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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百七十八話 悲哀

陽は西へ傾き、屋台に並んでいた行列はある程度落ち着いた頃。未だ少女は食べ続けていた。


ひっきりなしに食べ物を捧げられ、終いには多様な種類を恵まれていた。

与えたら何でも食べ、美味しい物ほど笑顔になる。

逆に、苦い物や辛い物は、渋い顔をしながらも文句を言わず、平らげてしまった。

勿論。喜んだ顔の方が見たい者が多く、段々と寄付はグレードアップして行ったのだが。

中には変わった者も居て、敢えて苦い物を持って来たりする事もあった。


さて、そんな少女が山の様に積まれた食べ物を、無心で食べ続けていると、屋台のおじさんが話し掛ける。


「おう。今日はお疲れ様。っても、まだまだか?」

「ほえ?」


話し掛けられて、漸く少女は意識を取り戻した。

無意識とは言え、勿論記憶はあるのだが。

そして、理解した。


「こ、これは。違うんです」


何が違うのやら。

簡潔に言えば物乞い。

優しい目で解釈すれば、屋台の広報担当?

実際には少女のお陰で、屋台は儲かったのだが頼まれた訳では無いので、それは違う。

結果だけであれば、一食分以上の働きにはなった。


「まさか、こんなに客が来るとは。嬢ちゃん、ありがとな」

「いえ。お店の前でこんな大騒ぎにしてしまって」

「いや!それのお陰で儲かったんだから、恩を返したいのだが、流石に食い物は要らんわな?」

「あ、えっと。はい」


確かにかなりの量が残っており、食べ切れない訳では無いが、数日、いや下手したら10日以上。

逆に少女は、自分の限界の無さに気付き、疑問を感じた。



私。ずっと食べ続けてた。

それなのに、まだ食べられる。

おかしい。いくら何でも有り得ない。

空腹感は無いけど、満腹感も無い。

だからこそ、いくらでも食べられる気がする。

食べた量は、私の体重の3倍は超えてる。

どこに消えたの?食べ物。



あまりの異常に、少女は若干現実から、思考が離れてしまった。

とは言え



まだ食べられるのは事実。



そう考えて、手を動かして食べ物を掴む。


「お、おう。まだ食うのか」


おじさんも引き気味。

だが、表情の変化は見ていて飽きないので、それを眺めながら片付けを開始する。



少女が食べ終わった頃に屋台の片付けが終わり、その間に思いついたのか、おじさんは、少女に質問をする。


「ところで、住む所はあるのか?」

「それが、」

「旅人か」

「うん。一応」

「そうか。良かったら宿代くらいは出そうか?」

「え!?あ、でも」


ここに来て、少女は遠慮した。

しかし、分かり易く反応したので、おじさんはお金の入った小袋を差し出す。

屋台のおじさんは、偶然少女の境遇を察したが、元よりお金は渡そうと思っていた。

格好からして、他の町の人間であり、食べ物に困っていたであろう事から、予想が的中した。


「君のお陰だからな。受け取ってくれないと困る」

「あう」



確かにお金が欲しい。

でも、ものすごく申し訳ない。



そんな事は今更。

しかし、少女は好意を受け取るのには、2、3回は断らないと、手を出さない。

意識が無くなればドロドロの激甘だが、理性が働いている時は、変に律儀。

ただ、強引に渡されるのは弱い。



「‥‥‥ありがと」



たったそれだけのお礼。


「おう。良いってことよ」


おじさんは笑って感謝を受け取る。

受け取ったのはそれだけでは無いが、可能な限りお代を支払ったので、おじさんも甘い事は間違いない。


少女は会釈をして、涙を隠す為に仮面を着け直してから、その場を立ち去る。



人の暖かさに触れ、淡い陽光を眺め、今日の宿を探す。

少女自身、貰ったお金が多い事も理解していた。

しかし、断る事は逆に失礼で、金額についてとやかく言うのも同様。

故に、感謝を抱き、別れる。


そして、見つけたのはありきたりな宿。

多様な人々が入り乱れ、酒場も兼ねている所。

真っ直ぐに受付に向かう。


「いらっしゃい?」

「一晩泊まりたいのですが」

「あいよ。身分証はある?」

「はい」


そう言って、取り出す冒険者の証明書。

身分を保証し、犯罪歴等も記入されるそれは、この世界においてはかなりの信頼に関わる。


「おお。ボウヤは凄い子だね」

「そうですか?」

「ああ。その年齢でこのランクならね。はい、返すよ」

「どうも」

「さて、お子様だから、食事付きで鉄貨10枚で良いよ」

「では、はい」


言われたお金を差し出し、部屋番号の書かれた鍵を受け取る。


「延長の希望があれば言っておくれ。食事は今日の晩と、明日の朝だからね。それ以外で食べたいなら追加料金だよ」

「わかりました」


返事と共に頷いて、借りた部屋へと向かう。

広さは四畳程で少し狭いが、借りた部屋なので文句は無い。

ごく少量の荷物を適当に置いてから、ベッドに腰を掛けて呟く。


「はあ。取り敢えず少しの間はここに居ようかな?それから、仕事探さないとね」


少女は言葉にして改めて理解した。



お金、大事だね。

本当に運が良かった。いや、優しい人が居て良かった。

これで当面は何とかなるけど、生きていくのって大変。

考えが甘かったのかな。



自分の計画性の無さに呆れ、もう既に後悔し始めている。



王様のお陰で食べるのには困らなかった。

それが嫌で家出をした。

まあ、本当は怒られたくなかったから。

でも、これってワガママなんだよね。

家を出て初めて分かったよ。数日しか経ってないけど。

あぁ、心配してるかな?

見つかったら怒られちゃうから、はあ。


寂しい。

今日も独り。


自分で選んだ癖にね。



あきらめる様な少女の瞳。

瞳を閉じて少女は眠る。硬く冷たいベッドで。独り虚しく。

家族と喧嘩して家出をすると、その後すぐに後悔しますよね。

そんな経験は、まあ、はい。それは置いときますね。

現代日本においては、最悪警察の方が捜してくれますが、この世界ではそうとは限りません。


しかし、1人だけ少女を見つける術を持つ者がいますが‥‥‥早く来ると良いですね。


この章では長旅にする予定です。

さて、1人か、はたまた同行者は現れるのか。

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