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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百七十四話 知る者

金の巫女は最も敬愛する少女を置いて、ある人の元へと向かう。

その人とは、最も事情を知っているであろう人。

つまりは巫女の母君。


「お母様!」


声が早いか、扉が開けるのが早いか。

母を呼びながら部屋へと入る。

それは、かなり無礼な立ち振る舞いだが、今回の相談事ならば許してくれるであろうと予測しつつ、母が娘に甘い事を、よく知っているが故の行動である。


「あら?ラーナちゃん?慌ててどうしたのかしら?」


いつもと変わらぬ雰囲気で出迎える母。

巫女は、走って荒くなった呼吸を整えながら、頭の中を整理する。



お母様はこんな事を言っているが、ほとんどの場合、私の考えはお見通しです。

大体いつも惚ける。言葉が悪いですが。

つまり、理解した上で質問してくるのだ。

情報が足りていない箇所は、聞き直してくる。いや、質問してくれる。


昔はよく疑問に思った。

わかっているならば、質問の意味なんて無いですから。なんて考えてた。


今は違いますけど。

えっと、多分ですけど、私に説明力を身につけさせる為だと思ってます。


なんと言うか、私はまだまだ未熟なんです。

いつか、私も大人になるでしょうが、お母様を超える事は無理でしょうね。

それ程、遠い存在だと思うんですよ。

そんなお母様が、敢えて聞いてるんですよ。多分。

深い意味まではわかりません。

ですが、お母様はかつて、智謀において黒龍様に褒められたほど。


私では足元にも及びませんね。


いや、諦めたくない。

魔法だって使える様になったんです。

不可能なんて有りません。

いつの日か。王様になった時に、せめて笑われない程度にはならないといけないんです。


いつもいつも、お父様とお母様だけで物事を決めています。

知ってます。私が未熟だからです。内密に、私に知られまいとしています。


聞かされていた話では、イヴ様に恩賞を与える為と言っていました。

たったそれだけしか知らないのです。私は。

イヴ様の考えは判りません。撤退した理由も、白龍様の事も。

何もかも知らない事。

本当は、どういうつもりだったのでしょうか?

聞かずにはいられません。



「お母様。お聞きしたい事がございます」

「何、かしらね?」



お母様は平静を装っていますが、少しだけ目元が動きました。

多分、察したのでしょうね。

やはり、私が知ってはいけなかったんでしょうか?


いや、違いますね。

イヴ様は泣いていたのです。

例えどんな理由があろうとも、イヴ様の為に情報を聞き出し、可能な限り庇うのです。

最悪。お母様に逆らってでも。



「此度の戦から、イヴ様がお戻り頂いています。その事で、詳しくお聞きしたいのです」

「そう。会ったの?」

「はい」

「はあ。なら話が早いですね」

「お答え頂けるのですね?」

「ええ」



お母様にしては随分と早く折れた気がします。

それにいつもは、のほほんとしているのに、今回はかなり疲れているのでしょうか?


巫女は、不思議な状況の考察をしていると、もっと不思議な状況に変化する。

それは、母君からの言葉によって。


「ラーナちゃあん。どうしましょう??」

「えぇ!?」


まるで泣きつくかの様な姿。

今までそんな姿は見た事がない。

ここまで弱っているお母様は、初めてかもしれない。

お母様のあまりの急変に、続く言葉が絞り出せない。


「フユ様を怒らせてしまいました」

「えっと?白龍様ですよね?」

「そうなのよー。辛うじて見逃してくれましたが、非常に不味い状況なのですよ」

「はあ」

「ラーナちゃん!?聞いてますか!」



何故かお母様の愚痴が始まった。

理不尽に怒られましたし。

いえ、話を聞きたかったんですよ?それは間違えていません。

しかし、そうでは無くて、イヴ様のお話が聞きたいんですが。

あ、でも。フユ様との関係を知る事で、謎が解けるかも?

まあ、黙って聞きましょうか。



「それで、フユ様は多分心が読めるのです」

「え!?」



確かに黒龍様の眷属ならば、人並み外れた力が有ってもおかしくない。

なのですが、イヴ様にはその様な力は無い。筈。

あれ?本当にそうでしょうか?

‥‥‥何にせよ、読心に近い、もしくはそれを超える能力はあると思います。

元々黒龍様は、建国以来から200年は生きているのですから。



「考えを読めるならと思って、違う事を考えたのですが、意味が無くて」

「ええ?何をされてるのですか。それのせいで余計に疑われると思いますが」

「そうですね。ラーナちゃんの言う通りです」

「しかし、それが確かならば、随分と恐ろしい方ですね」

「ええ。正直、初めて怖い人と思える者に出逢いました」

「へえ?誰の話?」

「ひう!?」



唐突に1人の声が混じる。

噂をすれば影がなんとやら。

乱入者の声を聞き、トラウマになってしまったのか、母君は悲鳴をあげる。


声の方向を振り向くが姿は見えず、その場所は何かが揺らめいて見える。

そして、姿がゆっくりと見え始めれば、圧倒的な存在感を放つ。


巫女は乙女を初めて見て、無意識に感想を抱いていた。

綺麗だなあと。


「ふふ。どうも。君も可愛いと思うよ?」

「はい。ありがとうございます」


一応返事をしつつ、巫女は観察する。


ただ純粋な白色。

白銀の中に浮かぶ2つの青い瞳。

巫女は理解した。成る程。白龍だ。

そして、聞いていた通りに、思考は筒抜け。

どこまで聞かれ、いや、読まれたのかはわからない。

でも、その境界には大した意味は無い。

だって。



「あはは。うん。頭良いんだ?羨ましいな」

「いえ。私なんて、とても」


やはり。

多分、全部見られてる。

でも、なんでだろう?お母様が言う程、怖い人だとは思わないかも。


「えっとー。うん。リアーナ王妃様?」

「は、はぃ」

「ごめんね。勘違いしてる。私もあなたも」

「な、何がですか?」

「うん。イヴの為にやってたのなら良いや。だからさ?今まで通りで良いよ。その代わりに私とイヴに、正式な姉妹の手続きをしてくれない?」

「お、脅しですか?」

「だから違うってば。交換条件だよ。協力するから、協力して?」



珍しく狼狽えるお母様。

拒否する権利なんて無いです。

多分。お母様よりも全てを知った方なのです。

どうなんでしょうか。イヴ様。

これで、良いのでしょうか?



巫女は悩む。国の未来を案じて。

知識は武器であり、身を守る盾でもあります。

かつて、それを武器にしていた者が居ました。

その者は、その力を封印し、別の者に分け与えました。


それの形は違いますが、龍とは知の象徴という設定です。


また、人を超えた者に現れる導きの力は、素質を大きく強化する物で、理から外れた存在へと至る可能性があります。

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