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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百八十五話 金の風人

私は連日任務を果たし、久しぶりの休暇にギルドでのんびりしていた。

朝から入り浸り、仕事をする気も無いのに、ミルクを飲みながらぐうたらしていた。

これだとまるで、昼間からお酒を飲むだらしない人と変わらない。

まあ、ミルクなんだけど。


でもまあ、一応私は毎日働いていて、今日は1週間ぶりの休暇にした。

幸い、厄介な人は迷宮に行ったのか、今日は見かけない。

多分、このまま数日は見ないだろう。

1つの任務に何泊もする事は、よくある事らしいから。

寧ろ私の方が変で、依頼を受注しては昼頃には報告を済ませている。

こんなに早く終わるのは中々無い事らしく、よく驚かれるのだ。

つまり、何が言いたいかというと。


「当面は平穏に過ごせそう」


そう言いながら、コップは三杯目に移ろうかといった時。

目の前に金髪の小さい子が座った。


「失礼するわね!」


ドカッと座って、気の強そうな声。

久しぶりに相席になった気がする。

大体の人が、厄介な人との厄介事を避けるために、そもそも私のテーブルには座らなかったから。


むむ。半分は私を避けてたのかも知らないけどさ。


それにしても不思議な感じ。

なんと言うか「あ、僕と相席は嫌じゃないんだ」なんて考えた。

ちょっと嬉しかったのは内緒。


だってさあ。避けられてたんだもん。

は!?孤独じゃないもん!

た、偶々だし。

うぅ。わかってるよ。

自棄酒ならぬ、自棄ミルクしてたのは本当だし。


しかし、うん。小さいね。

私よりは少し大きいかも?

この人は多分年下だけど、背比べ対決は未だ全戦全敗。

いつか、年上の人に勝ちたいな。無理?

うるさい。

年下には偶に勝つけどさ?卑怯だもんね。


ふむふむ。この人かなり美形だね。将来有望ってやつか。

耳もピンと尖ってて。

ん!?尖って?

珍しいね。こんな耳の人は初めて見たかも。どこの人なんだろ?

気になるなあ。


「何よ?ジロジロ見て」

「あ、ごめんなさい」


咄嗟に謝った。

うぅ、視線が怖いよ。

その、見つめたのが悪いのはわかってるけど。

怒ったかな?


「フン!それよりアンタ。聞きたいことがあるんだけど」

「えっと、なに?」

「迷宮について何か知ってたら教えなさい」


凄い命令口調。

答えても良いけど、そもそも何も知らないんだよね。

うう。お詫びのつもりで話してあげたかったんだけどね。


「わからないよ」

「‥‥‥そう。聞き方が悪かったかしら?」


途中から声音が細くなった。

ブツブツと何か言ってるけど聞こえない。

子供がどうの?

飲み物はミルク?


「アンタ名前は?」

「僕?」

「アンタ以外誰が居るのよ?」

「うん。ルビー」

「えと、ルビー君?」

「そうだね」


なんか固まった。


「そう。アンタ。それはミルク?」

「うん」

「何か気が合いそうね」

「そ、そうかな?」


なんだろう。シンパシー?

私は全くそうは思わないんだけど。

凄い理不尽な事考えてそう。嫌な予感。


「アンタちょっと手伝いなさい」

「えぇ、急過ぎ。嫌な予感がするんだけど」

「ふふん!光栄に思いなさい!私の小間使いとして、アンタを雇ってあげるわ。どうせ仕事が無くて困ってたんでしょ!」


うぐ。働いてないせいで絡まれた。

何?今日は厄日なのかな?

耳ピンさんは、厄介さん2号なの?

嫌だ。百歩譲って、小間使いは良いとしても、嫌な予感が増していってる。

仕事に困っては無いし、こういう時の予感は当たるんだよね。


「幸いCランクなら行けるみたいだし、ね?さあ、行くわよルビー!」

「一応、聞くけど、どこに?」

「勿論迷宮よ!その為にこの町に来たんだから!」


ほらあ。もう!行かない様にしてたのに。

うえぇ、行く気満々だよこの人。

断ったら無理にでも連れて行かれそう。

なんだろ、ラーナちゃんに似てる気がする。金髪だし。

ああ、駄目、なんだよね。どうせ。


「はぁ」

「何よ、アンタ!喜びなさいよ」

「嫌な予感しかしないもん」

「ふうん?奇遇ね。良い予感しかしないわ」

「はぁ」

「ほら、折角の仕事よ?」

「別にいらない」

「それなら何が欲しいのよ!」

「欲しいもの?」


はて、欲しいもの。

改めて考えると何が欲しいんだろう?

お金?かな。違うかな。

えっと、うーん?


「ともだち?」


私は小さく溢した。

誰にも聞こえて無い筈だと思った。


「ふぇ?」

「あ、えっと」


金髪の女の子は目を丸くした後、優しく笑った。

その笑顔は綺麗だった。


「ぷふ。あは。そう?良いわね。契約成立で」

「えっ!?いや、行くとは一言も」


逃げようとした。

しかし、回り込まれてしまった。

笑いながら右手を出す、耳ピンさん。


「ん」


手を求められた。

あぁ、駄目だ。断れない。私って弱過ぎ。

卑怯だ。けど、えへへ。

ともだちか。嬉しいかも。


「うん」


握手した。しちゃった。

多分、私の顔は真っ赤だったんだろうな。

誰にも見えてないんだけどね。


「さあ、色々と物資を買い込んだら、すぐにでも行きましょう」

「せっかちだね」

「エルフはスピードが生命だからね!」

「エルフ?」

「あら?知らなかったの?」

「一応知ってたけど、見た事なかった」

「ああ、それで見つめてたの?」

「ごめん」

「良いのよ!私も大人気なかったわね」

「おと、な??」


無意識だった。だって、エルフさんは見た目、私と同じくらいだったんだもの。

どう見ても子供だよ。私は悪くない。

けど、失礼ではあった。

だから、エルフさんの声が響いた。

これから日常になる、エルフさんの怒鳴り声。


「失礼ね!?」



私は平謝りするんだけどね。怒ってはいないんだよ。

すぐに許してくれたからね。

優しい人なんだ。この人は。

エルフ。森人などと呼ばれますが、この人は森の中に居ないので、風人と呼びます。


まあ、固有名詞なんてなんでも良いのです。

どうせ、名前を使うのですから。


名乗りませんでしたけどね。

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