百九十六話 人間代表
突如として現れた竜人。少なくとも先程までは居なかったはず。
何故現れたのかは、今は考えるべきでは無い。
なのだが、思考が加速し、生き残る術を探ろうと躍起になっているのが自分でも分かる。
手段を模索する内に、己の命を捧げれば許して貰えないだろうかとか、どうやればルビーを逃がせるかなどと考えた。
いかに頭の回転が早くなろうとも、まだ時間は足りない。
なので、答えを得る為の時間を稼ぐ事に集中した。
つまり、
「貴方は、何者ですか」
敵である竜人に問い掛ける。
こうやって会話をする事で、少しでも対策を練りたかったのだ。
そしてこの策は成功した。
相手が油断をしてくれている結果なのかもしれないが。
「私は竜の王。世界に数体しか居ない者の中の1人だ」
「竜王?」
私が問えば、ルビーは口を挟む事無く聴いていた。
もし、ここで変に相手の神経を逆撫でしたらどうなるかわからなかったから、とても賢いと内心褒めながら、質問を繰り返す。
思考を動かしながら、慎重にトラップの仕掛けを解体するかの様に。
「そうだ。私の眷属が世話になった様だ。もう一度同じ物を作るのには、相当手間が掛かるが仕方ない」
「地竜を作る?」
「そうだ。卵を作り、育て、名を与える事で漸くここまで来た。それなのに、ニンゲン風情が」
やはり、ただの魔物では無いらしい。
でも、私達だって無意味に死ぬつもりは無い。
敵だから倒した迄であり、敵に抗うのは生物の本能だと思う。
しかし、私達のそれは通じないかもしれない。
聞く耳を持ってくれる風な態度じゃ無いもの。とは言え、悪びれる訳にもいかない。
「敵だから。悪いとは思うけど」
私がそう言えば、何故かルビーが震えた気がした。
思わず、庇う様に抱き着いたから、密着しているのだけど、身体が少し動いたのが判った。
タイミング的に、私の言葉に怯えた様な感じだった。
一応私は、竜王に謝罪をしたけれど、これは半分煽りみたいなもの。
わざわざ言わなくて良いのだけど、最後の抵抗みたいなものね。これは。
「フン。まあ良い。これは私の遊びみたいなものだからな。だが、貴様らには死んで貰わねばならんがな」
「へえ?」
「私は今、機嫌が良い。普通なら会話などせず滅していたところだが」
「それは、何故?」
「我らが魔物の王が生まれたからな」
嬉しそうに語る竜王。
私は問う。
「魔物の、王様?」
私が時間を稼ぐ為に会話をしていると、大仰な手振りで、私達に言い聞かせる竜人。
思惑は気付かれていないのかも知れない。
「そうだ。我らが黒龍様をも凌駕するであろう、龍帝様だ。御命令があれば、いつでも人類を滅ぼせる様に用意をしていたが、やはり許せぬ」
気になる事が増える。
そのお陰で話題には事欠かないけれど。
この茶番、可能な限り付き合ってもらわないとね。
まあ、策なんて思い浮かばないけどね。
「龍帝?」
「恐らく、黒龍様の御子息だ。将来、我らが竜族を率いるであろう方だ」
「何故、分かるの?」
「私が竜王だからだ」
説明としては不十分。
とは言え、文句は言えない。
「竜王。他にはどれだけいるの?」
「数体だ。しかし、最近1体消えた。ニンゲンに敗れたのかもしれん」
こんなのが沢山いるのか。
ルビーを逃すなら、私1人で戦って、時間を稼ぐしか無いかな。
追いつかれるでしょうけど。でも、ひょっとしたら、奇跡的に逃げられるかもしれない。
無理、かしら?いや、諦めない。
私が方針を決め、ルビーに耳打ちをしようと思い、ふと視線を送ると、何か得体の知れない雰囲気を感じ取る。
その雰囲気は、ルビーの声に乗って吐き出される。
「龍は、人と戦わないといけないの?」
不思議な質問。不思議な雰囲気。
冷たい怒り?の様な。何故だろうか?
「そうだ。魔物と人は敵同士。迷宮の宝を餌に、ニンゲンを釣り地竜を育てていた。なのに、貴様らは」
随分と身勝手な答え。
迷宮に来たのが悪いと言えばそれまで。あくまで自己責任だしね?
でも、それは理解した上で、やはり首を差し出す訳にはいかない。私達は生きているのだから。
多分。ルビーも同意見なのね。
「お前が、お前達が龍の何を知っている」
明確な怒り。
何故、ルビーは竜に拘るのだろうか?
それよりも、あまり刺激したら。
「なんだ貴様。私は竜王だぞ?ニンゲン如きが、図に乗るな」
マズい。一触即発。
このままでは、とそう考えたと同時に、ルビーが喋る。
「そうだ。僕は人間だ。だから、お前らとは違う。僕を一緒にするな!」
魂の叫び。つらくて吐き出したかの様な。
「フン。時間稼ぎに付き合ってやっていたが‥‥‥不要の様だな?」
バレてた。まあ、それもそうか。
どうせ、逃げられないしね。
よし、やろう、ルビー。ね?それしか無いみたいだし。頑張りましょう。一矢報いる位はしないとね。
最初から覚悟は決めていた。再度引き締めただけ。何も変わる事は無い。私は笑ったわ。
その瞬間。声が聴こえた。
「ごめんなさい。ミュエラ」
目の前が真っ暗になった。
こう、糸を切ったみたいな。ブツンって。
目が覚めたら。誰かが立っていた。2人。
ルビーと、白い、誰?
綺麗な長髪の女性。互いに見合って、白い人が泣いてる?
あぁ、ルビー。女の子だったんだ。
凄く、凄く、話の構成を悩みました。
展開を決めてはいたのですが、時系列などの調整を
凄く×2‥‥‥しつこいですね。すみません。
なにせ作者は間抜けですからね。
ちょっとこう、時間掛かりました。
申し訳ない。m(*_ _)m