二百二話 導き
迷宮から脱出した。外は今、空が白み始めている。つまりは明朝。
ボスを倒したからなのか、出るのは容易だった。数時間程度だろうか。
改めて私達はこれからどうするか。取り敢えず町へと戻ると思うが、そこも早く出立しなければならない。
すぐさま追っ手が来るとは限らないけれど、そう楽観視して良い物でも無いから。
お金を貯めてからと考えていたが、どうにもそんな余裕は無いかもしれない。
「どうしようか?」
独り言。
でも、私は1人では無かった。
「どうしたの?」
側に居てくれる仲間。
エルフのお姉さん。私が言うのもなんだけど小さい。
金髪緑目の耳が尖ってる女性。優しい人で、まるで狙ったかの様に話し掛けてくれる。タイミングが良過ぎてつい、悩みを話してしまうのは仕方のない事だ。
「どこか別の所に行きたいなって」
「そう、離れたいのね?」
「うん。私に帰る場所は無いから」
「成る程ね。アンタ結構苦労してるのね」
「そうかな?」
「アンタみたいな子どもが、世界を旅するのは珍しいからね」
珍しいのか。別にやりたくてやってる訳じゃないけどね。仕方無くだし。
取り敢えず今の状況を整理してからだ。なにせ私は、よく物を忘れるから。
元々私は森で生まれ、親友と旅に出た。それから、街で過ごした。1人で。
それから私は、冒険者として仕事を始め、色々な恩を返す為に奔走した。
恩を受けたのは覚えてるけど、どんな恩だったのかは曖昧。返せたのかも。
その頃に誰かに呼ばれ、竜聖国に帰った。王様に仕事を頼まれたんだっけ?
それで、任務中に親友に裏切られた。あれ?
まあ、何故か生き残り、竜聖国に戻った。
私は黒龍様の期待に応える為、あらゆる勉強をした。記憶が殆ど無かったのは、裏切られた時のショックが大きかったのだろうか。
私のこの体は、黒龍様の娘である親友の物。
ん?黒龍様には娘はいないって聞いた様な?
でも竜王は、黒龍には子どもがいるって。
あれ?では親友は何者?本物の黒龍様は誰?
私は黒龍。偽物。父が存在するのは間違い無い筈なのに、何故フユは嘘をついた?
もしかして、父は‥‥‥あれ?私はこの事を知ってる。いや、思い出した。
フユは、私が黒龍だと知っていたから、娘はいないんだと答えたとする。私を黒龍として考えたなら、私に子どもがいないのは明白。一応嘘はついていないと言える。
それはそれとして、竜聖国を統治している筈の黒龍はどこに居る?
私を候補から外すとして、父も亡くなっている。居ないのでは??
では、私を狙うのは誰?
フユは確かに私を殺そうとした。あの激闘。
目が覚めたら、フユは苦しんでいたから咄嗟に助けた。他に方法が無かったとは言え、騙す様な方法で。
だからフユは、私に懐いてしまった。
ん!?
じゃあ、私を狙っているのは勘違い?
いや、でも確かに親友が私を‥‥‥目で見たわけじゃないけど。
フユの行動は、私に対するその仕返しだと考えたけど。
どちらにしても、私は拒絶した。国には今更戻れない。
殺すつもりが無かったなんて信じられない。
確かに今回はそうだったみたいだけどさ。
もしフユに私を殺す気があった場合、私も本気でやっていたかもしれない。
そうでは無かったから、私は命を奪わずに突き放しただけ。この判断も甘かったのだろうか?
親友ならどうしていたのだろうか?
この期に及んでまで、私は親友を忘れる事が出来ない。もう「親友」では無いのに。
悩んだって仕方のない事だというのは理解している。それでも、ミュエラの言う様に、誤解では無いのかどうかと考えてしまう。
殺されかけたのに、フユに抱きしめられていた時のあの暖かさが恋しい。
私は故郷を捨てた。
最初は自分の未熟さが嫌で、家を出た筈なのに、知らぬ間にこんな取り返しのつかない事態に。
騙される前に離れられたのは、ある意味正解ではあるかも。でも、何も知らぬままの方が幸せだったかもしれない。
どうだろうか?
何も知らないからこうなったのかも。
そうだ。私は未熟だったから家を出たんだ。
なら、私は知識を身につけよう。力を身につけ、いつフユが来ても、追い返せる様に。二度と負けないで済む様に。
「大切な約束だから」
溢した声は風に溶ける。
誰も聞いてないと思ったが、風人は私を見て笑う。
「ふふ。嬉しそうね?」
そう言われて気付いた。私は笑っていた。
仮面を着けていたのに、どうしてバレたのか?
この時、私は何故笑ったのかという事よりも、見透されたことが不思議に感じた。
「そうかな?」
「ええ。笑ってるでしょ?当たり?」
心が読まれた事がむず痒い。
普通なら不快に感じるかもしれないのに、どうしてか嬉しい。
ミュエラに知って貰えるのが嬉しい。素顔も見られたのに、その事も問い詰めて来ないし。
私は沢山の人と触れ、離れていってしまった。それはどちらとも無く。
ミュエラだけは違って欲しい。
もし、運命というものが存在するのなら、私達を引き裂かないで。
私は願った。その時私の目は、一瞬だけ両方とも赤く光った。
誰も気付く事は無い。私以外は。知らなかったから。私は私を。未熟だったから。
私は進む。無意識に導かれながら。
さて、これからは暖かい話にします。
それはそうと、どこかでフユの視点も入れますかね?