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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
九章 追い、追われる者
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二百四話 無垢な力

町を抜け幾日。

どこかへ向けて歩いては野宿を繰り返す毎日だった。勿論特に変わった事は起こらない。所謂日常的な日々。

そんなある日の真昼間。


ふとミュエラは足を止めたので、私も歩きを止めて休憩の準備をする。話さなくても分かる様になった。何をするのかを。こう毎日繰り返していれば。

そしてこれから言われる事も毎回決まっている通りだ。


「アンタ、本当に何も考えてないわよね?」


呆れる様な声音。「馬鹿にする」と言うよりは怒ってるって感じかな。それに返答する私。


「まあ、うん」


何故ミュエラに叱られているのか?

それは、私が何の準備もせずに旅に出た事に対してだ。その事は勿論理解している。理由を説明されなくても。


「アンタ、私が居なかったら死んでたのよ!?」


その通りだ。叱られて当然。

飲食物は疎か、衣類や簡易住居つまりはテント等を一切用意していない。だからミュエラの言ってる事はとても正論。反論の余地は欠片程も無い。

なので私は、うんうんと頷いた。

しかし、当然なのかみょいーんが始まる。


「アンタね!?わかってるの!?」


怒られているのだが、私はつい嬉しくなってしまう。それもその筈。根源は親切心であり、私の事を想って怒っているのだ。嬉しくない筈が無い。


「えへへ」


私が頬を伸ばされながら綻ばせると、私の予想は外していなかったのだが、ミュエラにとってはよろしくない反応であった。

引っ張る力が強くなり、私は思わず声が出てしまう。


「痛たた」

「怒ってるのに喜ぶのはどういう事よ!?」


理由を問われてしまった。なので、私の思った通りの答えを出した。

これが言い訳になるかどうかも考えずに。


「私の事を想って怒ってくれてるから。その、嬉しくて。ミュエラは優しいなあって」


私はそう答えた。

その後に「ミュエラ大好き」とも付け加えた。

どうやら効果はあったみたいだった。

ミュエラは無言で、私のほっぺを弄び始めた。

こう、なんと言うか、丹念に押し込む様な引っ張る様な。勿論痛くはない。どっちかと言えば優しい感じ?かな。

ミュエラは、私のほっぺを見ながらブツブツと何かを呟いている。


「どうしたらこんなにモチモチになるのかしら?ルビーの笑顔が可愛い過ぎて、手が離れるのを拒んでしまうかの様な。それに、不思議な魔力も有るみたいな」


大事な事を考えているらしい。あの地竜を目の前にした時くらい真剣な瞳だ。

うん。そっとしとこう。何か大事な事を考えてるみたい。集中してるみたいだし、無理に抵抗するのもアレだし。まあ、嫌じゃないし。


むにむに。ぷにぷに。みょーん。ぐにぐに。


ひたすらに弄ばれ、結構な時間が経った。

私はそろそろ飽きてきちゃった。だから放して。

そう思い少し首を振ると、私の不満を察してくれたみたいで、ミュエラは慌てて手を放した。


「は!?ご、ごめんなさい。ルビー」

「むう。触り過ぎ」


私はミュエラに注意した。

ちょっとなら良い。でもあんまりずっと触られるのはなんか嫌。

なんとなく流されてしまうみたいで、照れくさい。


「つい、抗えなかって」


大体良いとは言ってないんだ。

それなのに、ミュエラはずっと触ってた。抗えないって何?

それってあれだよね?ミュエラの意志が弱いだけだよね。


「ぷん」


私はそっぽを向いた。

謝ったって許さないもん。私じゃなくてほっぺが好きなんだもんね?

ミュエラなんて知らない。



どうしてか怒りの感情が湧いてしまった。

その理由は自分でもわからない。

いや?私だからわからないのかもしれない。

しかし、ミュエラが私の頭に手を置いてしまった。



「良い子のルビー。許してくださいな?」


丁寧な言葉と共に私を撫でる手。

見え透いたご機嫌取りだ。わかってる。

私は答える。


「うん」


勿論許した。

意志が弱々な私は許しちゃう。

そして、私は溶けてしまう。


「優しい良い子ね」

「ん」

「本当に甘えん坊ね」

「うん」

「こんなに可愛いんだもの。それは面倒を見てあげないといけなくなるわよね?」

「うん」

「ちゃんと聞いてる?」

「ううん」

「そ、それは聞いてるのか聞いていないのか、わからないわね」


言うまでもなく聞いていない。

半分無意識。つまり正確な判断力は無いに等しい。

そんな私の考えが読めているのか、ミュエラは喋る。


「この子。こんなで大丈夫かしら?放っておいたら誘拐されないかしら??」


ミュエラが何かに対して悩み始めた。

しかし、私の耳は音を聴くのを止めてしまった。

まあそれはしょうがないよね。つい、私はふわふわに流されちゃうんだもの。

偶に覚えてる時はあるけどね。うん、半々くらいで。

でも良いんだよ。ミュエラが優しいから、私は疑ったりなんてしないもの。

だから、このまま。


私は相変わらず成長が無い。

物を得てはすぐに捨ててしまう愚かな龍。

大切な物が何なのかもわからない。

やっては駄目な事も理解出来ていない。

それでも私はやるしかない。

目標が見えなくても、どんなにつらくても、ミュエラと一緒なら何だって乗り越えられる。


私は暖かい感情に身を任せ、一時的に理性を捨てる。左目が青く美しく輝いた事に気付かぬままに。

外伝の方に【外伝二話】を投稿してます。

どんな話か‥‥‥是非読んで頂ければ幸いです。


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