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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百九十一話 逆転の感情

暗くて陰鬱とした迷宮の中。

私の感情も合わさってなのか、ジメジメと湿っぽい。

時に水が滴り落ち、ぽたりと響き渡る。他の音が無いからとても大きく聴こえる。


そんな感じの場所を私達は歩き、私の感情もある程度収まった頃合い。

何かがぶつかる様な、もしくは、硬いものが擦り合わされる様な高い音が聞こえて来た。

私はその音を聞き首を傾げると、ミュエラ先生が教えてくれた。


「剣戟の音ね。誰かが戦ってる?」

「戦闘音。人間かな?」

「恐らくそうね。私達の進行方向から聞こえるから、この足跡の人達かしら?」


地面を指差しながら教えてくれるミュエラ先生。

つまり足跡は厄介さん達の物だろう。

Bランクの厄介さん含む、複数人のCランクの人達。

そこに、今まで感じた事の無い雰囲気を放つ者が居る。


私は無意識に、現在戦闘中の空間内を調べてた。

多分、魔導操作を使用した。

強そうな魔物。倒せるけど。


「ルビー。どうする?」

「えっと、どう、とは?」

「行くか、行かないかね」

「うーん」


悩む。客観的に判断したらこの魔物は強い。

私の事は取り敢えず置いとくけど、ミュエラは勝てなさそうかな。

魔物をランク付けするならAランク。

とてもじゃ無いが、私達に勝ち筋はない。

私が本気を出せば問題無いけど、それは正体を知られる事を意味するので、案としては最後の手段。

ミュエラに危険があれば、惜しみ無く龍化しても良い。

だから、厄介さん達が全滅してから行きたい。

そう思った。


「助けに行きましょうか」

「え!?」


私の考えとは正反対らしい。思わず私は驚いてしまった。

ミュエラはと言うと、笑っていた。


「嫌?」


訊ねられたから、答える。


「そう言うわけでは」


私は嘘を吐いた。

助けに行く事で、ミュエラも危険になる可能性がある。

他には、私の力は使いたくなかったから。


「ふふ。そうね。助けに行くのは損する事が多いのよね」

「それは」

「でもね?助けなくて損するくらいなら、助けて損したいわ。人の命には代えられないのだから」

「でも」

「ボスをどちらが倒したかを揉める事もあるし、良いこと無いのよね」

「それなら」

「ま、そこは話をして、助けるかどうかは相手に聞くべきね。お節介になるかも分からないし」

「僕は」

「貴方の気持ちもわかるわ。だから、本当に嫌なら貴方を尊重するわ」


助けるべきかどうか。

ミュエラは分かってない。この迷宮のボスは強い。

助けに行ったら、ミュエラを危険に晒すという事。

そんなの嫌だ。

あんな奴ら、人間なんてどうでもいい。



《私は黒龍なのだから》



私がそう考えたと同時。

私の中で音が響いた。

それと共に、とても冷たい感情が流れて来た。

自分でも分かるくらいの冷えた思考。

何故そう考えたのかは分からない。

自分が自分では無い感覚。

とても恐ろしい事なのに、安堵して心の波が穏やかになって行く。

操られているのだろうか。

だと言うのに、嫌悪感よりも、嬉しい感情の方が強い。


その感覚に流されかけた。

でも私は。


違う。

君の言いなりになったから、私は。

もう、私は信じない。

私は私の好きな様にやる。

これが貴女の気持ちなら、私は嫌いな人間を助ける。


貴女の事なんて、嫌いだ。


そう思ったらふと、笑った気がした。

もう1人の私が。少し寂しそうに。分からない。

どうして笑うの?

どうして泣きそうなの?


教えてよ。意地悪。

そうやって、私を見るだけ。

昔から、君はいつもそうだった。



私は黒龍。

人間を助けるんだ。




「行こう。ミュエラ」


気付いたら答えてた。

陰鬱とした気分は晴れ、私の心は決まっていた。

右眼が熱を訴え、涙が滲みながらも笑顔を捉えている。

ミュエラの笑顔。微笑みを浮かべた、私の大切な友達。


「ええ。ルビー」


私も笑った。

心が繋がった気がする。暖かい。

この感覚はいつぶりなのかも分からない。

ただ私は、この感覚は嫌いじゃない。

助けよう。人々を助け、みんなを幸せにしよう。

それが、私にとって、何よりも大切なモノなんだ。



決意改め、進む。

迷宮のボスに挑む為。






迷宮に潜ってから早3日。

従来の迷宮ならば、戦闘があっても3日程度で片付くので、この迷宮は少し異質だ。

私達は休憩以外の殆どは、歩き詰めている。

なのに、未だに最奥に着かない。



周囲を警戒しながら、そう考える金の風人。

視線を巡らすと、正面には同じ位の背丈の子ども。



相変わらず無言ね。

まあ、良いけど。



人の事は言えないが、と言うかむしろ、話し掛ければ即座に応じてはくれる年下の男の子。

喋らないのは緊張も関係しているのだろう。

いや、そもそも会話が苦手そうにも見えるが。



少し話した感じでは、とても素直で、話はしっかりと理解している。

何処となく抜けている所もあるけど、人の良さは窺える。

遠慮がちで、寂しがり屋の可愛い子。

表情の変化は仮面で見えないからなんとも言えないけど、軽薄な感じで無く、とても真面目。



少年の事を考えながら、足を動かす金の風人。

迷宮内に水の気配は無かったが、いつ頃からか、迷宮の雰囲気が変わり、そろそろボスの待つ場所に着くだろう予感。

そして、案の定聴こえる金属音。



当たりね。漸く到着か、長かったわね。

予想では、もっと早く着くと思ってたけど。



すると、金属音が聴こえた事が不思議なのか、少年は此方を見ながら首を傾げている。



ふふ。相変わらずあざといわね。

まあ、そこが可愛いのよね。

この子との会話は楽しいのよね。なんて言うのかしら?

教えるのが好きって訳では無かったと思ったけど、不思議なのよね。

こう、つい、手取り足取りやってあげたくなるのよ。

それで、褒めちぎるととても嬉しそうにするから、甘やかしたくなる。

ちゃんと吸収するし、本当に良い子。私の目に狂いは無かったわね。



金の風人は少年と議論を開始する。

お互いの意見を、心を交換する為に。

ミュエラ。強さはCランク。

厄介さんよりは弱いです。


あの町の冒険者の構成は、B数人、C数人、他+αです。

Cは厄介さんが囲っています。

Bの人達はと言うと、あるお偉いさんを探しているらしいですね?

さて、誰の事やら。


まあ、つまり、迷宮入りしたのは厄介ーズと、主人公達のみです。

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