百九十九話 また会う日まで②
目が覚めた。寒い冬の朝。
昨日。最悪な気分で寝た。だからだろうね。起きて早々泣いた。
自分が悪い癖に泣いたんだ。その事をよく理解していたからすぐさま立て直した。
それから、行く意味が特に無い学校の用意を始めた。
親友が来ない学校はとても退屈で、文字通り行くだけだった。
それでも、いつもは放課後だけは楽しみだった。この日は違ったけど。
なんて言ったら許して貰えるだろうか?
そんな事を考え続けた一日中。後ろめたさもあったからか、少しだけ行くのには二の足を踏んだ。
だけども、行かない選択肢は有り得なかったから、言葉を練りながら、相手の反応を想像して、イメージトレーニングをした。
結果は、なんの意味も無かった。
親友はもう、此処にはいなくなっていた。
親友のお父さんから聞いていた。長くは無いと。
それなのに、私は最後にあんな別れ方をした。
まず初めに考えた。運命という物の残酷さを。それから、酷く後悔をした。せめて、あんな事を言わなければ良かった。
思わず現実を見た時に、私は溢した。言葉と涙を。
「私、最低だ」
ただ、その時は大泣きしなかった。
親友の家族の方がつらいだろうから堪えた。
いや、それとも心が壊れてしまったのかもしれない。
現実味が湧かなかったのかも。
「おや?月宮さんか。来てくれたんだね」
「いらっしゃい。この娘もきっと喜んでるわ」
口々に歓迎してくれる人達。
その優しさが私の心を抉った。
感謝される様な人間じゃ無い。
私は最低な人間だ。
目の前がチカチカする。白色?何も見えない。
ただ、何かが聞こえる。
「手紙。ありがとう。凄く、くしゃくしゃだけどきっと、ずっと読んでたんだと思うよ」
「笑ってるから、嬉しかったんでしょうね」
「あまり笑わない娘だったからな」
「ええ。あなたにそっくりね」
「ああ。君によく似た綺麗な笑顔だ」
手紙?ナニソレ?
「あ、そうだ」
親友のお父さんが、何かを思い出したかの様に、机の上から取った一枚の紙を渡してくれた。
何も見えなくなった筈の、私の視界には文字が映し出された。
お父さん、お母さんありがとう。大好きだったよ。
あと、愛生ちゃんへ。素敵な手紙をありがとう。大好きだよ。
怒っていなかったのだろうか?それを確かめる術もない。どうしようもなくて泣いてしまった。
よく見れば、私が送った手紙は涙の跡でしわくちゃになってて、親友が亡くなって尚も握っていたらしい。
いろんな感情がない混ぜになってしまって、忘れる事すらも許されなくなってしまった。
そして、私は笑わなくなった。
少し前。笑顔を取り戻した。いや、取り戻せていた。
ここ毎日の中で泣いていない日は無い。それだけ大切だった人が居なくなった。
生きてはいる筈。でも、繋がったはずの絆が見えなくなった。龍の感覚でも探れないし、クロマルですら針が方向を示してくれない。
これはつまり拒絶だという事。
私が嘘を吐いたのが気付かれたのだろうか?
あのお風呂で触り過ぎたのが悪かったのだろうか?
それとも、他に何か嫌われる事をしていたのだろうか?無意識に。
私はいつもやらかしている。失敗ばかり。
今回もそういう事だろう。
あぁ、また。グスッ。
私の馬鹿。間抜け。ポンコツ。
また今日も泣いてしまった。朝から。
毎日毎日懲りずに同じ理由で、どうしようも無いのに。
いなくなってからは、空を飛んで捜し回った。
結果は駄目だった。
王様達も捜索の騎士を出したり、捜索願いのお触れを出したけど、未だ効果無し。目撃情報すら無い。
もうどうしたら良いのかわからない。
そんな時。
ふと、糸が繋がった気がした。少し前まで存在していた、この世界での繋がり。
同時にクロマルの針の方向が固定された。さっきまでフラフラ動いていたのに。
現実と夢との境が曖昧だったので、すぐさま反応は出来ず困惑した。
「あ、え?嘘?」
夢じゃない。此処は現実。
親友が生きていて、魔法が存在していて、私の二度目の人生。
「みーちゃん?」
確かにそこにある強い存在感。
理解してからは早かった。最速で向かった。衝突の危険性とか完全無視の全速力で空を飛んだ。
そして、辿り着いたのがこの洞窟の中。
こちらを見つめる小さな少女。かつての親友の雰囲気は感じるものの、どこか不穏な空気を纏っていた。赤色の空気を。
少し怖かった。でも、嬉しい気持ちが強かった。
向こうも笑ってた。妖しい輝きを放ちながら。
いつも通り、私から話し掛けようと思った。
しかし、初めて先を取られた。
「久しぶり」
「あ、イヴ?」
何故かわからなかった。
イヴじゃない気がした。あの黒龍でもない。
じゃあ、誰?
「愛生ちゃん。私だよ?」
ドクッと心臓が高鳴る。まさか
「みーちゃんなの?」
少し笑う少女。目が無機質なまま。
それが少しだけ怖い。今までの知ってる親友では無い気がしたから。
「そうだよ。眼を見てくれないの?」
怖い目だったから逸らしてしまった。
なんとも言えない恐怖。まるで優しくない輝き。
「あ、と、それは」
「まあ、良いよ。命令。眼を見て」
逆らえない命令。
命令されるのは嫌じゃない。ウレシイ。
ワタシハ黒龍ノ眷属。
何かわからない感情。
眷属とは何か。理解してしまった。
記憶は残る。嫌な事ではない。
ただ、親友は変わってしまった。