願って。
タイトル公開しました。
それはそうと、外伝二話は4,000文字くらいになってます。
主人公は出て来ませんが、その代わりに黒龍父の物語にしてます。
ここだけの話。外伝の話の方が手が込んでると言われても、その言葉は過言では無いかもしれません。
てへ。