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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百八十八話 心の綱引き

武器を得て、(正確には貸して貰った)私達2人は探索を開始した。

拠点は片付けてしまい、ある程度進んだら、また拠点を設置するらしい。

その行動原理は分かり易く解説して貰った。

私は説明を受けがてら歩いていたのだけど、エルフさんは迷宮の探索が随分と手馴れているみたい。


いくつか教えてもらった内容。

例えば、道標を作るだとか、探索する時の道順を選ぶコツ。

それらの説明全てに意味があり、無駄がない。


中でも驚いたのは、月下草という名の薬草の効果。

単純に怪我した箇所に、月下草と水を揉み込む事で、怪我を治してくれるらしい。

しかも、それだけでは無く、夜になると微かに光を放つらしい。

洞窟内では疲労感が麻痺しがちになる。

だからこそ、簡易的にでも時間を調べる事の出来る物は、重宝するのだ。


そんな幾つもの情報を教えて貰い、無料で提供されるのが凄く申し訳ない気がして来た。

だから、つい訊ねてた。


「あの、なんでそんなに詳しいの?」


そもそも、どうやって情報を得たのか。


「ああ、うん。昔ね、仲間が居たの。その時に色々と教えて貰ったのよ。まだ私が駆け出しの頃だったから、今でもよく覚えてるわ」

「そ、そんなに重要なのに、僕なんかに」


私は自分を卑下していた。

その言葉が良くなかった。

一瞬空気が固まり、エルフさんが溜息を吐いた。


「はあ、なにが?【僕なんかに】なのよ」

「あ、いや」


慌てて訂正しようとした。

明らかに怒りの感情が見えたから。

ただ、すぐにその感情は消えたけど。

私が謝るよりも早く、エルフさんが話し始めた。


「まあ正直、なんとなくだったのよ?」

「うん」

「でも、勘違いしないで。【この子で良いや】では無くて、【この子が良いかも】だから。あまり自分を馬鹿にしない方がいいわ」

「励ましてくれるの?」

「‥‥‥アンタが避けられてるのも理解してたわ。まあ、似た者同士なのね。私もあの人達に拾われなかったら、冒険者はやってなかったもの」

「さっき言ってた仲間?」

「そうよ。だから、私も同じ事をしたの。それとも文句でもあるの?」

「ううん」


首を振る。

私が腫れ物扱いをされているのに気付いた上で、話しかけてくれた。

優しい人。エルフさん。

仕事を誘ってくれたのは、本当に親切心だった。


「だから、頑張るのよ。いつか、良い事があるから」


むすっとして不器用な感情表現。

ああ、うん。似た者同士。

気恥ずかしいだろうに、そんな無理をしなくても良いのにね。

ふふ。格好良いなあ。憧れちゃうよ。

こうやって、自信満々で人助けをする。

私。こんな人になりたかったんだ。


「ありが、と、う」

「もう。アンタは泣き虫ね。男の子なら強くなりなさいよね」


キツめの喝。

でも、全然つらくないよ。

気付いてたら泣いてた。

涙が止まらないんだ。

怖い人だなって思ったよ。

なのに、ずるいや。

頭撫でないでよ。

本当に涙が止まらなくなっちゃうよ。


「私は応援してるし、いくらでも手伝ってあげるわ。だから、諦めずに頑張るのよ」

「うん」

「ふふ。良い子ね。あんなどうしようもない連中に合わせること無いのよ。きっと、素晴らしい仲間が出来るわ。貴方なら」

「うん。えへへ」

「何よ。急に笑って」


だってさ?笑っちゃうよ。

目の前に居るんだよ?素晴らしい仲間が。

私は相応しくないのかもしれない。

けれど、絶対に仲間になりたいんだ。

相手の名前も知らない。素顔も見せられない。

そんな私だけど、選んでもらえる様に頑張るよ。

今、私の決めた目標だ。


「強くなりたい。誰にも負けないくらい」

「あら?良いわね。まあ、そうでないと私の友達としては認められませんもの」


ふふ。やる気が出てきた。

私はエルフさんの為に頑張るんだ。

どうしようもないくらい寂しかった。そんな時に救ってくれた。

私は孤独に耐えられもしないのに家出した。もう帰れない。帰る場所が無い。

でも、良いんだ。前を向くしか無いなら、進むだけなのだから。


「改めてよろしくね。エルフさん」

「ええ。って、名前。言ってなかったかしら?」

「うん。聞きそびれてて」

「あ、えっと。そうなのね。ごめんなさい」


あれ?

なんでか謝られた。

いや、寧ろ聞かなかったのが悪い気もする。

とは思うけど、え?何々?小さくてよく聞こえないよ。


「私は名前を聞くだけ聞いて名乗ってなかったの??うわぁ、やらかしてるわね」


うーん。なんか難しい顔してる。

名前。聞いても良いのかな?

今更失礼だよね。


「名前。教えておくわ。ミュエラよ。宜しくね」

「ミュエラさん。綺麗な名前だね」

「むぐっ。アンタはもう。本当に」

「あ!ごめんなさい」


謝った。怒った気がした。表情が。

でも本当は、単なる照れ隠し。

慌てると声が大きくなるんだ。ミュエラさんは。

今はまだ知らなかったんだけどね。


「な、なんで謝るのよ!」

「え?だって、怒ってる?よね?」

「は、はあ!?怒ってないわよ!!」

「え、でも」

「怒ってないのに。はあ。それより、呼び捨てで良いわ。私もルビーって、呼んでるから」


私はとても、ミュエラさんを呼び捨て出来ない。

だから、


「ミュエラ、さん?」


ビクビクしながらそう呼んだ。


「な!に!?」


今度は怒った。怒られた。

仕方なく、私は折れた。

けど、嬉しかったのは間違い無いんだ。


「みゅ、ミュエラ」

「ええそうよ。ふふ。ルビー」


お互いに呼び合った。

確かに。その時。

私達は通じ合った気がしたんだ。

傍若無人なエルフ。


その名も「ミュエラ」。

曲がったことが嫌いな正義お嬢様。

たまに、言葉遣いが悪くなります。


「ミュエラ」はフルネームではないですが考えてはいるんです。

ですけど、こう、中々フルで言う機会が無いですね。

勿体ない。

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