表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
201/292

二百話 少女の決断

小さな水音が反響した。その音に混じり、人の話し声も聞こえる。

無意識の中に広がる幾つかの音。耳には入って行くが、認識の中には届かない。

ただ、一つの水滴が小さな女性の頬に落ちた。

その結果が現実と意識を繋ぎ直した。


「んんっ。あ、ここは?」


金の風人は声を漏らし、ゆっくりと瞳を開いた。

そして首を動かして視線を走らせた。

視界に入るのは暗い景色。ぼんやりと暗さに慣れ始め、周囲の物が見え始める。

そして、視界と共に得られる音の情報。


「理解した?」


ほぼ毎日聴いている声。

多分ルビーの声。声がくぐもっていない事から、仮面を着けていないと思われる。

そう思った通りに仮面を外していた。

どうやら誰かと話しているみたいだ。


「わかった。でも」

「必ず戻るから」

「うん。命令だもんね」


ボソボソと聴こえる。

真剣な話をしているみたいだ。

しかし、そんな事よりも敵は?あの竜王はどうなったのだろうか。

私は気絶していた。気絶した理由もわからない。

まさか、ルビーが?倒したのかな?


考え事をしていた。気絶していたのもあってか、体が怠くて意識を手放しかけていた。

その時。


「ん?」


唐突にこちらを見つめて来た。

私は焦って目を閉じた。すると、足音が聴こえ、近づいて来た。

そして止まったかと思うと、話し掛けられた。


「ミュエラ?寝てるの?」

「‥‥‥」

「そっか」


寝たフリをした。多分成功した。

私の反応を受けて、白色の女性と思しき声が、ルビーに訊ねる。


「どうするの?」

「会話は終わり。後は任せるね。あ、心。読まないでね」

「‥‥‥理解した」

「うん」


心?読む?どういう事?

そんな事が出来るの?何それ。ヤバイ。

魔法、かしら?聞いた事無いけど。

ま、まさか、寝たフリはバレてる?


「ミュエラは眠ってるみたいだね」

「そうね」


あ、良かった。気付かれていない。

何となく思うに、竜王が居ないのは、あの白い人が倒したのかもしれない。

ルビーと親密そうに見えたし、姉妹とかかしら。

敵では無いと思うけど、咄嗟に寝たフリをしたから、起きるタイミングを失ってしまった。


目を瞑ったままなので、視覚以外の感覚が鋭敏になっているのを感じる。

そんな状態だからだろうか。音が聴こえた。まるで、何かが落ちた音。ドサリって。

そして、それに続くルビーの声。


「ううん。ここは?」


まるで今起きたみたいな。

さっきまで起きていた筈なのに。

音だけではよくわからない。目を開けたいけれど、怖くて開けられない。


「おはよう。イヴ」


白い人の声。

しかし、おはよう?

何が何だかわからない。ルビーは確かに起きていた。それに、イヴ?

ルビーでは無くて?


持っている情報だけでは足らず、思考を巡らすも着地点は見えない。目を閉じているのもあってか。

そして続いたのは、ルビーの声にならない程の小さい声だった。


「う?ぁ、フユ?」

「そうだよ。久しぶり」

「な、何故ここに?」

「迎えに来たよ」

「あ、と、えっと」


困惑しているかの様な声。怯えている声。


「黒龍からの命令で、説得しろと言われた」

「それは」

「場合によっては力尽くでも」

「‥‥‥そう」


全てを諦めた様な声。酷く寂しそうな声。死を悟った様な。かつての私と同じ様な声。


「付いて来てくれるでしょ?」

「黒龍様もそう言ってるんだ?」

「そうだよ。だから‥‥‥」

「戻らない!」


被せる様に拒絶の言葉。明確な敵対意志。

かの竜聖国の神、黒龍様にすら逆らうみたい。

いや、重要人物だったが、逆らって今があるのかもしれない。

故郷を語るルビーは、寂しそうだったから恐らくそういう事なのだろう。


「うん。やはりそうなるんだ。はあ」


悔しそうに息を吐く白い人。

私は目を開けていた。見守らなければならない気がしたから。


「仕方ない。力尽くでいくよ」


大気が震え始めた。白い氷が舞い始め、白い人がルビーを見つめる。何故か、悲しそうだったのが印象深く、私の心に刻まれた。

逆にルビーは睨んでいた。


「負けない。戻ったって殺されるだけ。例えフユが相手でも、私は諦めない!」


戦いは始まった。

とんでもない規模の戦いの筈なのに、冷気がこちらに届いて来ない。そんな事は頭の中に無かった。私は少しの不思議を得ただけ。言うなれば微かな不信感。この戦いはそういう小さな疑問が多い。

この時に気付く事は無いけれど。


戦いが始まって数分。

小さな疑問あれど、それらを感じる事も無く過ぎて行く時間。

白い人は距離を置いて氷の塊を投げていた。

投げるというか、空中に氷の塊が作られ、勝手に飛んでいくみたいな。

私も風魔法で似た様な事が出来るが、あんな数は不可能。私は一つ。白い人は百以上。

そして驚く事に、その全てを回避するルビー。

どちらも人間離れしている。母よりも規格外な気がする程に。


片方が攻撃して、片方が回避する。その攻防が延々と続くかと思われたその時。

一つの事件が発生した。

不可避の弾と思われる一撃が飛んでいった。

2人も瞬時に判断したのだろう。それは良い。変だったのは、白い人までマズいと思ったであろう反応だった。

そして、私みたいに魔法を操作した結果、逸れてしまった事で、ルビーに掠っただけだった。

まるで、当ててはならないみたいな。


あれ?何故?

力尽くで連れて帰るなら、動けなくする為に魔法を命中させないといけない筈なのに。

確かにアレを当てたら致命傷だったかもしれないが。

私が考えついた事をルビーも思ったのだろう。問い掛ける。


「当てる気ないの?」

「そ、それは」

「そうなんだ?」


意地悪く笑うルビー。勝利を確信した表情。

私も察した。「力尽く」は許可されていても、可能な限り無傷でないと駄目だという事らしい。殺すなんて以ての外。

その弱みを握れば物事は簡単。


一転してジリジリと歩み寄るルビー。

さっきまで攻撃を必ず回避する為の迎撃体勢を取っていたのに、テクテクと聴こえて来そうな避ける気も無い軽快な歩き。

そしてやはり攻撃を止める白い人。力関係が逆転してしまった。


「だ、駄目。来ないで」

「どうして?来て欲しかったんでしょ?」


ピタリと目の前で止まるルビー。ルビーは下から見上げているのに、上下関係は全くの逆。


「私の勝ち」

「お願い。戻って来てよ。みんな、待ってるんだよ?」


白い人は泣きながら、最後の抵抗である情に訴え掛けた。

しかし、


「さようなら。フユ、二度と来ないで。もし来たら、不本意だけど倒す」


勝った方が押し付ける。勝者の特権。

白い人は断れない。為す術無く受け入れる。


「はい。わかり、ました」


ぼろぼろと涙を溢す白い人。

とても痛ましい泣き顔。目を背けたくなる様な。


「ミュエラ。行こう」


気付いたら呼ばれた。

良いのだろうか?本当にこのままで。

私は全てがわからないままここを去る。

大きな喚き声を後にして。迷宮の出口へと向かうのだった。

はい。八章終わりですね。

次の章も風人さんとの旅です。

外伝二話も書きたい。


文字数もこう、バランス良くしたいのに上手くいきませんね。章の終わりに文字数が増える現象には何とも言えません。

‥‥‥名前でも付けますか?


色々と理想が多い。そんな今日この頃でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ