百七十三話 少女の本質
食事を終えて眠り、次の日の朝。
早速メイドに起こして貰って、着替えをお願いしながら、今日の予定を空想する。
取り敢えずアポを取ってから、可能なら王様と面会をする。
戦争の報告や、フユの処遇について相談したい。
後は、今後の仕事についても気になる。
竜巫女補佐も今日から復帰しよう。
まずは、朝の竜巫女の仕事から。
専用の服に着替えさせられ、朝食を摂る。
未だフユは起きて来ていないみたいで、オルトワさんに視線を送ると、察したのか答えが返って来た。
「寝惚けていらっしゃったので、断念しました。まだ寝たいとの事で」
「そっか。まあ良いか。返って来たら訓練お願いね?」
「はい。承知しました」
少女は一つ頷いて、近くの教会に向かう。
約一月ぶりの巫女様と会うので、少し緊張しているが、その事よりも会える事を楽しみにしている。
そして、目的地に辿り着き、護衛の騎士達に会釈をしてから中に入ると、いつもと変わらぬ美しき金の巫女がそこに居た。
金の巫女は騎士に指示を出しながら、悩み相談の準備をしている。
どうやら向こうを向いていて、こちらには気付いていないらしい。
なので、私は後ろから近付いて、竜巫女様の名前を呼ぶ。
「ラーナちゃん」
「はい?なんでしょわ!?」
ラーナちゃんは後ろへ飛び上がり、あからさまに驚いている。
何故そんなに驚いたのかはわからないけど、嫌悪とかでは無さそう。
なんと言うか、尊敬する人に遭遇して、声をかけられたみたいな感じ。
いつもならすぐ立て直すのに、目が泳いでる。
「あ、あわわ」
「ひ、久しぶり?」
「ほ、本物ですか?」
「私は私だけど、偽物がいるなら会ってみたい。かな?」
「帰還予定は来月の筈ですが」
「うん。色々あって、帰って来た」
「ああ。おと、ゴホン。陛下とお母様がピリピリしていましたが、イヴ様が戻られたからですか」
なんと、ラーナちゃんからとんでもない事実を聞かされてしまった。
どうやら私は、王様達を怒らせたらしい。
これは間違い無く、呼び出されたらお説教だ。
ああ、やっぱり。撤退は良くないんだね。
確かに、私は何もしてない。
進軍しておくべきだったんだ。失敗したなあ。
怒られるんだよね?
少女が昨日、家に帰らされた理由を察してしまった。
すると、自責の念が少女に襲いかかる。
「イヴ様?」
「うう、ごめんなさい」
「イヴ様!?急に泣いてどうしたのですか!?」
気付いたら私は泣いてて、ラーナちゃんに励まされた。
「と、取り敢えず、何があったのか教えて下さいますか?」
「フユと出会った」
「フユ?」
「うん。白龍。黒龍様の眷属の方」
「は、はあ??」
「どうしたら良いのか判らなくって、帰還したの」
「ふむふむ」
「一戦も交える事無く戻ったから、それで多分、怒ってる」
「成る程」
「それで、叱られるのが怖くて」
「困りましたね。どうすれば良いのか、私にも判りません」
「うう。処罰されます。ラーナちゃん、ごめんなさい。私。期待に応えられなくて」
「そ、そんな」
少女は責任という名の重荷に潰されかけ、叱られてしまう未来に対して、恐怖で震えてしまっている。
とてもこの状態では、話を聞くことが出来ない。
それでも、なんとか励まそうとする金の巫女。
巫女はぽつりぽつりと独り言を溢しながら、頭をフル回転させている。
「イヴ様が何の考えも無く撤退するとは思えませんし、お父様がイヴ様を叱る事は有り得ない筈。それよりも白龍?そちらの方が気になりますが」
巫女は脱線しかけた思考を一度止めて、冷静さを取り戻してから発言をする。
「イヴ様!」
「ぐすっ。はい」
「一旦お城に行きましょう!」
「連行ですか?」
「そ、そうではありません。詳しくお聞かせ下さい」
「事情聴取されるんだね」
少女は物事を、悪い方に悪い方にと考えてしまっている。
もう既に、死刑にされると考え始めている。
内容は全然違うが、巫女と少女は互いに、諦めてしまった。
正に。ああ、もう、駄目だ。これ。
なので半ば強引に、巫女は少女を城へと連れて行く。
少女は抵抗する事無く、お城へ。
少女は、お馴染みの応接室へと通された。
私は座らされてから、ラーナちゃんは慌てて飛び出して行った。
それをぼんやりと眺めて、ある事を思いつく。
そう。逃げたらどうだろうか?
このままいたら怒られるから。
でも逃げたら、もっと怒られるよ。
そんな事を考えてしまう。
少女は初めての大役を任され、それを果たす事が出来ず、あろう事か逃げ帰ってしまった。
その結果が、少女には無い胃袋を痛めつける。
うう。お腹痛い。
もう嫌だ。帰りたい。
フユ、助けて。
少女は身近な人に呼び掛けるが、無駄だという事は、少女が1番理解している。
ぐるぐる、ぐるぐると、嫌な気持ちに支配されているその時。
王家のメイドが、お菓子とお茶を持って来た。
しかし少女は、接待されていると感じたのでは無く、最後のおやつだと受け取った様だ。
ぐすん。
甘くて美味しい。
味わって食べないと。
ああ。せめて、フユには罰則がない様にしないと。
大切な親友を守らないといけない。
私の所為で怒られて欲しくない。
うう。どうにか私だけにして貰えるように、交渉頑張ろう。
少女は諦め、別の目標を立てる。
優しさは自己犠牲へと変わり、小さなズレは少しずつ大きくなる。
かつて、乙女から始まった誤解は、形を変えながら少女へと巡る。
廻る運命を遡ることが出来たならば、誤解など生まれない。
優しき者達は、ただ単に、少女の為に尽くしている。
たったそれだけの事なのに。
さてさて、ものすごい勘違いですね。
王様には戦果は説明していないのに、何故か報告した気になっている少女。
中々にネガティブな子どもなんですよ。少女は。
さて、他にも正されてない勘違いは多いですよ?
それが良い時もあれば、逆もありますが。
あ、因みに作者はご都合主義ですからね?
勘違いしない様に!なんて。
今章のタイトルも公開しました。
もうすぐ次の章になりますけどね。