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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
八章 決別
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百七十七話 ノラ龍

真夜中。

少女は誰にも気付かれる事無く暗闇を走り抜ける。

警備の騎士達をすり抜け、竜聖国の首都を出てから数刻。


未だ足は止まらず、速度を維持して走り続けた。

後を追う者の気配は無く、早くても明日の朝からだろう。

辺りは平地で、方角も分からないが、一直線に街から遠ざかる。

風は少しずつ頭の熱気を取り払い、冷静さを取り戻しながらペースを落として、歩きへと移行する。


「ふう。結構走ったかな」


言葉通り走り続け、凡そ、人間の限界速度を超えて数刻。

距離にして十数キロメートル。

少し前から景色が変わり、平原から草原へ。

平らな場所なのは違い無いが、土が草に隠れていて、通行は無さそうな場所。


「心配されるかな?」


不安そうに呟く少女。

興奮は冷め、ただ淡々と足を進める。


「いや。期待しちゃダメ」


身勝手だが、ほんの少しだけ心配されたいと願っている。

怒られる事も怖いが、それ以上に必要とされたい気持ちもある。

だからこそ、探しに来て欲しいような、見つけて欲しく無いと言ったワガママな感情。


心配されたいが、心配されたくない。


矛盾しているが、少女自身はその事に気付いていない。

本心は単なるワガママなだけ。


「うん。立派になってみせる!」


具体的な考えが有る訳ではない。

しかし、なんとなくのふわっとしたイメージで家を出て、今この草原に居る。

その証拠に、殆ど荷物は持たず、普通の人ならば半月もあれば死に絶えるだろう。

それ程何も準備をしていない。

早く見つけられなければ、即座に破綻するのは間違い無い。

ただの人間だったらと言う前提の話だが。


とは言え、少女は普通では無い。

飲食を不要とし、病気にもならないとあってはどうとでもなってしまう。

この様な先行きが不安であっても、一応問題は無い。

その事を少女は理解していないが、無鉄砲で飛び出したので、深く考えていないのはあるが。


「何をしようかな?取り敢えず街かな?」


行き当たりばったりで歩を進めた。




そして、どこかの町へと辿り着いたのは3日目の事。

幸いなのか、少女を探す者はいなかった。


さて、その町は竜聖国と比べれば小さく、外壁とかは無い。

言うなれば、村が少しだけ大きくなっただけの町だった。

町に入るに当たっての検問とかは無く、警備の人に挨拶をすれば、そのまま入れてしまう。

一応身分証が必要だったが、外套の内ポケットの中にあったので、それを見せれば難無く通してもらえた。


「はい。問題無し」

「ありがとうございます。頑張ってくださいね」

「おお。小さいのに良い子だ」


警備の兵士は、少女(兵士側から見れば男の子)に感動して、歓迎されながら町へと入る。



無意識に挨拶をしたら褒められてしまった。

それより気になったんだけど、この身分証の名前違う。ルビーって人のだね。

適当に探したらあったから使ったけど、良いのかな?

は!わ、私は悪い子。気にしない。うん。


あと、性別。抜けてるし。

身分証ってこんな適当で良いの?うーん?

あとはランクかな。Cランク。強いのかわかんないや。

それともう一つ。重大な事。仮面着けてても通れるんだ。

なんて言うか、かなり不審なんだけどね。

いや、うん。顔が隠せるのは有難い。うん。



少女は無理矢理納得してから、適当に町をぶらつく。

すると、ふんわりと美味しそうな匂いが、何処からか流れて来て、お腹が空いてしまった。


「くんくん。あ、良い香り。お腹空いたな」


しかし、お金は持って来ていない。文無し。

その事はよく理解していたので、我慢をしていたが、何故かその匂いのする屋台の前に到着した。


「お?どうした?買うのか?」


屋台のおじさんが少女に尋ねる。

勿論お金がないので、首を振る。

振ってから、すぐに首が下がり、哀愁が漂う。

そんな様子を見たおじさんは、どうにも耐えられなくて、商品の串焼きを差し出す。


「ほら。無料にしてやるから」

「い、いえ」


断りながらも、目は輝く。

向こうからは見えないが。

すると、おじさんは串焼きを左右に動かし、それに釣られて首を振る少女。

食欲に抗えない少女の、なんとも可笑しな光景。


「ほら、遠慮するな」

「でも」

「丁度これはサンプルにするつもりだったが、どうせなら誰かに食べて貰いたくてな」


嘘である。

店を開けてから数刻。

もう既に何人かに売っている。

少女は理解した。正確には我慢が出来なかった。


「で、では」

「おう」


串を受け取りながら仮面を外すと


「お?っと。女の子だったか」

「はい」

「目立つな」

「はい」

「っと、すまん。気にせず食ってくれ」

「うん」


少女はその小さな口で串焼きを食べる。

それは焼き鳥のような物で、所謂ネギマ。

美味しくない筈も無く。


「美味しい」

「そうか!良かった」


数日間もの間、少女は飲まず食わずだったのもあり、とても美味しそうに食べる。

一口入れる毎に笑顔が咲き、綺麗な少女の笑顔に釣られて、興味を持つ周囲の人達。


ふと、屋台のおじさんが、追加の串を少女に差し出すと、それを笑顔で食べ始める少女。

串を引くと、ジッと眺めてくる少女。

串を差し出すと、喜んで食べる少女。


今。完全に少女への餌付け体験が始まってしまった。

他の客がこぞって列に並び、小動物に餌を与えている。

美味しい物を食べている少女は魂が抜け落ちてしまい、このまま誘拐出来る位には無防備。


あれよあれよと恵まれ、まるで一大イベント。

少女の胃袋に際限の二文字は無く、延々と寄付され続けるのだった。

さて、色々と懐かしい感じに。


動物園とかで、餌やり体験とかした事ありますか?

あれ、良いですよね。

確かライオンでしたかね?面白かったです。


ええ。これがすてまというやつですね。オススメです!

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