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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百七十二話 刷り込み

少女はお風呂を上がり、食事をしていた。

勿論、乙女も頂いている。


「ありがとう。私の分まで」


一応遠慮している乙女だが、誰よりも食べるのは早い。


「いえ。恐縮です」


躊躇いは見せず、建前を聞き入れるメイド長。

メイド長はこの仕事が長く、表面上には不満は出さない。

しかし、内心では対応に困ったが、もてなしの体裁は保っている。


少女は取り敢えず、今後の乙女の行動が気になって問う。

なんとなくだが、このまま放置していたら嫌な予感がしたからである。


「フユはこれからどうするの?」

「そうだね。ここに住むのは?」


乙女は冗談の様だが、本気で言う。

少女は迷いながらも無碍にはしない。


「え?うーん。王様の許可があるなら」

「あ、それなら。良いって言われた」


乙女の発言に反応するメイド長。


「言われた、ですか?書面などは?」

「あー、要るの?」

「念の為」

「面倒だね」

「どうせフユの事ですから、適当に決めたんでしょう?」

「当たり。流石だね」

「はあ。取り敢えず今日は許可します。明日もしくは、呼び出されてからでも良いでしょう」

「流石イブ!わかってるね」

「皆さん良いですね?」


少女が全員に言い伝えて、各々は納得して頷く。

当然ながら、当主の決定なので反論は無い。

そして、少女はついでに、乙女の立場についても説明する。


「一応ですが、フユは私の部下になりますけれど、黒龍様の眷属です。なので、失礼のない様にお願いしますね」


その事を理解したメイド長は、唯一の部下を見て睨む。

蛇に睨まれた蛙の如く、リスタは怯えて頭を上下に振っている。


そして、乙女は全員を軽く眺めてから自己紹介をする。


「よろしくね。白龍のフユです」

「もし、何かございましたら私か、リスタ共々メイドにご命令を」

「うん。りょーかい。んじゃさ、早速」

「は、はい」


メイド見習いは焦る。

とんでもない方からの命令されるのだ。

とてもじゃないが、恐ろしい。


今まで和やかに仕事が出来ていたのに、白龍が来て、メイド長が随分とピリピリしている。

そして、下された命令とは、


「ごめん。お代わり良い?」


なんとも拍子抜け。

だが、緊張したリスタは変な反応になってしまう。


「そ、そんな!?」

「え?駄目?」

「あ!え?お代わりって、あのお代わりですか?」


訳の分からない事を答えるリスタ。溜め息を吐くメイド長。

不思議な雰囲気になってしまった。

しかし、乙女は真剣なので。


「ん?美味しいから、も少し食べたいんだけど」

「あ、ありがとうございます」


作った料理が褒められて喜ぶリスタ。

そろそろ、叱られる頃合い。

だが、少女がそれを止める。


「リスタさん。追加はありますか?」

「あ、あります!えっとイヴ様も?」

「いえ?フユが欲しそうですから」



気を利かせた少女が、乙女の為に確認をとって、そこから雑談へと広がる。



「いやあ、久しぶりに食べたからさ?美味しいご飯」

「へえ?良いものを食べているものだと、思っていましたが」

「私の方こそだよ。イヴがこんなに良いものを食べてるだなんて思わなかったよ。羨ましい。まさに、ここは天国だね」


乙女の言葉を皮肉だと感じ、少女は謝る。


「ゔっ、すみません」

「あー、違う!違う!そうじゃなくて、幸せそうで良かったよ」

「えっと?ありがとう?で良いのかな」

「うん。よし決定。私ここに住む」

「ええ?許可が貰えたら、ですよ?」

「ふふん!権利は勝ち取るものだ!」

「面倒はやめて下さいね?」

「善処します」


適当に笑う乙女。

しかし、少女は乙女の性格をおおよそ把握した。

なので、釘を刺す。


「もし、言いつけが守れなかったら、私の部下から外しますからね?」

「え!?それは、それだけは」

「私も怒りたくないですから」

「うう。ごめん」


乙女は謝る。

そして、それを眺める人達。

それぞれの思惑は様々。感心やら、敬い。後は恐れなど。


少女は確かに成長した。

それは、静かに少女の中で育っている。

かつて預かった力。その欠片を貰って今がある。

優しさとは正反対でありながら、それは確かに共存する才能。


少女は改めて全員に宣言する。


「フユは当家の客人ですが、互いに遠慮はしない様に。ね?フユ。なんでもするんですよね?」

「うう、わかったけど、お手柔らかに」


少女はこう言ったが、メイド達が失礼に接する事は無いと考えている。

だがそれよりも問題なのは、乙女が自由気ままに過ごして、トラブルにならないかどうかに不安がある。


なんとなく、メイド長と衝突しそう。


だからこそ、何かあったら注意して良いと暗に言っておき、暴走するのを抑止している。

何故かは判らないが、乙女の思考をおよそ理解してしまっている。

そして、その予想は的中している。


確かにこの場にいる者は、少女を大切にするだろう。

それ故の少女を巡って争いが起こる。

しかし、だからこそ釘刺しが必要で、少女としては出来る限り仲良くして貰いたいと思っている。


少女は、部下を観察しながら考え事を始める。



フユも、みんなも、良い人なんだから喧嘩して欲しくない。

でも多分、フユは私を庇って、と言うか過保護になる気がする。

それで、訓練とか、仕事とか、止められるよね。

私も嫌だけどね?

それでもやらないといけない。

偉いからって、ふんぞり返って何もしないのは許されないだろうから。

普段から贅沢な生活なんだから、誰よりも働かないと。


なんでかわかんないけど、フユには負けたくない。

失望されたくない。

絶対に手放したくない。


大切な親友で、私のお姉ちゃんなんだから。

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