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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百九十二話 迷宮の奥地

「クソ!あのヤロウ!何処行きやがった!」


男の怒号が響き渡る。

凡そ、半刻前に迷宮のボスが居ると思われる部屋に辿り着いた。

そして待っていたのは、とんでもない大きさの巨獣だった。


男は迷宮攻略を甘く見ていた。

男の住まう町では、今現在、最も勢いのある冒険者パーティーだと持て囃され、調子付いていた。

幸い、町に数人居る自分と同格の者達は、とある公女様を捜すのに躍起になっていた為、邪魔者は無く、迷宮の財宝は男の手に落ちると思っていた。


半分位は思惑通りだった。

どこのパーティーよりも早く迷宮入りし、そしてボスの待つ場所に来た所までは良い。

しかし、問題はその、迷宮のボスだった。


ボス戦が始まれば、逃げる事は不可能だと知っていたし、その事も部下にはしっかりと説明した。

だから最悪の場合には、肉盾になってもらう様に暗に言っていたつもりだった。

なのに、


「クソ。1番の雑魚を真っ先に盾にしようと思ったが、居なくなってやがる」


戦闘センスの欠片も無い男。

いつもいつも役立たずで、鍵開け位しか才能が無い。

偶々。そう、偶然。鍵開けを出来る奴がいないから使っていただけの役立たず。


男が苛々としていると、仲間が話し掛ける。


「大将どうしますか!」


男に質問を投げ掛ける声。

その声が、益々男を苛立たせる。


「うるせえ!テメエで少しくらい考えろ!」


怒鳴れば、仲間は萎縮する。


「す、すみません」


クソ。どいつもこいつも役に立たねえ。

チッ!またか。


男の視線の先には、巨獣に撫でられ、血みどろになった塊が空を泳ぐ。

こうやって巨獣が暴れれば、パーティー内に動揺が走り、着実に士気が下がっていく。


仲間を盾にしながら攻撃を加えているが、効いてねえ。そもそも、刃が通らねえ。

硬過ぎんだよ。化け物が。



男達は数で魔物を押す。

しかし、その数も徐々に減って来ている。

魔物の速度は遅い為、攻撃はかなり躱せる。それでも、大きい身体を使った魔物の一撃は時折、誰かしらに命中する。

当たれば即死の一撃。

魔物の体重の乗った攻撃は、防具を簡単に歪めてしまう。


ダメージを与える事は出来ず、頼みの綱である仲間は、最早糸の如くか細い。一瞬で千切れてもおかしく無いくらいには。

男は後悔し始めていた。


どうしてこうなった?

見窄らしい迷宮だと思った。

魔物も少なく、罠の類も無かった。

なのに、何故。



考えても分からない。

そして、今はそれどころでは無い。

男は剣を振る。無駄だと知りながら。




金属と、金属の様に硬い物がぶつかる音。

音の発生源から少し離れた所にある男が立っていた。



俺の名前はジーク。

かつて、盗賊の下っ端をしていた。

盗賊として生きていたが、憲兵に捕まって、それから改心したと言ってもいい。

いや、自分で言うのも変だがな?改心したかどうかは、他人が決める事だからな。

まあ、良くも悪くも下っ端だったが故の罪の軽さで、殺しは一度たりともやっていないのもあるとは思う。


そして、今現在は冒険者の下っ端だ。

足を洗ったは良いのだが、結局、今も下っ端。

俺は生まれ変わっても、そこだけは変われないのだろう。


少し前、小さな男の子がギルドに来た。

なんでもCランクらしい。子どもなのにな。

才能溢れるってやつか。俺なんて、数年掛けてようやくDランクなんだが。

そもそも、俺に戦闘センスは無い。だから別に僻んではいない。


ウチの大将がその子を目の敵にしてしまった。

ウチのパーティーは大所帯で、幾つかに分かれて依頼をこなすんだが、その一つのチームが、なんだか失敗したらしい。

その事にウチの大将が怒った。

そして、その少年の噂が立って比較され始めた。

その少年は悪く無いのにな。依頼を失敗した奴らが悪くて、責任転嫁するなんて図々しいどころか、意味が分からない。

それでも、俺は弱くて何も出来やしない。庇う事すらな。


あの少年は恨んでいないだろうか?

帰ることが出来たら、謝りに行こう。

まあどうせ、俺達は、終わりだ。



男がそう考えた直後。

四足の魔物がまた1人吹き飛ばす。

吹き飛んだ人間は、ピクリとも動かず、真っ赤に染まっている。


そう。また1人。

15人程居た人数も、気付けば半分以下になっていた。

それを遠くから眺める男。

視線の先には、怒りながら指示を飛ばす人。



流石はウチの大将か。

そう簡単にはやられないな。

しかし、それも時間の問題か?

それは、俺にも言える、か。

あいつらが終われば、どうせ俺も死ぬ。

見つからなくたって、餓死するからな。



男は何も無い場所に立ち、元来た入口だった場所に手を当てるが、何も起きない。



やはり。出られない。



元来た入口は濁った雲の様な壁に包まれ、侵入は容易だが、一度入ったら出られない。

迷宮の最奥に辿り着いた者は、その迷宮のボスを倒さなくてはならない。

そして、ボスを倒す事で財宝が手に入るのだ。



だが、無理だ。アレを倒すのは。



四足の魔物が咆える。

黄土色のひび割れた模様が特徴的な竜。



恐らく地竜だと思う。

翼は無い。だが、圧倒的な体軀。

迷宮のボスを見つけた瞬間。隠密の魔法を使用した。

俺は、俺達は勝てないんだ。誰が見てもそう判断する。

臆病だって、笑うか?

仲間を捨てた卑怯者だって、馬鹿にするか?


はは、馬鹿だよな、ウチの大将も。あんなのに挑むなんて。

しかし、逃げる事も無理なら、ボスを倒す事に賭けた方がマシなのか?

いや、それこそ駄目だ。自分の事は自分が一番理解している。

俺の特技なんて、鍵開けぐらいしか無い。

だが、鍵開けが得意って言ったって、鍵穴がなけりゃ何の意味も無いわな。


皮肉げに笑う元盗賊。

元盗賊は、祈る様に雲の扉に手を当て続ける。

しかし、そんな事をしても無意味。そう、思った矢先。


雲の中から小さな手が生えて来た。

比喩でも何でもなく、文字通り生えて来た。

そして、その生えて来た小さな手は、雲の扉を境に、腕の方から身体を引っ張り上げる。

雲を潜り抜け、現れたのは少年。仮面を着けた。

赤黒いマントを羽織る、小さな小さな少年達だった。

鍵開け。ピッキング。

使い道は幾らかありそうなんですけどね。

脳筋には使い道がわからなかったみたいです。


トカゲも若干脳筋ですけどね。

そこは内緒です。

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