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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百九十話 継ぎ接ぎの推理

寝坊した私達は、大慌てで拠点を片付け、即座に出発した。

とはいったけども、探索に焦りは禁物なので、実際は焦らずじっくりと歩いていた。

精神的な焦りは若干残ってたせいなのか、お互いに黙って歩いていた。

しかし、私が終始無言も辛いなと思っていた所に、ミュエラもそう思ったのか、話し掛けてきた。


「ルビー?」

「ん?何?」

「ルビーは何処から来たの?」

「僕?えっと」


竜聖国と答えようか迷った。

もう戻れない故郷の名前を言っても良いものか、と悩んだ。

しかし、嘘を吐こうにも、他の国を覚えてない。

微かに違和感を覚えたけど、分からない物は分からないし。

迷宮に来る前に住んでたあの町は名前すら知らない。

と言うかそもそも、あの町で孤立してたのだから、故郷だと言ったって嘘だと気付かれる。そんな気がする。


私が黙ってしまったせいか、ミュエラが喋る。


「あ!ごめんね。言い難かったわね」


謝られた。

ミュエラは怒ったり謝ったりばかりだ。

別に、気にしては無い。

私は後ろを振り返らないからね。

えへん!


「良いよ。竜聖国だよ」


答えた。嘘を吐いても仕方無いし、別に何も問題無いよ。


「へえ?そうなの」

「うん」

「じゃあ、あの。黒龍に会った事はあるの?」

「えっと、無い」


と言う事にしておく。

私が黒龍だけど。

まあ、どうせ信じてくれないし、話しても無駄かな。それに私は偽物だし。



その時突然。ふと、何かを知った。

そんな感覚。

なんと言うか、知識が降りて来た。みたいな。

それはスルスルと溶けて私に馴染む。

私は思い出す様に思考に耽った。



うん。偽物。だよね?

確か、アイちゃんが本物で、力を借りた?

それから、騙されて殺されかけたけど、反撃した。

結局、負けた。


記憶が無いまま戦争へ。

そして、フユと出逢った。

何故か分からないけど、凄く好かれた。

でも、確かに殺された筈。

いや?私が勝ったのかな?で、助けた。

助けないといけない気がした。


そもそも、フユは何故襲って来たの?

黒龍の力を取り返す為?かな?

だけど、戦った結果、それが無理だと分かって、信用する為に‥‥‥擦り寄って来た。

だって、私はフユをよく知らない。

不自然だよ?こんなに好かれるのは。


あぁ、黒龍の力か。好いてたのは。

それで、私を信用させてから、奪い取るつもりだった?とか。たぶん。それがしっくり来る。

確かに私は信頼してた。フユを。

でも、私は知ってる。

どれだけ信じても、裏切るって。身を持って理解した。


王様達が私と仲良くしてくれてたのはきっと、偽物の黒龍である、私を騙す為。

だって、娘の私が、お父さんに会えないのはきっと。


そうか、戦争を起こしたのも、私を亡き者にする為。どさくさに紛れて。

だから、フユを後から来させ、私と戦わせた。

黒龍様が本当のお父さんなら、私を、フユに襲わせる必要は無かった。

試験というのは、嘘。

騎士さん達を殺さなかったのは、状況を作る為。一騎討ち。

でも、私がフユを退けたから、方針を変えた。


私が、黒龍様の娘である、アイちゃんの力を奪ってしまったんだ。

表立っては殺せないけど、もし、私があのまま残ってたら。もう、私は居なかった。


黒龍様は恨んでる。

だから、会ってくれないし、私を狙った。

それはつまり、フユも。

私は、親友だと信じた。

でも、ふふ。笑っちゃう。私って単純。


グスッ。

私、何を信じたら良いの?

私は黒龍。奪った。

裏切られたんじゃない。私が裏切ったんだ。


最初は黒龍の力を、私の中で育ててたんだと思う。アイちゃんと同居して。

でも、私に定着したんだよね。多分。

それで、返す方向に誘導されてた。

だけど、私は多分。抗ったんだ。

結果、返さなかったから生きてる。

もし、返してたら死んでたのだろうね。


私は叛逆者。


それで、最後に死なば諸共。

私は偶々生き残った。奪った力で、完全に奪った。


あれ?それってつまり。

逢いに来てくれる訳ない。何を期待したの。

アイちゃんを殺したのは私だよ。

私が、私の所為。

愛だなんて嘘だもの。洗脳。されかけてた。

それに気付いて、あんな事になって。私は助かった。


でも、気付かなければ良かった。

気付く事なく終われてたのなら、こんなに悩む事も無かった。

ああ、もう。進むしか無い。

竜聖国にはお父さんも、フユも居る。

偽物の龍が、ましてや二体相手。

勝てる筈が無い。



私は諦め思考を止めた。

考えれば苦しく、胸が締め付けられる様。

無理だと理解していても、いや、無理だからこそ、帰りたい気持ちが強くなる。

お世話になった人も沢山いる。偽物だったかもしれないけど。

そして、ひょっとしたら、私の勘違いで終わるかもしれない。

そんな、淡い期待を持ってしまう。二度と戻れぬ故郷なのに。



私は気付いたら泣いていた。

泣いているけど、誰にも見えない。誰も見ていない。

その事実が、どうしようもなくつらい。

自分で選んだ筈なのに、悲しくて寂しい。


私は唇を噛んだ。

悲しい気持ちを物理的な痛みに置き換えて、耐えようとした。

当然そんな事では駄目だった。

涙が溢れ、止められない。

仮面があるから拭えない。かと言って、仮面を外して泣いているのを見られたくない。


ミュエラは、独り言を喋る。


「竜聖国。なんとかして、黒龍様と謁見したいのですが。しかし、会えないと聞き、どうした物でしょうか」


ミュエラは考え事をしてた。

ワガママな私は、気付いて欲しかった。

でも、私は、言えなかったんだ。

意気地無しだから。

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