百七十五話 騒動の幕開け
少女はお菓子を食べた結果。
落ち着いたのか黙々と、いや、もぐもぐと口を動かし続けていた。
正確には泣くのを辞めて、若干諦めている。
お菓子は美味しく、気持ちが晴れそうになるのだが、悲しい事を思い出してから、また落ち込むと言った感じの行ったり来たり。
ほぼ自棄食しながら、人が来るのを待っていた。
するとそこに、巫女が王妃様を連れて戻って来た。
少女は手を止め、怒られる事を覚悟して待ち構える。
しかし、王妃様から出て来た言葉は、叱りの言葉では無かった。
「此度の戦について、説明を受けました。さて、イヴ様。ご無事で何よりでございます」
「はい」
「一応お伝えしますが、陛下は怒っていません。なので、落ち込まないで下さい」
どうやら処罰は無いらしい。ひと安心。
でも、何故だろうか?
わからない事だらけで、疑問符が浮かぶ。
リアーナ王妃様は、私の疑問符に気付いてから、説明を開始した。
「まず私共は、あなた様を叱る事はありません。その証拠に、戦争で得た領地に関しては、イヴ様への褒美にするつもりでした」
え?私の領地?なんで?
あ、いや。怒られないのは理解した。意味はわかんないけど。
誰かが代わりに説明してくれたのかな。
「本当は、国の領地を割譲したいのですが、色々とありまして。それならば、戦果をそのまま褒美にしようとして、今回の戦争になりました」
王妃様は、聞いて良いのかわからない説明を開始する。
説明を受けている筈なのに、余計にわからない事が増えてしまった。
「他には、そうですね。フユ様についてですが、あなた様の部下として、正式に姉と認めます。礼状は作成しておきますので、改めて宜しくとの事です」
他人から聞いたみたいな説明。
少女は思わず訊ねる。
「え?それは、誰からですか?」
「黒龍様です」
即答。
王妃様は答えた。
そして、謎が解けて少女は理解した。
あ、成る程。説明してくれたのも多分。
じゃあ、庇ってくれたのもそうなのかな。
叱られないのもそう言う事?義娘だから。
なんだろうか。有難いけど、結局私は失敗しかしてないよね。
なんでだろう?悔しい。
そうだよ。いつまでもおんぶに抱っこ。
失敗しては助けて貰っての繰り返し。
黒龍様が味方なのは嬉しい。いわば国全体が助けてくれている様なものだもん。
でも、結局それは私の力では無い。
私って何。私の力って?
公爵?取ってつけただけの位。
竜巫女補佐?私が居なくても変わらない。
毎日頑張ってます?結果が出せて無いだけの言い訳。
戦争では叱られ、殆ど、いや全く何もしていない。
私は役立たずもいいとこ。私には何も無い。
勘違いなのかな。
フユは親友だと思ってた。
本当は、黒龍様から命令されて手伝ってくれただけ。
命令だから、仕方無く。
そうだよ。とんだ勘違いだった。私の大馬鹿。
少女は唇を噛み締め、ただ淡々と言葉を聞いていく。
下を向いて、瞳は涙で滲み、口元からは血が流れる。
反論は出来ない。反論しようがない。
言葉を聞き入れるしか無い。
普通の者ならば感謝をするのだろうが、少女は己の不甲斐無さに、ただ憤るしか出来ない。
昔と比べ、感情の変化は分かり易くなった。それでも相変わらず難しいのと、下を向いているのも相まって、誰も気付かない。
私は1人だと何も出来ない役立たず。
このままだと駄目だ。
優しいみんなが庇ってくれるけど、今のままだと私は何も出来ないまま。
国を出よう。
みんなには悪いけど、私なんて居なくたって変わらない。
強くなって。頼られる。そんな私になる。
そうだ。自分自身を見直す為の旅。
1人で行こう。
また、頼っちゃうから。
少女は掠れ掠れに返事をする。
「ありがとうございます」
声に出せば泣いているのは明白。
背中も震えている。
しかし、少女の感情とは全くの正反対に認識された。
それ故に、誰も気付かないまま。
少女は顔を上げずに屋敷へと向かう。
この行動が無礼であっても叱られない。
その事は、半ば仕方のない事。
この世界で、最も少女を理解しているのは乙女。
しかし、乙女は龍へと変化した事で、ある力を手に入れた結果、少女の感情を理解する能力は低下した。
乙女の強大な能力には些細な代償だが、それは何にも代え難い物だったかもしれない。
それは、ほんの片時を誤魔化すのには充分な変化。
早速、少女は準備を開始する。
必要な物を適当に集め、いわゆる家出の準備。
メイド長には嘘を吐き、日課の訓練をキャンセル。
乙女と会ったが、適当にあしらう。
この時点では乙女には気付かれない。
適当に扱われるのもいつものこと故。
少し意外な事に、メイド見習いには気付かれかけたが、ゴリ押しで押し切った。
そして、夜。
少女が寝る時刻。
寝床を整え、寝たふりをする。
いつも見回りがあるので、それを乗り切ったら、家を出る予定。
少し暇な時間。ぼんやりと考え事をする。
危ない。もう少しでバレるとこだった。
まあ、そりゃそうだよね。出掛ける用意してたらね。
それも1日だけの事。
夜みんなが寝静まってから出るから、もう大丈夫。
はあ。みんな心配するかな?
いや、そんなの気にしてちゃ駄目。
でも、怒られるよね?今度こそ。
‥‥‥辞めようかな。怖いし。
寂しいな。
そして、メイド長が部屋に入って来て、頬をツンツンとしてから、出て行った。
多分、起きてるかの確認かな。
さて。もう良いかな。もう来ない筈。
行こう。何かを探しに。私を見つけに。
少女は飛び出す。
窓から、逃げ出す様に。暗い夜の中を走る。
ただ1人で。
さて、もう一話。
少女以外の視点を書いてから、次の章です。
人の心を読めたら凄く便利ですよね。
読者様はどう思いますかね?
便利だと思う方も居れば、汚い部分も見えて嫌だと思う方も居るのでは?
ふふふ。
この世界でのその力は、所謂チートと呼ばれる物です。
読みたい感情を選べるという代物ですが、少女を見透すのは不可能です。
理由は2つありますが、説明が面倒なので適当に濁しておきますけどね。