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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百九十五話 悪魔の力

ボス部屋の入り口を開けてから、ミュエラ達を誘導して帰ろうとした。

私1人だけなら何も問題無い。地竜を倒す事自体は。

ミュエラが居たら守れないとかでは無く、万が一にも龍化せざるを得ない場合が怖かった。

例え、私が黒龍だと気付かれたとしても、ミュエラなら、怖がらず居てくれるとは思ったものの心のどこかで信じ切れなかった。


だからこそ、地竜から逃げるべきだと思った。

可能な限りリスクを負いたく無かったし、私がいくら強かろうとも、最悪の事態はあり得たから。


それなのに、ミュエラは怯えていた。

私には理解が出来ない。

何故地竜に対してでは無く、私をそんな目で見るのか。

これならまるで、私に恐怖してるみたいな。


私の心は逸る。

そして詰め寄れば、それと同じ距離が維持され、気が付けば地竜が寄って来ている。

地竜は、私達を倒そうとしているみたいで、ミュエラは多分気付いていない。


私は思わず借りたナイフを構え、龍技の三つ目を使用した。

私の唯一の遠距離攻撃で、対象では無く風を斬り、斬撃を飛ばすので、ナイフへの負担も少ないはず。

その分威力は控えめだが、私は力を隠したかったからそこは問題無い。

倒すつもりは無く、威嚇を込めて発動した。

技の名は「突翼」。威力は最低限。ほぼ魔力も込めていない。


斜め十字の斬撃は地竜へと飛んで行く。

当然、弱めに発動したのもあるが、空気などの抵抗により威力は落ちていたので、浅い傷が付いた程度。

それでも歩みを止める事には成功した。

地竜を倒したいとは思わない。少なくとも「私のみでは」だ。

仮に龍化せず倒せたとしても、ミュエラには不信感を与えたくない。

だから私は問う。どうすべきかを。わからなかったから。


「ミュエラどうするの?」


私の悩みを理解してくれたのか、ミュエラは笑っていた。

笑顔のミュエラは自信に満ちた様子で答えてくれた。


「倒しましょう。ありったけの魔法をぶちかますわ」


勝算があるらしい。私は信じる事にした。


「わかった」


私が頷くと同時。魔力を溜め始めるミュエラ。

きっと少し時間が掛かる。なら、私にできる事をする。

全ては私の物。なら、私から誰かへ。

魔力を貸してあげる。偽りの私にしか出来ない事だから。

私は、魔導操作で魔力を取り込みながら、魔力を気付かれない様に受け渡して行く。

ついでに、ミュエラの魔法を強化しよう。

出来れば一撃で終わらせたい。少しでも反撃の可能性は無くしたい。それだけでミュエラの安全に繋がるのだから。


魔力を溜め終わったらしい。

良い笑顔。笑った顔。好きだな。

私は戦闘中でありながら、ミュエラに見惚れてた。

私は多分、笑顔が好きなんだ。笑うのが下手な癖に。その事がなんだか可笑しく思えちゃう。


そんな変な事を考えていると、ミュエラは唱えた。恐らく最高の魔法の名を。


「ウインドバースト!」


放たれた透明な魔法は、回転しながら地面を抉り、地竜へと直進してぶつかる。

私は地竜の体力を右眼で見ていた。

相当量減った。しかし、まだ足りなかった。

なので私は、地竜の魔力核を遠隔で破壊した。


あたかも魔法で死んだ様にした。

でも大丈夫。きっと気付かれない。

魔石を回収出来なくなるけれど、ミュエラに同じ魔法を何発も撃ってもらうのは酷だと思ったから。

そんな事をするくらいなら、魔石ごときなら捨てるのも辞さない。


土煙の奥で倒れ伏す地竜。

不安そうに煙の中を見続けるミュエラ。

私は、ミュエラに安心して貰う為に、結果を報告した。


「倒せた、みたい」


私の言葉を聞いた途端。前方向に膝から崩れ落ちるミュエラ。相当無理をしたみたいだ。

なので、私は抱き着いてから、喜びを分かち合う。

それと共に、もう一度魔力を譲渡する。

私が抱き着いても拒絶されず、寧ろ喜んでいるみたいだった。

なので、私が止めを刺したのには気付いていない。


やはり、思い違いだったみたいだ。

私を見ていたあの目。怯えた目。嫌いな瞳の色。

良かった。上手くいったみたいだ。


私は笑う。幸せを抱きながら。





金の風人は大きな物体を睨んでいた。

視線の先には煙が晴れ、地竜の亡骸が佇んでいた。


結構な時間抱き合ってた。

地竜を倒せた嬉しさが大きく、その喜びをルビーにも分け与えたかった。

仮面を着けていても、喜んでいるのはわかった。だから受け入れた。

しかし、そろそろこの名残惜しい時間は終わり。


私はルビーから離れ、地竜の素材を回収する為に、解体用のナイフを取り出す。

早く素材を採取しておかないと、迷宮に分解されるので、最低でも魔石を見つけておかないといけない。


そう思い、地竜に近寄った瞬間。

声が聞こえた。その声は怒った男性の声だった。


「貴様ら人間如きが地竜を倒すとは」


ビクッと体を震わして、声の方向に振り向く。

その視線の移動中に、ルビーが視界に入ったが、驚いた様子だった。


「エルフの小娘よ。許さんぞ」


私達人間を蔑み、憤怒に包まれた者は、所謂竜人と言うべき存在だった。

およそ人型で、所々、竜の特徴があった。

例えば、頬に鱗の様なものがあったり、背中には翼があった。

私よりは背が高く、地竜と比べれば小さい体躯だが、地竜よりも強く見えてしまう。

理由は説明しづらいが、本能的な物が、恐怖を訴えかけてくる。


マズい。強者の雰囲気?って言うのかしら。

勝てる気がしない。

私は慌てて、ルビーの下に行ったわ。

固まってしまってたから、不安をほぐす為にね。


その時の私は既に諦めてたわ。

折角、地竜から護れたのにってね。

それ程までに、私は未来を察していたのかもね。

ただ、私は、諦めたくなかったのよ。


今日に入ってから何度目かの覚悟。

その全ての中でも、最も大きい絶望を睨みつける金の風人。

それらを跳ね除け笑う。大切な者に触れながら。

さあ、連戦です。

事態は悪化してます。

神視点では、戦うべきではなかったかもしれませんね。


それはそうと、少女の優しい心とは全く逆の力。

これこそが黒龍の力で、アイちゃんが使って欲しくなかった力です。

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