百七十話 白龍の力
騎士達は遠征を終えて、ドラゴンリードへと辿り着き、任を解かれる事となる。
その騎士達はと言うと、雑談に興じていた。
「結局一回も戦争にならなかったな」
「フユ様が参加しただけだったな」
「いやー、格好良かったなあ」
「しかも、それが人の姿だとあの美しさだ。惚れてしまう奴も多いだろうな」
「俺、フユ様に一生ついていく」
「馬鹿お前!」
「そ、そうだぞ!黒龍様を裏切るのか!?」
「お前こそ馬鹿だ!男ならフユ様に従うのは当たり前だろうが!?」
「いや、この前お前、イヴ様について行くとか言ってたのに」
「天使ちゃんと、聖女様を一緒には出来ん。俺は一途なんだ!」
「いや、うん。幸せな奴だな」
なんとも残念な会話なのだが、もしここに、軍団長が居たならば、お叱りがあった事だろう。
しかし軍団長含め、乙女や少女は、現在王城に行っている。
少女らは、王の前に跪き、簡易の報告を行なっている。
各貴族への報告もあるが、それはまた後日の議会で行われる。
そして、跪いているのは少女と軍団長のみで、乙女は立って腕を組んでいる。
この場において1番偉いのは王様なので、乙女に戸惑いながらも口を開く。
「さて、ご無事で何より。して、問いたい事があるのだが?」
王が質問を述べた。
しかし正確には、リアーナ王妃と視線を合わせて思考を汲み取り、訊ねたのだ。
そして、問われた少女が返答する事で、話し合いが始まる。
「はい。お願いします」
「うむ。そちらに控えている令嬢はどちら様かな?」
「お答え致します」
少女がそう言った瞬間。
乙女の声が、少女の言葉を遮る。
「イヴ、私が答える」
「で、ですが」
「良いの。私の方が早い」
王の御前で会話をする少女達。
結構な不敬で、リアーナ王妃が注意しようとしたが、王様はそれを手で遮って止める。
王様としては、得体の知れない違和感を感じたので止めただけだが、お陰様で1つ面倒を避ける事に成功した。
そして、乙女は敵意を隠す事も無く、話し始める。
「まず、私の名前はフユ。黒龍の眷属の白龍。黒龍からの命令で、この子の言葉には従う。でも、私はあなたたちを信用していないから、好きにさせて貰う」
完全な喧嘩腰で薄ら笑いながら、いわば宣戦布告をしてみせる。
「な、なんだと?」
王様は戸惑い、リアーナ王妃は絶句している。
しかし、乙女は口を噤む事は無い。
「後で話がしたい。私は訊きたい事があるけど、この場では話さないから、質問は無駄。あと、戦争についてはイヴが判断した事。でも、文句があるなら私に言って」
次々に情報が飛び出し、慌てふためく王様。
辛うじて立て直したリアーナ王妃は、大事な事を問い掛ける。
もう既に、王の前、等と言っている場合では無く、建前も忘れて論戦になってしまう。
「では、あなた様が白龍だと言う証明は?」
「へえ?疑い半、信用半分って所?おっと。それは、そうだよね。騎士達に確認しても良いし、なんならここで龍になろうか?城、壊れるけどね」
リアーナ王妃は、引き笑いながら断る。
乙女の表情を見て、冗談でもやってしまいそうな雰囲気を感じ取り、嘘では無いと理解した。
なので、切り口を変えて、少女に質問する。
「で、では、イヴ様に質問です。フユ様は信用して良いのですか?」
「は、はい!黒龍様の御使いであります。また、白龍の姿は視認しています。これも事実です」
「な、成る程」
王様と王妃様は目を合わせ頷く。
そして、王様が口を開く。
「よく理解した。さて、イヴ様とフユ様には訊きたい事があるので、レイエン侯爵よ。そなたは1度任を解く」
「はい!失礼致します」
軍団長が去ろうとした瞬間。乙女が、またもや告げる。
「イヴにも話せない事がある。だから、私だけにしてくれる?」
「そ、それは」
「何故ですか?」
「私が、あなたたちに、話があるの。聞き入れてくれるでしょ?」
もはや乙女は笑っておらず、厳しい表情で脅している。
不穏な空気が漂い、軍団長は恐れてこの場を去った。
少女は慌てて、どうやって諌めようかと悩むが、乙女の怒りが理解出来ず、台風がこちらに来ない様に、祈ることしか出来ずにいた。
「り、理解した。リアーナも構わんな?」
「は、はい」
「うむ。申し訳無いが、イヴ公爵よ。1度お帰り願う。また追って呼ぶかも知れぬので、邸宅に居て下さい」
「失礼します」
少女も去り、この場は3人のみとなった。
人が居なくなったのを確認した乙女は、一切の敵対心を隠さずに話し始める。
「さて、まず一つ目。あ、先に言っとくけど、嘘はやめてね?最悪、この国滅びるかもしれないからね」
「う、ぬう。理解した」
「イヴは黒龍。何故、あの子はその事を知らないの?」
「そ、それは」
「イヴ様はある戦に出陣していました」
「リアーナ!?」
「駄目です。嘘は吐けません。何かは判りませんが、嘘を見透してますね?」
王妃が問えば、鼻で笑う乙女。
答えとも言えない言葉で、乙女は答える。
「さあね?あなた達が判り易過ぎるんだよ?」
「‥‥‥続けます。戦からお戻りした際に色々と忘れていました」
「へえ?何故教えてあげなかったの?」
「国の為です」
王妃の答えに、最大限の嫌味を込めてかつ、簡潔に問う乙女。
「あの子よりも国の?」
「申し訳ありません」
「私はあの子の為に全てを尽くす。その過程で、竜聖国が敵になるなら容赦はしない。その上で、その答えで良いの?」
再確認の意味を込めて問う乙女。
言葉の意味全てを理解した王妃は答える。
「はい。全て私のやった事です」
「り、リアーナ」
「陛下。お黙り下さい」
覚悟を決めて王妃は語る。
その反応を見ながら、乙女は1人溢す。
「そんな事を考えて喋るんだ。嘘は無いし、悪意も無く、国の為。でも、事実はある。結果的にそうなっただけ。疑問は残るけど、イヴから盗めないなら仕方ないか」
「なので、私だけを」
王妃は目を瞑り、頭を下げて歯を食いしばる。
しかし、乙女は笑いながら否定する。
「いや、やめやめ。色々あったみたいだし、本当の事を言ったし、許そうかな。あ、でも、私のお願いを聞いて欲しいな」
「な、なんでしょうか?」
「私をイヴの側に置いて。国の権力で。勿論。やってくれるよね?」
「陛下?」
「了解しました。どうか、お許しを」
「うん。良いよ。あの子さえ裏切らなければ私は怒らない。だから、それだけは忘れないでね?」
怒り顔の乙女はどこへやら。先程の雰囲気は消し飛び、今は笑う。
王様達は、ただただ苦笑いを浮かべるしか無い。
乙女は王の御前を去る。強烈な存在感を残しながら。
今回軍団長は何もしてませんね。
おや?もう1人居る?
えっと。国のゴタゴタが終わってから、少女の話が進む予定です。
悲しき主人公。
ごめんね。必ず出番作るから。