一話 少女の目覚め
周囲は木々に囲まれ足元には草や落ち葉が散らばっている。そして、人間の気配など一切しない所の筈だが話し声が響く。
辺りには他の音は無く、その声は余計に大きく聞こえてしまう。
「おい、本当に祠みたいなものがあるのか?」
そう言った青年は、怪訝そうな表情でもう1人に話しかける。
「ああ、この目で見たからな。念の為お前を呼びに戻ったのさ。まさか嘘をつくと思うか?この俺が」
確かにこの男は嘘つきである。
しかし、真剣な表情の時だけは嘘をつかないのは確かだ。そして、今回は恐らく嘘ではないのだろう。
だとしても、この男の言い分とは無関係に、この森には不可解な点が多い。
何故ならば、森は殆ど探索したが魔物の一匹どころか痕跡すら見つからない。
生物が棲めないのならまだ理解もできる。しかし、植物は生え野生の動物もいる。それなのに魔物だけがいないのは不自然だ。
人が近くに住んでいた痕跡は無い。例の祠と、魔物の有無以外はただの森である。
青年は思考に耽っている。するともう1人であるコワモテの男が、指を差し言葉を発する。
「ほらあれだよ見てみな」
指先を目で追えば、その建物を視界に捉える。確かにそれは祠に見える。見つけた祠は神秘的な雰囲気であるが、苔などが生えている。だが、それは当然だろう。人の痕跡などは見つけられないのだから。
青年が入り口を目で探していると
「多分あそこが入り口だ。入ってみようぜ」
コワモテが大きな空洞を見つけたので、青年はその提案に応じる。
「そうだな。行ってみるか」
そう言って空洞の中に入ると門があるが、見た事の無いタイプの扉である。相当に大きく、かなり上等な物で、大男でも通れる高さと幅である。
次に目を引くのが、隣に埋め込まれている閉じた掌くらいの、光る水晶板である。
「これは魔力を流すと起動する魔道具のような物だな。王都にも似たのがあったぜ」
「危険はないのか?」
「分からん。やってみねえとな」
「試してみよう。トラップではないのを祈ろう」
青年は、そう言って水晶板に手をかざし魔力を流す。すると、少しの振動と共に扉が左右に移動している。
「トラップでは無いようだな」
「おっ中になんかあるぜ!」
それを聞いて中を覗いてみると、円柱型の水の塊の中に少女が浮かんでいる。そしてその少し手前に台座があり、大きな宝玉がはめ込まれている。
「なんだあ?娘っ子が封印されてんのか?」
「溺れていないのか?」
「多分生きてると思うぞ」
「この宝玉抜いたら助けられると思うがどう思う?」
「恐らくそうだな」
「やってみるか」
「おう気を付けろよ」
頷き合って互いに剣を抜く。そして宝玉に手をかけ外した。
すると、少女の周りを覆っていた水が抜け始め、周囲のガラスが完全に外れる。暫し静寂に包まれ、目覚めた少女は口を開く。
「あれここは?‥‥‥どこ?」
横たわっていた少女は起き上がりながら自身の状況を確認している。年の頃は10歳くらいだろうか?肌は白く髪は黒い。瞳は青と赤のオッドアイで、まだ幼いが成長したら、数多の男性を魅了するであろう事は間違いの無い整った容姿である。
「おいどうするよ」
「うーん」
青年は少女を助けたは良いものの、その後の事を一切考えていなかった。だから、聞かれても即座には答えられない。悩む青年に話し掛ける少女の声。
「あなたたちは誰?」
そう聞かれてハッと気が付き、青年は止まっていた頭を働かせる。そして咄嗟に名前を名乗ることにした。
「俺はトライ、こいつはアルバスって言うんだ。お嬢ちゃんは?」
質問したが返答はない、少しの間少女は沈黙して
「私はクロ」
と、そう少女は名乗る。
一応色々な要素を入れてますが、なにかお気づきの点などありましたら教えて頂けると幸いです。
またわからないことなどはネタバレにならない程度にお答えしたいので良ければコメントなどお願いします。
m(*_ _)m